2013年度森泰吉郎記念研究振興基金研究成果報告書

政策・メディア研究科 修士課程2年 吉椿 薫 (81126049)
インタラクションデザインプロジェクト(IDP)

2013年度森泰吉郎記念研究振興資金を得て行なった研究活動について、以下の通りご報告します。

研究題目「Ding-Dong:ソーシャルな婚活支援システム」

【研究概要】

日本では晩婚化・非婚化が進み、少子化の主因である婚姻率の減少は深刻な社会問題である。「婚活しなければ結婚できない」とさえ言われる現在、数多くの婚活サービスが提供され利用者も増えているが、未婚率の減少には至っていない。かつて主流であった見合い婚や職場婚などのマッチングから、自由な恋愛結婚へと移行が進んだことによって、出会いから成婚までのプロセスが長期化しており、結婚の希望を叶えるには婚活者のモチベーション維持が課題となっている。しかし、婚活システムの多くは、プライバシー保護の観点から閉鎖的な環境での自助努力に依存したものとなっているために、婚活者個人の負担が重い。

そこで本研究では、婚活者間の関係性を見直し、他者からの支援が得られやすくなるよう第三者を介入させて婚活を行なうシステム“Ding-Dong”を提案する。婚活者のモチベーションの維持・向上と精神的負担の軽減を目的として、既に親しい友人のネットワークが構築されているSNS を活用した婚活アプリケーションを開発した。

さらに、現役婚活者およびその友人らで構成される“応援団”を対象として、提案システムのユーザー評価を行ない、婚活に第三者が介入することの効果を検証した。その結果、応援団の介入によって人物魅力の増大と意思決定のしやすさに結びつく可能性が示された。また、訴求ユーザーの推定を行なうために、将来結婚を希望する若年者を対象に実施した質問紙調査では、Ding-Dongに対して男性よりも女性の方が有意に関心が高い結果となり、訴求ユーザーに性差があることが明らかになった。

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The number of unmarried people in Japan has rapidly grown over the last twenty years, and the birth rate is constantly decreasing, causing a serious concern about the future of Japanese society. However, finding a partner is usually difficult, not only because young people are busy working at their jobs but because there are relatively few chances to meet potential partners. Kon-Katsu (“activities for marriage” in Japanese) is becoming popular these days among people who wish to get married. Kon-Katsu covers various activities such as registration in marriage consultation companies, participating in events for singles, and using partner-matching services. Although various partner-matching services are available on the Internet, finding a partner is still difficult because reading the various attributes and self-advertisements of potential marriage partners is not enough to find a lifetime partner.

We have developed an SNS-based marriage partner-matching system “Ding-Dong,” which makes full use of supports from participants’ friends. Using Ding-Dong, the partner seeker can understand what the partner candidate is really like by seeing the candidates’ everyday behavior and reading the “reviews” written by candidates’ friends. We asked active partner seekers for evaluation, and asked potential user for their expectation about Ding-Dong in order to find the effectiveness of the system and the scope of people to whom Ding-Dong is effective. The results have shown that the partner seekers appreciated Ding-Dong because they could find the participants' invisible charming points which were difficult to find without their friends' point of view. Furthermore, the result has shown that the system promoted quicker decision-making. We also found that Ding-Dong was significantly supported more by female than male users.

【Ding-Dongの設計指針】

Ding-Dongは、試作版でのインタビューで得られた意見を反映し、Facebookに埋め込まれて表示されるキャンバスアプリとして開発することとした。Facebookアプリ版Ding-Dongは、Facebookのソーシャルグラフ(ユーザー、友達、コメント等)のデータの取得・操作はFacebookのGraph APIを使用し、Web アプリケーション部はJavaScript のアプリケーションプラットフォームはNode.js 、データベースにはドキュメント指向のデータベースであるMongoDBを使用した。

