2014年度 森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

なぜ自治体の政策イノベーションは起こるのか―「Boixの修正モデル」による理論的説明

 

政策・メディア研究科 後期博士課程2年 鈴木 栄之心

 

 

 

 

研究背景

本研究では、政策イノベーションには2つのタイプがあると考える。タイプ1は、新たな活動の実現を可能にするために既存の条例や規則等について従来の行政の解釈を超えた対応をとるなど、より柔軟な方法で運用するものである。タイプ2は、新たな価値創造の実現を可能にするために新しい条例や規則等を制定したり既存の条例や規則等の一部を改正したりするものである。

 

 

 

研究概要

本研究の目的は、政策イノベーションが起こるメカニズムについて、「Boixの修正モデル」を援用して説明することにある。

 

 

 

理論枠組み

自治体が政策イノベーションを起こす行動を統一的に説明する理論枠組みとして、村松(1988)が提示した「相互依存モデル」や伊藤(2002)が提唱した「動的相互依存モデル」などがある。これらは、@条例以外の政策形式を検討していない、A条例を制定した自治体の行動しか観察していない、B単に他の自治体の行動を模倣したり、国の法制化に同調したりする受動的な自治体の行動を許容し、積極的な自治体の政策イノベーションを観察していないといった欠点があり、政策イノベーションが起こるメカニズムを説明するモデルとしては不十分と言わざるを得ない。

そこで本研究では、政策過程論における「Boixの修正モデル」(Boix,1998)という理論枠組みを援用する。この修正モデルは、「どの様にして自治体の政策イノベーションは起こるのか」という現象の説明に終始する村松や伊藤のモデルとは異なり、「なぜ自治体の政策イノベーションは起こるのか」という因果関係を説明している点で有用である。

なお、Boixは理論的な検討を行うに留まり、実際にこの修正モデルに基づいた実証分析は行っていない。

 

 

 

仮説

自治体内の任意団体やNPO法人が活発に活動することによって、地方議員や行政職員は選挙や自治体間競争における支持調達のための合理的反応として、より有効的で応答的な統治を行うようになり、政策イノベーションが起こる

 

 

 

研究方法

1.自治体で活動する任意団体やNPO法人の数はどれ程あるか

CANPAN(任意団体等に関する全国規模のデータベース)およびNPOヒロバ(NPO法人に関する全国規模のデータベース)から任意団体とNPO法人を抽出して、自治体別に整理する。(実施済み)

2.自治体で活動する任意団体やNPO法人の収支構造はどの様になっているか

内閣府が実施した「平成21年度市民活動団体基本調査」および「平成25年度特定非営利活動法人に関する実態調査」から任意団体やNPO法人の収支構造を分析する。(実施済み)

3.自治体が導入する指定管理者制度において政策イノベーションの数はどれ程あるか

全国1,718の自治体(申請時点)に対して質問紙調査を実施し、任意団体やNPO法人が管理・運営する公の施設で観察される政策イノベーションの数を把握する。(質問紙は作成済み)

4.「Boixの修正モデル」の説明力はどの程度か

1の整理と2の分析・整理、3の調査結果を基に、「Boixの修正モデル」の説明力を検証する。(実施予定)

 

 

 

今後の予定

上記の研究方法3及び4を実施し、研究成果を学外において発表する。