2013年度森基金成果報告書

研究題名:郊外の住環境を保全・継承する地域制度づくり

 

所属:慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程

氏名:原 悠樹

学籍番号:81049231

E-mail: satty@sfc.keio.ac.jp

 

I. はじめに

 本研究は2011年〜2012年鵠沼地区の市民組織と御所見・遠藤地区の植木業の協働による「地産地生」プロジェクトを踏まえて、湘南地域の緑の計画・事業推進の核となる新たな中間支援市民組織を立ち上げ、その事業運営を通じた地域制度の仮設と実験、地域制度に対する自治会・市民組織からの受容態度・認識・課題の調査・整理、そして地域制度の定着に必要な事業改善と実践というサイクルを回してゆく事を目的として進められた。

 

 

II. 申請研究に於ける実践成果

 第一に、研究申請時に掲げた調査事項を確認する。

 

○研究1.各地域の植生・歴史に関する文献調査・現地調査・市民組織や行政等関係者へのヒアリングと、事業設計と各参加者の認識・計画推進の妥当性と因果関係を調べるAction Researchを用いて、湘南の旧別荘地にて強い海岸林づくりを進める抵抗性クロマツの普及手法の研究

○研究2.地域性種苗の文献調査・現地調査、市民組織・関係者へのヒアリングと各主体の事業に関する文献調査、教育教材の設計とAction Researchによる教育活動実施と反応評価を用いて、住景観×津波防災×生態系を充たす広葉樹の森づくりと防災教育の実験研究

○研究3.神奈川県・藤沢市の法制度に関する文献調査、市民活動による郊外住環境保全に関する文書調査・関係者へのヒアリング、Action Researchによる法制度設計に関わる調整の実態把握を用いた、県保安林制度運用、市風致条例改訂・街並み百年条例策定等の制度改訂等、郊外住環境保全に資する法制度改善への実践研究。特にこの事業では風致条例改訂・街並み百年条例制定の運用主体となる自治会との交流を通じて、市民組織を主体とする中間支援組織の1, 2, 4.の活動と、法制度の改善を契機に整合性を取る事ができるのか、事業や会議を設計する事前調整に於ける情報交換等、Action research, 参与観察を通じて詳細な組織運営を考察する事に重点を置く。

○研究4.仙台市井土地区の津波被害線・河川遡上に関する現地調査、震災前後の衛星画像の解析と、被害状況調査データ(森林総研編)を組み合わせた津波の河川遡上シミュレーションの作成と漂流物捕捉効果を高める盛土・植栽方法の研究に基づくシミュレーションモデルの、藤沢市への適用結果に対する盛土・植栽計画の設計

 

 第二に、成功した研究と失敗した研究を整理する。失敗した研究に関しては、研究2における防災教育の実践と研究4.である。研究2.の失敗要因は、協働事業者との交渉の中で、津波防災を活動の主目的へと高める事ができず、協働が打ち切られた為である。この失敗からの教訓は、3.11を教訓としても、湘南地域に於ける津波防災への意識は不安が高まるのみのみである事、また教育組織では津波防災が主目的とはならないので、活動を組み込む事は非常に難しい事、既に完全なパッケージを有する防災事業者との協働は可能な一方、地域からの漸次構築する事業は負荷でしかなく協働は構築不可能である事、津波防災は不可能であるとの認識から一切の事業連携を行わず、明日必要な現業務に集中し、津波防災事業の追加を業務上の厄介事と認識する市民も多く存在する事、津波工学研究者に過度に依存する法制度体系が構築されており、地方自治体担当部署は介入せず、一方で独自に津波工学研究を実施し、更にはそのいずれの研究も精確に予測する事ができないという地震学者の見地が共有される事、津波防災の主要対象が住民となり、その他観光客に対する津波防災事業は後回しとされ、しかもその事業権限が住民に担わされている事等、津波防災が各種組織に普及されない非常に複雑な数多くの要因が理解された。

