企業の地方における障害者雇用創出に関する研究
~ 小売業の雇用実態からの考察 ~

研究要旨
国による障害者の雇用政策は、企業を取り巻く環境に大きな影響を与えている。平成25年に改正された「障害者雇用率制度」における雇用対象の拡大や、平成27年から施行される「納付金制度」の事業者の対象拡大など、企業における障害者雇用の対策は喫緊の課題であると考えている。また多くの企業は今後、障害者雇用を考慮した組織運営を迫られている。

本研究の目的は、地方における障害者雇用創出の可能性を明らかにすることであり、雇用を円滑に推進するための一助となることを目標とする。ここでの仮説ストーリーは、1)「地方」には就労可能な障害者が多くいる。2)「地方」に店舗や事業展開を行う「小売業」は就労能力の高い障害者を採用することが出来る。3)企業は就労能力の高い障害者を雇用することで、ワンステップずつ、障害者雇用におけるノウハウを蓄積していける。4)ノウハウを蓄積することで、より重度な障害者雇用推進にも積極性が生まれる。

上記1)と2)を本研究で明らかにすることで、その結果、3)や4)に繋がり、障害者雇用の推進に寄与できると考えている。
そこで本研究ではまず、『障害者』や『障害者雇用』を定義し、企業を取り巻く法制度や施策、先行研究の状況を第1章で整理した。第2章では、障害者雇用の現状と本研究で取り扱う『企業』『小売業』『地方』に関連する事項について状況を提示している。第3章では、小売業における障害者雇用の実態と、リサーチクエスチョン及び仮説を、企業アンケートにおいて検証し結果を得た。またアンケートでの不確定要素の補完と、質的なデータの取得を目的として企業インタビューを行い確証へと繋げた。そして第4章では、定量的手法と定性的手法を組み合わせた混合研究法(mixed method)によって改めてまとめと考察を加え、小売業の地方における障害者雇用の可能性を明らかにしている。

本研究で明らかとなった知見は以下のとおりである。

●地方での障害者雇用の評価を企業に対して行ったところ、「求人」、「採用」、「就労」の各事項において、都市部と比べて地方の評価は高いと言える。また「求人」と「採用」に比べ、「就労」における満足度が最も高かった。
●小売業で地方に店舗や事業所を展開している企業は、地方での採用が有効である。

キーワード
1.障害者雇用 2.地方 3.小売業 4.マッチング 5.合理的配慮

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
森川信宏