2013年度 森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

ビタミンCの毒性作用機序の解明

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程1年
先端生命科学 (BI)
上瀧 萌


研究内容

 ビタミンCは,生理濃度において抗酸化作用を有する補酵素として広く知られているが,その一方で高濃度においては活性酸素種(ROS)を発生させる酸化促進作用を発揮することが明らかとされている.抗酸化能の低いがん細胞では,このビタミンCの酸化促進作用により産生されるROSを消去しきれずに酸化ストレスが生じ細胞死が誘導されると考えられており,現在このメカニズムを応用したがん治療も行われている.しかしながら,ビタミンCによる抗がん効果における詳細な作用機序については不明な点が多い.本研究ではビタミンCの抗がん作用における分子機構を解明することを目指す.
 まずはじめに,MCF7細胞 (ヒト乳がん細胞) とHT29細胞 (ヒト結腸がん細胞) を用いてビタミンCに対する感受性の検証を行った結果,高濃度のビタミンC (MCF7で1 mM以上,HT29で10 mM以上) を添加することによって細胞死が誘導されることが確認された.次に両がん細胞において抗酸化物質 (N-Acetyl cysteine) をビタミンCと共添加することにより,細胞死が顕著に回避されたことから,ビタミンCによる細胞毒性が主に活性酸素種 (ROS) の発生によるものであることが示唆された.さらに両がん細胞を用いてキャピラリー電気泳動飛行時間型質量分析装置(CE-TOFMS)によるビタミンC添加時のメタボローム解析を行った結果,細胞毒性濃度域のビタミンC濃度条件では,両細胞株においてエネルギー生成の低下が明らかになった.また,NADおよびNADHレベルの低下,解糖系上流およびTCA回路上流に位置する代謝物質レベルが増加したことから,NADの分解に起因するエネルギー代謝全体の停滞が示唆された.そこで今学期はより詳細な細胞毒性メカニズムに迫るべく,細胞毒性が生じるビタミンC濃度域において,酸化ストレス反応性遺伝子であるHeme oxygenase 1の発現についてRT-qPCRを用いて調べた.またNACを投与しROSを除去することでビタミンC単独投与によって引き起こされる細胞内代謝変動はキャンセルさせるのか調査した.これらの検討により,ビタミンCによって生じるROSが細胞内代謝を変動させ,その代謝変動により細胞死が引き起こされていることが示唆された.