Ding-Dongの婚活者向けユーザーインタフェースは、前項で示した機能が格納されたトップページ(マッチング情報、応援団おすすめリスト、相手のプロフィール、相手の応援団おすすめ情報、相手の釣書き)、いいねリスト、応援トーク、メッセージの計4ページが基本構成となっている。その他、サブページとして自分のプロフィール編集、使い方、あなたの婚活仲間リスト(あなたの応援団、あなたが応援している人、応援団の申請)、相手のプロフィール詳細ページなどが用意されている。応援団向けユーザーインタフェースは、複数の婚活者を応援する場合を想定し、画面遷移の手間が発生しないよう、婚活者別のページ内でタブ切り替えすることによって、その婚活者に関する全てのコンテンツを閲覧しやすくデザインした。

【本研究の成果】

長期化する婚活を活発化させるためには、婚活に対する未婚者のモチベーション維持と負担の軽減が必要となる。こうした課題を解決するために、婚活における相互関係性を革新し、親しい友人の支援を活用できるソーシャルな婚活システムを提案した。提案システムは、対象ユーザー(現役婚活者、応援団、婚活予備群)による試用・評価を行ない、未婚者を取り巻くさまざまな負担の軽減策の検討と、友人らの支援が婚活者にもたらす効果の検証、将来的な訴求ユーザーの推定などを行なった。本研究の成果を以下にまとめる。

インターネット婚活における相互関係性の変革提案

プライバシー保護の観点から第三者が介入できない現状の婚活では、婚活者当人同士の自助努力に依存するため、婚活者の精神的負担が大きく意識変革も難しい。そこで、友人らと婚活状況を共有できるようになれば具体的な支援が得られやすくなるのではないかと考え、従来の密室化した婚活からソーシャルな関係性への変革を提案した。

ソーシャルな婚活支援システム“Ding-Dong”の提案

現在のインターネット型婚活の問題点と、現役婚活者が抱える問題点を調査した。その知見に基づいてシステム試作版を作成し、広くユーザーから意見を聴取した。それらの知見に基づいて設計を行ない、インターネット型婚活システムをFacebookアプリとして実装した。

Ding-Dongのユーザー評価による効果検証

婚活への第三者介入に対する許容度と提案システムの有効性を検証することを目的に、現役婚活者、応援団、婚活予備群を対象としてユーザー評価を行なった。その結果、婚活の第三者介入についてはおおむね許容され(特に女性)、婚活者に好意的に受け入れられたコンテンツ(応援団による他己紹介「応援団おすすめ情報」、ステータス別の候補者分類表示「いいねリスト」)と今後改善すべき課題(男性ユーザーの抵抗感への対応)が示された。以上の結果から、Ding-Dongがインターネット婚活の問題解決に寄与し得る点と、第三者介入による婚活支援の有効性を示した。

第三者支援システムの応用例の提案

Ding-Dongの評価で第三者支援システムの有効性が示されたことから、その他の分野への応用を2点提案した。一つは、地域活性化などに結びつく可能性を持った第三者の客観視による潜在価値発掘システムを提案した。また、婚活は就活と類似点が多いといわれるが、受験や子育てなど他のライフイベントにも同様の支援システムが活用できると考え、インターネット上における互助関係構築の可能性を示した。

【今後の展望】

本研究におけるユーザー評価で明らかになったDing-Dongの改善点に対応していく。Ding-Dong利用に対して消極的な傾向がみられた男性ユーザーに対しては、Ding-Dongが提案する新たな婚活スタイルへの理解を促す十分な説明が必要であり、利用モチベーション向上対策に向けたシステムの改善を図っていく必要がある。一方、女性ユーザーについては、相手に対して厳しい条件を求める以前に、むしろ自分が相手に受け入れられるかどうかを重視するような受け身の態度が示されたことから、相手の許容範囲を考慮した意思決定支援に発展させる必要がある。さらに、Ding-Dongの実運用によってオンゴーイングに行なわれるプロセスを長期的に見ていくことで、ソーシャルな婚活支援システムの効果を実証的に検討していくことが求められる。

以上