2014年度森基金報告書
「ソーシャルメディア時代の都市イメージ」
慶應義塾大学大学院
政策・メディア研究科 後期博士課程
菊地 映輝
1. 研究目的
本研究の目的は、都市のイメージ形成にメディアが与える影響、とりわけ近年登場してきたソーシャルメディアの働きを明らかにすることである。そのために本研究では「お台場」と「秋葉原」という東京の2地域を事例として選択した。
2. 本年度行った研究活動
本研究では、主たる研究方法としてソーシャルメディア分析を行う予定であった。しかし当初利用を想定していた分析ツールの使用料が高額であったことなどから、本年度は文献調査や定性調査を充実させることとした。本年度行った研究活動は、具体的には下記の通りである。
2.1.
関連文献の整理
「お台場」「秋葉原」の2地域に関する主要な文献の整理を行った。下記には代表的なものを記す。
■お台場
・平本一雄,2000,『臨海副都心物語―「お台場」をめぐる政治経済力学』中央公論新社.
・武蔵野大学政治経済研究編,2012,『臨海副都心の過去・現在・未来』武蔵野大学出版会.
・武藤吉夫,2003,『お台場物語―まちが生まれるまで』日本評論社.
■秋葉原
・三宅理一,2010,『秋葉原は今』芸術新聞社.
・森川嘉一郎,2003,『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ』幻冬舎.
2.2フィールドワーク
■お台場
現地巡検およびイベントへの参与観察を計7回行った。中でも2014年11月に実施した、青海駅の東京レジャーランドにて開催されたコスプレ撮影会イベントの参与観察では、コスプレイヤーたちにインタビューを実施し、彼女たちの使用しているソーシャルメディアや彼女たちにとっての「お台場」という街の位置づけなどについて聞き取りを行った。
■秋葉原
2014年夏季より週2,3回程度のペースでコンスタントに秋葉原に通い参与観察を行った。また秋葉原の街づくりに関与する個人や団体へのインタビューも実施した。
2.3補足調査としての札幌フィールドワーク
当初は想定していなかったが、2014年12月から1月にかけて北海道札幌市でのフィールドワークを実施した。これは「お台場」の事例を理解する上で必要と新たに判断されたからである。
具体的には札幌市内にある複合商業施設「nORBESA(ノルベサ)」を中心に、札幌市内のオタク文化に関係する施設を取材した。ノルベサでは2006年の開業当初から来客数が伸び悩み、施設内のテナント構成などで試行錯誤を行っていた。その結果、開業当初のテナントと現在のテナントの構成は大きく異なっている。開業当初は、いわゆる若者全般を対象にしたテナント構成であり、カップル向けのデートスポットとしての機能を担うことも目論まれていたと思われる(そのことの象徴がビル屋上に設置された観覧車であろう)。しかし現在では、アニメグッズやトレーディングカードを扱う店舗、コスプレ撮影スタジオなどのいわゆるオタク向けのテナントが多く入居しており、訪れる客層も開業当初に施設側が意図していたものとは大きく乖離していることがうかがわれる。
ノルベサのこうした変化と同様の現象が、実はお台場にも見られると筆者は考えており、そのことについては2015年3月に投稿予定の論文で詳細に執筆する予定である。
3 本年度の研究活動を通じた発見
本年度の研究活動を通じて得た発見は下記の通りである(ただし、本報告書執筆時点では論文未発表のため、ここには簡潔な概要のみ記す)。
本研究の前提となる仮説は、「ソーシャルメディアが都市に新たなイメージを付与する」というものであった。研究を進める中で、仮にソーシャルメディアによって特定の都市に新たなイメージが与えられる際には、そこに何かしらの「きっかけ」が存在しているのではないかという気づきを得た。これについては、お台場はマーケット的なメカニズムによって施設やそこで開催されるイベントが「オタク化」していったことがきっかけであり、秋葉原はマスメディアによって全国的にオタクの街として知られてしまったことによる街の「ステレオタイプ化」が主たるきっかけなのではないかという仮説が調査を通じて得られた。これらの「きっかけ」となった変化は、従来までのその街のイメージとは異なるベクトルのものであり、それをソーシャルメディアが増幅させていったと考えられそうである。
次年度以降は、この仮説の根拠となるデータや事象を集めるとともに、本年度は行えなかったソーシャルメディア分析にも踏み込んだ研究を行うつもりである。
3.研究成果のアウトプット
・バックストリート研究会@法政大学での研究発表(2014年9月)
・学内授業での研究発表@慶應義塾大学(2014年9月、2015年1月の計2回)
・査読論文(2015年3月投稿予定)
以上