 研究4.は純粋に調査費用不足により、調査道具・研究資料/データ購入費用、出張費用が捻出できず、失敗に終わった。また津波工学・森林学/海岸林学に於ける協働研究の状況、津波工学の限界が明らかになった上で、湘南海岸での実験を先に行う必要性が明らかにされたが、調査協働体制の構築と調査費用の確保が必要とされ、2013年度内にその体制を整えられなかった為、来年度への問題解決へと引き継がれてゆく事となった。

 

 第三に研究1~3の成果を整理する。まず本申請研究の基盤となった査読論文が通過した

『原悠樹 (2013) 海岸防災林に係る広域行政計画の領域内/間に於ける調整に関する研究―神奈川県湘南海岸砂防林を事例として 日本都市計画学会都市計画論文集、Vol.48, No.3:657-662

 この研究は3.11以降の湘南海岸砂防林にかかわる行政法制度の制定動向を見たが、これまで湘南海岸砂防林を運営してきた行政法制度と維持管理作業の位置付け等を森林・都市計画・防災の領域毎に明らかにし、公園緑地を含む都市計画を中心に活動を行うことが、市民による津波防災事業に最も着手し易い入り口である事が理解された。この結果を用いて、湘南緑の連絡協議会を研究プラットフォームとする本研究の基礎価値を明確に位置付ける事となった。

 

 研究1. では2012年度に植栽した抵抗性クロマツは多くの問題が明らかにされた。ひとつは指定管理者担当の公園では主要事業に組み込めない為、市民組織が維持管理に参加できるように体制を整えなければ、植栽しても枯損するばかりであった。2013年度植栽では、2014年度からの維持管理作業に関して協議し、水遣りに参加できる体制を整えている。また街区公園に於いては近隣住民・利用者の中の不特定者がクロマツを抜き去ってしまうと言う事から、維持管理作業に強制力を持たせる事または市民の日常の監視力を高める為に、近隣利用者である幼稚園・小学生、その保護者、他熟年層住民等、カテゴリーを分けて文面を変えた広報を行い、全体の認知度を高める事が必要とされる事がわかった。しかし同時に、植栽する事が地域内住民間・行政間の不和を齎す可能性も明らかになり、対象地域に於ける市民の政治関係・自治熟度、植栽主体に対する地域からの受容度・社会全体に於ける事業優先度の向上等の事業が必要とされる事がわかった。

 抵抗性クロマツは海岸林としての津波防災能力に関して喧々諤々の議論が行われており、五大新聞にも各種論説が掲載される等、半信半疑の状況が継続している。そのため、研究4.が最優先で必要とされているが、その研究は遅々として進んでいない。これは津波工学研究の手法上の困難性に基づくが、その困難性を無視して作成された各種法制度に依拠する行政連関が確立してしまっているという要因にも基づく。しかし一方でクロマツは、藤沢市の木として広く認識され、その保存と更新が強く望まれており、藤沢市長・藤沢副市長と藤沢市公園みどり課としても、抵抗性クロマツを藤沢市の産業として確立したいとの要望が存在している事が、公園みどり課担当者からの話で明らかにされた。この産業・文化の更新と発展を強調・重視した戦略をとる事で、藤沢市内での抵抗性クロマツの普及事業が進められている。そのひとつとして、抵抗性クロマツ生産体制の構築が行われている。抵抗性クロマツの挿し木繁殖実験は既に報告されおり、詳細な系統種類毎に実験が行われてきた。しかし静岡県山林種苗協同組合が販売している抵抗性クロマツは系統種類の別無く生産されており、そして神奈川県山林種苗協同組合はその静岡県産を流通しているのみである事から、既往研究のように詳細な実験を行う事はできない。逆に地方自治体・不動産業者・建築事務所等は抵抗性クロマツに対する生物学研究の深化よりも維持管理コストの低下やクロマツの形・仕立て等、造園事業の充実と経済効果を優先する事から、静岡県産抵抗性クロマツを利用して繁殖実験を行う事が妥当であると考えられた。そこで2014226日に抵抗性クロマツ62本を三種類の発根促進剤に分けて挿し木を行い、2014年度内の実験とその成果報告を行う事を予定している。この三種類の発根促進剤は一般に購入できる薬剤を用いており、その比較実験は抵抗性クロマツに対して行われた事が無いため、抵抗性クロマツの繁殖を一般に普及させる為の貴重な研究成果として期待される。

