2013年度森泰吉郎記念研究振興基金研究成果報告書 - モバイルネットワーク高信頼テータ転送プロトコル

政策・メディア研究科 中島 博敬

研究概要

近年増大するスマートフォンによる携帯電話回線の圧迫のため,公衆無線LANを用いてオフロードを行うことが多い.無線LANは携帯電話網に比べカバレッジが狭く,列車などで端末が移動する場合,切り替えのため通信が行えないことが多い.複数のインターフェイスを用いて通信を行う手法としてSCTPがあるが,NATやファイアウォールが多用される無線ネットワークにおいては適用できない.本研究では,IPによるEnd-to-Endの通信を実現するため,IPパケットをSCTPパケットでカプセル化し,それをUDPパケットでカプセル化するIP over SCTP over UDP Tunnelというシステムを提案する.本システムをスマートフォン・ソフトウェアスイッチに実装し,3G回線・無線LAN双方のネットワークをシミュレートし,評価を行う.加えて,インターフェイスの死活およびゲートウェイ間のスループット・遅延を考慮し,最適経路を選択するアルゴリズムを提案し,本システムにおいてそれを適用することにより,評価を行う.

本研究では,携帯電話網・公衆無線LAN網とインターネットの境界にゲートウェイを設置し,スマートフォンなど無線側エンドホストとゲートウェイ双方に仮想ネットワークインタフェイスを構築し,仮想ネットワークインタフェイスを経由するIPパケットをSCTPパケットでカプセル化し,そのSCTPパケットをUDPパケットで再度カプセル化し,転送を行うシステムを提案する.これによりエンドユーザが意識せずに本プロトコルを使用して転送を行うことが可能となる.図 1は提案システムであるIP over SCTP over UDP Tunnelの概要を示す.まず無線側ノードは仮想ネットワークインタフェイスであるvif0から通常通りIPによりデータを送信する.データを受信した仮想ネットワークインタフェイスはIPパケットをSCTPパケットでカプセル化し,それをUDPパケットでカプセル化し,ゲートウェイ宛に携帯電話網インタフェイスであるrmnet0もしくは無線LANインタフェイスであるwlan0を利用し転送する.送信側は必要に応じてSTUNやTURNなどのいわゆるNAT越え技術を用いて転送する.ゲートウェイではカプセルを解除し,最終的な宛先に転送し,通信完了となる.

本年度の研究成果

 本年度は, 提案するIP over SCTP over UDP Tunnelの実装並びに関連するMPTCPおよびQUICに関するサーベイを重点に実施した. 実装ではオープンソースのSCTP実装がないため, SCTPの実装を実施した. MPTCPについては論文およびIETF draftを中心にサーベイを行い. MPTCPに関する技術報告を実施した. 今後はQUICについてもサーベイを行い, 提案手法へのフィードバックを実施する予定である.

対外発表

本年度は以下の対外発表を行った.