2013年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究成果報告書

学籍番号:81249206

政策・メディア研究科 博士課程2年 生田 泰浩



0.
森泰吉郎記念研究振興基金:研究題目
 ウクライナにおける政治とメディア―「ティモシェンコ問題」を事例に―


1.
はじめに
 今回、採択していただいた基金によって、本研究のフィールドであるウクライナで現地調査を行うことが出来た。調査は201391日から1223日の期間に行い、現地での政治とメディア
との関係性について大変有意義な知見を得ることが出来た。今後の研究に活かしていきたい。


2
.研究内容

2-1.研究題目
 ウクライナにおける政治とメディア―「ティモシェンコ問題」を事例に―

 

2-2.研究概要

 本研究では、ウクライナにおける政治とメディアの関係性について、2011年の逮捕、収監以降現在まで国内外から注目を集めている「ティモシェンコ問題」を通して考察する。具体的には、この問題をメディアがなぜ、どのように報道しているか。また、その内容と政治がどのように関連付けられるか、ということに関して考察を行うことで、ウクライナにおける政治社会、メディア双方の問題を批判的に分析する。

2-3.
分析手法

 メディアがこの問題を日々大きく取り扱う理由は、当然商業ベースの収益をあげる為であることも要因の一つであることは疑いないが、ここではそれ以外の要因について考察した。また、調査対象期間は2011年のティモシェンコ逮捕前後から可能な限り直近の2013年までとした。

・第一に、各メディアによる報道内容と姿勢を分析した。その際、欧米のプロパガンダ的な側面、野党の主張の正当性には批判的な検討を行うことが出来た。特に、西部を中心としてウクライナ・ナショナリズムを強調する政党「自由」やティモシェンコ不在の「祖国」、野党大一党となっている「ウダール」など反政府勢力の論調とその報道に対しては、EUとの連携、民主化、民族・言語問題などの諸争点を区別して吟味するべきとの問題意識のもと、現地へ赴いた。
(滞在場所/日本、期間/4月〜8月)
・第二に、なぜ「ティモシェンコ」の逮捕が問題であり、かくも日々報道対象となり、議論を巻き起こしているのかについて考察した。この点については、政治社会問題から外交、安全保障問題への拡大を含めた本質的な問題と、国内政治とメディアの結びつきによる「政治ショー」的な戦略要素が見られた。ただ、実際に現地の有識者や専門家にとって、この問題はまさしく「ヨーロッパ選択」の一つのファクターとして、すでに象徴的意味合いを持つに過ぎない。つまり、「政治ショー」としてはメディアに取り上げられているが、社会的な争点の本質はもっと大きな事象に置かれている、という興味深い示唆を得た。
(滞在場所/ウクライナ、期間/9月〜12月)
上記プロセスで行った調査をもとに、メディアがどのような意図で、どのように報道しているのかについて分析をまとめた結果、ウクライナの政治とメディアの関係は、すでに従来からの既存メディアとインターネットやSNSメディアとの分化が起きており、市民社会レベルでは政治の及ばない影響力の行使が可能となっていることが判明した。このメカニズムについては今後も分析を進めていきたい。
(滞在場所/日本、期間/12月〜3月)


3.
研究の意義・今後の課題

 本研究のフィールドであるウクライナでは、201311月末から大規模なデモが続いている。これは現政権による「EU選択」からの方針転換に端を発したものであるが、本研究で扱ったティモシェンコを巡る議論も間接的ファクターとして反政府デモの要因の一つとなっている。まさしく、この問題がこれまでどのように扱われ、そして現在に至ってどのような変化を帯びているのか、その継続性について検討することは、ウクライナならびにヨーロッパやロシアを揺るがす大問題となっている現在の事象を理解する上で、とても有意義だと考える。また、我々が意識的、無意識的を問わずアクセスするメディアは国内外に大きなインパクトを与え続けている。加えて、フェイスブックやユーチューブなどのいわゆるソーシャルネットワークの浸透によって、即座にデモが組織化され、暴力的行為は容易に市民に知れ渡ることとなっている。これによって、我々外国人でさえリアルタイムで状況が把握できるようになっている。同時に、こういった情報ソースは従来の新聞やメディア報道では知ることのできなかった「一般人の感覚」「社会の温度」を帯びている。このような視座は、実際に現地で調査することによってこそ得ることが出来たと実感している。今後、政治とメディアの関係性については、このような観点から考察していくことも重要ではないかと感じている。


4.
おわりに
 今年度は森泰吉郎記念研究振興基金をいただいたことで、現地調査も可能なり、有意義に研究を進めることができた。本当にありがとうございました。2014年度は、本基金によって得られた知見を活用し、アウトプットしていく機会にしたい。