 

 研究2.に関しては、横浜国立大学教授時代の宮脇昭氏が調査した潜在自然植生に関する資料を元にして、湘南緑の連絡協議会に所属する会員の関係者と各市民組織の学習会に於ける植生学習、藤沢市内の20137月の挿し木イベント、11月の実生イベントでの調査・実践を通じて、地域での普及に適した地域性種苗を確認した。しかし湘南緑の連絡協議会の活動拠点である江の島の詳細な地域性種苗調査は調査費不足により実施できなかった。教育教材の作成は、江島神社・日本大学演習林長井上公基教授の協力を得て、江の島の植生勉強、日本大学演習林でのカブトムシ探し・しいたけ林の散策・地域性種苗のポット作りを行った。広報の限界から協議会会員の伝手を頼り可能な人員を動員したが、NPO法人すなやま園と砂山児童館の小学生の参加を得て、大変好評を獲得した。2014年度も継続して環境教育に関する事業を行うと同時に、イベントで作成したポット苗を植栽する作業までを一環として行えるように準備している。

 協議会参加市民組織にかかわる斎藤健夫県会議員の紹介により神奈川県藤沢土木事務所との協議が実現し、7月からの協議を経て、事務所公園課との協働により湘南海岸公園の緑地維持管理作業と環境教育の実施が決定した。(株)湘南なぎさパークでは平成27年度からの湘南海岸公園指定管理入札に向けて事業計画書と予算作成を作成しており、2014年度4月からの事業実施へと準備を進めている。また20144月から毎月1度の連続講座を開催する為の講師・教材の準備と、実施場所の確保、事業広報を進めている。湘南海岸公園に於ける事業の内。砂防柵の作成に関して、慶應義塾大学SFC中島直人准教授が関係している健康の森の実施計画に於いて中心としての役割を担う、そして七夕祭実行委員が事業提携している遠藤竹炭の里(会長:斉藤清次氏)から竹材を提供していただく。その対価として、竹林管理への参加も行われる。同様に湘南海岸公園の事業は、地域の幼稚園・小〜中学校や市民サークルに対する環境教育イベントと連携しており、201411月には鵠沼遊友会との環境教育イベント、秋(時期未定)の神奈川県自然保護協会学習会の実施が決定している。湘南学園中等部には各種イベント情報の配布と学生の参加を呼びかける事も決定している。

 湘南緑の連絡協議会では津波防災も主要活動テーマに掲げている事から、海・水に対する活動展開が必要とされていた。この中で201429日に開催された平成25年度相模湾海辺の環境学習ネットワーク会議(神奈川県政策局自治振興部地域政策課担当)に於いて、10年前から藤沢・茅ヶ崎・平塚・大磯に跨りビーチクリーンや歴史建造物保全活動を推進してきた市民組織や、NPO法人ディスカバーブルー(横浜国立大学水井涼太氏)との交流を深める事で、湘南海岸・相模湾の海洋生態系に関する学習会の充実を企図している。この水の繋がりは、同時に茅ヶ崎市・平塚市・大磯町に於いても海岸林・住宅地景観の象徴とされているクロマツが消失している危惧に対して、藤沢市を拠点とする湘南緑の連絡協議会の抵抗性クロマツ生産・普及事業の横展開へのニーズを獲得した。これにより、環境学習が海岸林の復元を通じて抵抗性クロマツに限定した植木生産・販売というシステム構築への足がかりを発見できた、との成果を獲得したと捉える。

 

