2013年度 森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

カブトエビの発生に関与するtRNA断片の解析

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程2年
先端生命科学 (BI)
広瀬 友香


研究内容

 MicroRNA (miRNA) は18-24塩基のnon-coding RNAで,その一部は発生,特に形態形成に深く関与している.一方,miRNAより塩基長の長い低分子RNAは分子的な存在が確認されているものの,その詳細については不明な点が多い.そこで,我々は幼生期に短期間で劇的に形態が変化するヨーロッパカブトエビを対象とし,形態形成に関わる25-45塩基の低分子RNAの網羅的解析を行った.その過程で発生時期特異的に発現するミトコンドリア及び核ゲノム由来のtRNA断片を見出したので以下に報告する.
 まず,次世代シークエンサーによりヨーロッパカブトエビの6つの発生段階 (卵,幼生1-4令,成体) の低分子RNAの配列情報 (25-45塩基長) を取得した.tRNA断片に関する詳細な解析を行うために,報告されているミトコンドリアゲノムと次世代シーケンサーによって新規に取得したカブトエビゲノムDNA配列から,tRNAscan-SEを用いてtRNA遺伝子を予測した.tRNA遺伝子と低分子RNAの配列を比較した結果, ミトコンドリア及び核ゲノム由来のtRNAからtRNA断片が生成されていることが明らかになった.興味深いことに,多くのtRNA断片はtRNAの特定の領域から由来しており,その領域のパターンはtRNA種によって異なっていた.また,発生過程でのtRNA断片の発現量の変化を情報学的に解析したところ,tRNA断片が発生時期特異的に発現する可能性を示唆した.更に,ノザンブロット法で2つの核ゲノム由来tRNA断片の発現を確認し,特にtRNALys(CUU)からは異なる塩基長のtRNA断片が発生段階依存的に生成されることを明らかにした.以上の結果は,ミトコンドリアと核ゲノム由来のtRNA断片がランダムな分解産物ではなく,カブトエビの発生に重要な役割を持つ分子として生成されている可能性を示す.

※論文投稿の準備中であるため、詳細な解析結果は省略させて頂きます。


研究業績

国際学会における発表
○Hirose Y, Ikeda K, Noro E, Hiraoka K, Tomita M, and Kanai A. Temporal expression of tRNA fragments in development of Triops cancriformis (Tadpole Shrimp). RNA conference 2013, Davos, Switzerland, June 2013.
国内学会における発表
○広瀬 友香,池田 香織,野呂 絵美子,平岡 桐子,冨田 勝,金井 昭夫.ヨーロッパカブトエビにおいて発生時期特異的に発現するミトコンドリア及び核ゲノム由来のtRNA fragment (tRF).第36回日本分子生物学会年会,神戸,2013.