2013年度 森泰吉郎記念研究振興基金
研究者育成費 成果報告書

題目『成人の吃音SHGが開く中高生向けの吃音WSの目的』

政策・メディア研究科　修士課程１年　白鳥佑樹

◆ 研究内容

　私は、セルフヘルプグループをテーマに研究をしている。セルフヘルプグループとは、ある共通の悩みを持つ当事者が集まって、分かち合い活動や互いに共感をすることで、価値観が変容し、その生き苦しさから解放されることを目的としたグループである。例えば、言友会という吃音症のグループでは、週１回のわかちあい行為と月１回の吃音改善トレーニングを実施している。他には、年一回で吃音症フォーラム等の対外活動も実施している。上記の活動に見られるように、当事者のグループは、活動への強い意思を持っており、草の根組織として、社会資源となることを期待できる。セルフヘルプグループの活動の特筆すべき点として、１．社会制度の不完全さから、草の根の当事者が自身の問題解決をするために自発的にグループが生まれた点、２．グループが社会資源となり、会に所属していない当事者の受け皿となり、その問題を解決するための取り組みを実施している点の２つを挙げる。

　しかしその一方でグループに人が集まらずに、グループが解散してしまうことが多くある。社会的に価値のある活動をしていながらも、新規の参加者が集まりづらい現状は広報のチャネルの少なさが問題だと考える。医師はセルフヘルプグループを活用することで、患者へのメディカルケアの後に病状の再発防止やアフターケアにつとめることができるのだ。しかし現状、実施されることは少ない。専門職がメディカルケアを施し、メンタルケアはセルフヘルプグループに任せるという状況が本来あるべき姿であると考える。その実現に向け、本研究では、セルフヘルプグループと福祉機関との連携というテーマを扱う。

◆ 成果報告

セルフヘルプグループと福祉機関の両者の関係について、下記に団体にヒアリングを実施、文献調査をおこなった。

《フィールドワーク実績》

・2013/11/17吃音フォーラムinよこすか

・2013/12/24〜26クリアリングハウス（かながわボランティアセンター支援室２名、横浜市男女共同参画センター１名）

・ よこはま言友会の定例会への定期参加

それぞれのヒアリングから得た項目をまとめる。

【吃音のセルフヘルプグループの活動実態】

　定例会では、分かち合いによるピアカウンセリングを実施しているのだが、吃音の専門家である言語聴覚士は定例会に参加していない。「専門家が関与するとピアカウンセリングが損なわれるために、顔を出さないようにしている」と言っていた。一方、フォーラムや吃音こどもキャンプといった対外活動をする際は、言語聴覚士が関わる。

　また一律に言語聴覚士といっても、吃音を専門にしているのは一握りで症状に対する理解に差がある。そのため専門職という括りではセルフヘルプグループへの理解は個人差が大きいと言える。

【クリアリングハウス】

　クリアリングハウスとは、セルフヘルプグループに活動場所や活動ノウハウを提供することを目的とした施設である。運営母体は主に社会福祉協議会や市や県から委託されている機関である。全国に６カ所あり、そのうち２カ所にヒアリングを実施した。具体的な業務内容の１つとして、グループと新規参加者また病院等の機関とを結びつける連絡窓口といった第３者機関の役割を担うことがある。セルフヘルプグループは少数の市民団体であり、連絡窓口を用意することが難しいためだ。それについて担当者からは「病院からの問い合わせはほとんど来ない」という回答を得た。その理由としては、インフォーマルであるために治療としての責任を負う必要のあるフォーマルな組織が利用するにはリスクが大きいのではという意見があった。

◆ 今後に向けて

　グループと専門職は、お互いの担うケアの役割を確実に達成するために、一定の距離をおいている。例えば、吃音のセルフヘルプグループである言友会は治療的側面では独自路線を形成しつつあることが見受けられる。しかしそれにより、両機関は互いにアンタッチャブルであり、連携が生まれないという問題が発生している。一方フォーラム等から見られるような当事者団体の活動においては、専門職をパネラーとして呼んだり、責任者として配置したりと関係構築はできている。これらのことから、セルフヘルプグループの持つ２面性（ピアカウンセリング、当事者団体）を活用すること、つまり当事者団体で得た関係性から、ピアカウンセリングの側面では専門職が患者の派遣等で還元させていくことで可能となり、セルフヘルプグループの社会資源としての価値をより高めていけると考える。

　またグループの活動は、種類やテーマが多岐にわたるため、比較検討が難しい。しかし例えば、アルコール依存症のセルフヘルプグループは同じテーマに関わらず、年齢構成、考え方の違いにより、複数のグループが乱立している。このようにセルフヘルプグループは地域に１つだけといったものではない。同じテーマを持つグループを比較検討することが可能であることがはっきりした。

　これらを踏まえて、修士論文執筆に向け、RQ、仮説を含めた研究設計の向上を目指す。

◆ 最後に

　森泰吉郎記念研究振興基金のご支援をいただき感謝申し上げます。当初は、吃音サマーキャンプに本研究育成費をあてる予定でしたが、ヒアリング、文献調査の結果から研究テーマの一般化を目指して、研究計画を再設計いたしました。そして研究設計の醸成のためにフォーラム参加と文献購入にあてさせていただきました。今後も継続してセルフヘルプグループの研究に邁進し、来年度には成果物として修士論文を執筆、提出いたします。