 研究3. に関して、20135月から藤沢市街なみ景観課との協議が始まり、都市計画課も参加し、鵠沼地区六自治会住民協定勉強会、鵠沼の緑と景観を守る会、鵠沼景観まちづくり会、慶應義塾大学政策・メディア特任助教高橋武俊氏、そして湘南緑の連絡協議会より筆者が参加し、20141月まで鵠沼地区住民協定合同勉強会が4回開催された。この間に藤沢市風致条例に関する合同勉強会、各町内会・自治会に於ける住民協定勉強会開催、市民組織と行政担当部署との合同勉強会等、各種活動が進められてきた。この中で湘南緑の連絡協議会として参加した筆者は、これまで断絶していた組織間の情報交流を繋ぎ直し、地区全体としての事業運営にハブとして働く役割を果たしたが、一方で住民協定合同勉強会の成果は住民にとって多くの課題を提出したにとどまり、その内容は添付資料に掲載したものでさえも一部とされる。2014年度からは藤沢市風致条例・街ない百年条例の施行となり、その運営と具体化に対して、ハブ機能を果たす事が決定しているが、行政内部の事業引継ぎ業務への参加、研修資料の作成、各種法制度の学習等、都市計画の範疇を超えて多岐に渡る法制度に関する学習会の設計と、その知識の普及・広報事業を担うまちづくりセンターの構築が必要事業として行われる事となった。

 このまちづくり事業では、法制度設計活動のみならず、現在の不動産事情、住民の暮らし方に適した新たに造園技術と造園ビジネスが必要とされている。この設計・実施の為に、研究12で行われてきた活動を発展させる事が必要とされている事から、2014年度は他自治体での造園技術と都市計画の連関に関する研究、とりわけ海岸林を有する観光地である京都府天橋立や長崎県虹の松原を研究し、その技術と法制度の知見整理を元にして、湘南地域の個性を作る戦略を発掘する事が湘南緑の連絡協議会事業目標の一つとして掲げられる事となった。

 

 

III. 実践から研究へ

 本研究は、「緑の地域計画と実施事業を設計・推進する中間支援組織を立ち上げ、植木業との協働による住環境保全と緑地面積の増加に資する地域制度の実践的開発」を目的に掲げる。本研究ではプラグマティズムに基づくアクション・リサーチを用いて中間支援組織の設立から市民活動の推進という時系列の活動変遷を中心議題とする。都市計画の領域でワークショップや市民参加による都市計画マスタープラン策定では、アクション・リサーチと明記されていないものの、研究者が参画する事で現場からデータを取得する方法を用いている。

 都市緑地は領域により異なる定義を有する状況にあるが、その保全に関する計画理論・土地利用構造・設計技術の研究が進展する一方で、市民組織とその活動に焦点を当てる緑のまちづくりは、行政計画を基点とした活動設計と実施、都市開発に対抗する緑地保全運動の実態、震災復興に於ける住民の心のケア、市民農園の変遷、まちづくりを支援する行政の情報戦略、花フェスを契機とした市民組織間の交流等に限定されている。既往研究の知見に基づくと、緑のまちづくりは人々の繋がりを生む契機であり、定年退職後の個人のやりがいを見つける場として機能する一方、地域に根ざした住民活動とは異なる愛好家の集団として地域に貢献する為の基盤が整っていない事が指摘されている。この為、地域制度の実践的開発は、市民組織と地域の住民活動を結びつける取り組みを明らかにする意義を有する。この為、筆者達が立ち上げた中間支援組織は、行政・住民組織・市民組織・研究者・企業の中核に位置し、各組織間を結ぶ事業を推進すると共に、各組織に対して事業から得られる利益を配分する為の装置として機能する。中間支援組織による活動展開は、既往研究のまちづくりプロセス設計を参照して枠組みを構築する。

 この実践研究の前段階として対象地域の概況、住民組織の地域活動、各市民組織の歴史、、市民組織が地域の中で果たしている役割、組織間の相互関係、組織設立の決定要因を整理する。そして組織設立以降の活動の変遷に関しては、地域住民が必要としている商品・サービス、組織編成、組織内協議による活動設計、外部組織との交渉と担当者意識、活動対象地の所有者/計画策定担当者/維持管理者の権限、活動の成果・失敗要因・次の課題を整理する。

 本研究の実践成果の一部は上述の通りである。中間支援組織「湘南緑の連絡協議会」は、神奈川県自然保護協会、川名フォーラム、鵠沼景観まちづくり会、鵠沼の緑と景観を守る会、湘南の散歩道をきれいにする会、藤沢市自然環境懇話会によって設立された。「鵠沼・片瀬地区で緑のまちづくり活動を活発に推進している組織が集まってできた」という住民の言葉に示されるように、鵠沼・片瀬で約20年間、緑のまちづくり活動を推進してきた組織により構成され、下表のように異なる得意領域と担当活動に従事している。

 

組織名

得意領域

担当活動

神奈川県自然保護協会

県自然保護活動の情報交流

研究者との交流

川名フォーラム

川名緑地の保全

緑化、広報、行政との交渉

鵠沼景観まちづくり会

鵠沼地区の住景観保全

住民協定締結・協定勉強会開催

鵠沼の緑と景観を守る会

緑化活動、文化財保護、広報

緑化、広報、協定勉強会開催

湘南の散歩道をきれいにする会

緑地の維持管理・剪定、講習

公園緑地の維持管理、講習

藤沢市自然環境懇話会

藤沢市内自然保護活動の情報交流

緑化、行政との交渉

 

各組織は得意領域の活動を充実させてきた事から、湘南緑の連絡協議会の活動にも得意領域を生かして参加する事となった。しかしこの分類には、異なる主義・主張も入り混じっている事から組織間の対立が存在している事、またこれまでの活動の履歴から参加者間の不和が生じている事も要因として作用している。

 植木業との協働による住環境保全は、前著にその初動期の取組み概略を掲載したが、本研究はその市民活動の延長線上に存在する。藤沢市北部の植木業組合と南部の市民組織を結び、従来とは異なる緑化・植木産業の事業方法を展開する目的で中間支援活動を行ったものの、植木業者は市民組織ではなく、市民組織への緑に関する教育を行い、地域の需要と植木売買のとりまとめを行い、植木業組合には負担が無い組織の設立を信頼の拠り所としていた。この為、新たな組織は将来地域と植木業の取引をまとめる役割を有しているが、一方で市民組織は単に植木を商品として購入するのではなく、サービスとして緑のまちづくりに知見や解決策を提供する事が必要とされる中、現状の組織体制・活動を発展させる為の方策がひとつも得られなかった事から、植木業組合との協働は中止する事となった。その為、湘南緑の連絡協議会では、サービスとしての緑のまちづくりを提供する事が優先された。実践成果を通じて得られた緑のまちづくりが必要とする技術は下表のようになり、協議会構成員は各人の得意技術を以って分担しているが、筆者は全業務を担当している。鵠沼・片瀬で必要とされている

 

分野

内容

繁殖

海岸の砂草類繁殖は活動あり。江の島の木本類繁殖は初めて。数年後、藤沢産抵抗性クロマツの実生苗生産を予定

保全

藤が谷公園、西方公園、湘南海岸公園、川名緑地、松が岡五丁目緑地、湘南海岸砂防林、弁天橋、長久保公園、堂面第二公園、

購入

抵抗性クロマツを静岡県から。在来クロマツを藤沢土木事務所から

生産

造林用抵抗性クロマツを都市園芸品種として購入・養生
藤沢市植木業の再興に向けて圃場獲得

流通

繁殖した苗木を運ぶ事。植木業の仕事。

植栽

苗木を植栽する事。苗木を配布する事。

再利用

住宅地内の緑の移植、挿し木・接木による保存。

維持管理

湘南海岸公園の維持管理作業。剪定・薬剤散布・枯損枝/木の処理等、樹木の健康管理。植栽した抵抗性クロマツの春・冬の剪定・もみ上げ。植栽の水やり

科学研究

樹木再利用。津波防災に向けた1971年以降はじめて根系調査。都市公園である湘南海岸公園の昆虫調査。都市市民でも出来るクロマツ挿し木実験

商品開発

都市のまちづくりが求める景観整備活動に対して効果を有する商品販売と地域市民の参加拡大の方法を組み込んだ商品販売方法の開発
抵抗性クロマツを用いた松葉酒、松入浴剤、松の実販売等を展開。湘南銘品製造へと取り組む事で、住宅地での景観整備の道具を提供

環境学習

地域資源植生繁殖。鵠沼市民センターに実生苗木の苗木ポット設置・モニタリング。相模湾・湘南海岸・江の島の海洋生態系を調査。市民組織での学習会で講義

砂防柵作り

藤沢市北部健康の森を管理する遠藤竹炭クラブの協力により獲得した竹材で湘南海岸の砂防柵作り、その講習

都市計画活動

住民協定整備、まちづくりセンター運営、広報誌作成

造園

地域資源植生を用いた景観整備技術・商品・サービスの開発、販路の開拓、広報の作成

市場整備/広報/
マーケティング

生産した地域資源植生を購入したいと考える消費者をターゲッティングし、最も必要とされる商品を理解し、消費行動を取る為に必要な販売・運送方法を構築する事で、購入行動を左右する

研究環境整備

慶應大学、東海大学、東京都市大学、日本大学、横浜国立大学、明治大学との連携を可能とする為の資金調達・地域関係者調整・情報交流

 

緑のまちづくりは、住景観保全・生物多様性復元・津波防災減災をかねたものである。その為、防災・公園緑地を含む都市計画・農政を含む森林に区分して、各行政部署の取り組みを把握した上で、緑のまちづくりを進める事が可能な領域から活動を着手する事とした。この成果が査読論文となった。

 ここで紙面の関係上、論文に掲載できなかった知見を解説する。防災領域は国から市町村まで法制度・計画が緊密に構成されているが、最も基本に据えられた津波浸水予測に関する津波工学研究は、全て研究者に委任されている。しかし津波工学研究者は就職の口が非常に少なく、研究基金を集中できるという利点の反面、安定して研究を続ける事ができず、40歳代でも助教の地位である事が多い。神奈川県では津波工学研究者がおらず、静岡県では静岡大学が2012年に初めて津波工学研究者のポストを設置した。森林領域のトップである林野庁は、海岸防災林の自然環境は日本各地で全く異なる為、一律の法制度を整備して統率する事はできず、関連都道府県に委任するという姿勢を取っているが、津波工学に於いても海底地形・海岸防災林・陸上地形・河川・構造物等、非常に複雑且つ地域によって全く異なる状況が存在している。この現実に対して津波工学研究者が少ない事は、中央官庁の全国計画から各臨海都道府県の防災計画までが市民の不安に対して早急に立案される必要に対して、基礎研究が進みにくい事が理解された。また森林学/海岸林学では、湘南海岸砂防林のように都市緑地への研究に参加できない理由として合意形成の難易度が示された。これは他海岸防災林の前面の海域が遊泳禁止であり、後背地は農業と住宅という限定された土地利用に基づき、合意形成を短縮できる一方、湘南では県から市町に掛けて商業・観光・津波防災・道路・福祉・景観・環境・森林・海岸・砂防・河川の間で指針を示し、各部署の調整を行い、計画を策定して、実施事業を進める必要があり、森林学/海岸林学研究者では対応不可能という認識に基づく。この大学に関わる問題と解決策に関する私見を述べると、文部科学省からの助成と大学からの新コース設計提案・助成金申請に於いて、慶應大学での都市計画・観光、東海大学での観光・都市計画、横浜国立大学での海洋、日本大学での森林・造園、東京都市大学での海岸防災林、湘南工科大学での構造を取りまとめ、最低人数として2名の津波工学研究者と各領域と結びつけるプラットフォーム設計研究者を1名を雇用し、その運営を慶應大学が担当する方法が考えられる。このプラットフォームに関する根拠は県職員へのヒアリングであり、大学連携を行っても、何を進めて良いのか分からず、協定書が形骸化している状況を聞き、県が支援を準備しても提供する糸口が見えないという問題が明らかにされている。同時に、慶應大学病院設立が困難な現在、慶應大学を神奈川県の研究中心地とする事で、相鉄延伸により乗客数を増やし、相鉄への利益還元と言うメリットを提供する事が可能となる。最も重要なものは、プラットフォームの中心で各大学・行政・企業との調整を行う研究者にも雇用を提供する事である。現在市街化調整区域に立地する慶應大学では、研究者が実験器具を準備して研究を行う事ができない環境にある為、神奈川県との交渉を行い、研究機材の常設を可能とする為には、プラットフォームのハブ研究者が各研究の進捗を材料として交渉を担当する必要がある。さらに各研究が地域生活に密接に関連している事を広報する為に、湘南海岸・海岸防災林に関する市民組織・行政の講座・発表会・展覧会等との連携を深め、各種パネル作成を行う。最も重要な事は助成金終了後にも3名の研究者の雇用を継続する資金―年800万円/人として2400万円―を確保する事であるが、大学の資産を増やす為に必要不可欠な10年間の投資と考える。助成金付与の5年間(仮)は、研究資材の準備、教材・授業の準備、学生の指導、各種研究の交流・調整、新たな研究領域の開発に試行錯誤する期間に当てられる。そして、この成果が広く県下市民に受け入れられるには、理論を実践に落とし込む調整も必要とされる。しかし、この研究と広報が社会へのインパクトを提供する事で、初めて社会と共に将来を創る大学の真価を高められ、大学教育への期待と新たに学者を目指す学生が自ずと集まってくると考えられる。

 上表に纏めた緑のまちづくりの体系の通り、湘南緑の連絡協議会では各種作業を推進しており、2014年度の湘南の実践活動を設計している。東海大学加藤仁美教授・慶應大学中島直人准教授との調整に基づく藤沢市鵠沼地区景観まちづくりの推進、東京都市大学吉崎真司教授・日本大学櫻井尚武教授への依頼よる海岸の飛砂・飛塩量測定と森林の土壌生物・微生物に関する環境研究と環境教育教材作成、明治大学倉本宣教授への依頼による江の島地域性種苗の植生調査と環境教育教材作成、横浜国立大学水井涼太講師への依頼による江の島での海洋生物調査と環境教育・教材作成を推進する事で、湘南地域に於ける科学研究基礎を作成する。同時に苅住(1971)以降、湘南海岸の植生の根系調査が行われていない事から、現在の植生と根系調査を行い、海岸防災林の再生に関する検討会最終報告書や各種海岸工学研究との比較から、湘南海岸に適した海岸林整備の方針を作成する。そして今後40年間に渡り海岸に植栽した広葉樹林の成長管理と、間伐適期を過ぎた樹木の管理方法を研究する為に、広葉樹林を整備する事が次年度の業務とされる。

 また地域住民が必要とする緑のまちづくり技術として、行政との住民協定・街なみ百年条例実施計画策定を担保する為に、京都をはじめ伝統造園技術に関す先進事例視察と講習会実施する事が必要とされる。また現在筆者が藤沢市御所見地区の植木業者から借りている圃場約20uは抵抗性クロマツ82本とその他資材置き場として利用しているが、今後増産を予定している事と水道が無い事で作業効率が下がっている事から、よい良い圃場を借りる為に地域の耕作放棄地や未利用地を求めて交渉を開始する必要がある。

 

 

IV. 財源と研究

 しかし最大の懸念事項は資金不足である。本申請研究の決算総額は520,139円となった。その中で、大学院プログラム費・他研究室研究支援金の援助を考慮しても、154649円は私費負担となった。20135月申請時の支出項目の記述が非常に甘かった事を確認した上で、実践研究の展開と共に当初の計画以上に活動の拡大とその成果が生じた事に伴い、財源不足に陥り、当初予定研究を実施する事が不可能となった。上記計画の推進を可能とする体制が整い、また上記科学研究の推進が更なる発展に不可欠な状況で、資金不足に陥る事は、活動の停滞を余儀なくされる。今後、より多くの助成金申請を行うと同時に、自主財源を確保する方法を検討する必要がある。

 

 

V. 別途資料

1. 湘南緑の連絡協議会 説明資料、約款、外部との協働に向けた活動計画書/報告書

2. 2013年度森泰吉郎記念研究振興基金研究助成金申請書原本