AppCopter:ドローンを用いた,モバイルユーザへのOロアクティブな機能提供に関する研究
大越匡
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 博士課程2年

ユーザへの能動的な機能提供
本研究の背景として、(1)位置や場所、状況に応じた情報やサービス提供の広がり、(2)参加型センシングの広がり、(3)無人小型ヘリコプター (UAV: Unmanned Air Vehicleまたはドローン) 製品の広がりの3点が挙げられる。多くのユーザがスマートフォンをはじめとしたGPS機能を持ったモバイルデバイスを携帯し、また状況に応じて自ら位置情報を発信する利用形態が広まりつつある中、ユーザの位置や場所、状況に応じた情報/サービスの提供が広まりつつある。筆者らは2013年度、例えば「大学の各教室内にいるユーザに、その教室ごとののAV機器リモコンアプリを配信する」といった、「その場所や状況に応じたアプリケーション配信」を実現する技術の研究を、富士通研究所株式会社と共同で実施した。また同研究の成果発表[1]をSFC Open Research Forum 2013で行った。また,モバイルユーザに様々なセンシングへ参加してもらい,ネットワークを通じてその結果を集約する、「参加型センシング」(“participatory sensing”) の枠組みが広がりを見せている。
本研究では、特定の位置/場所にいるユーザへの,よりプロアクティブな「機能」の提供実現に向けて、本年度、具体的には (1)プロアクティブな情報提供のタイミング最適化のためのユーザ認知負荷状態の検知、および(2)海岸で海水浴を楽しむ観光客への津波避難経路提供のための津波避難シミュレーションおよび避難アプリの構築、以上2点に取り組んだ。

1.プロアクティブな情報提供のタイミング最適化のためのユーザ認知負荷状態の検知
来たるべきスマート社会においては、多種多様なアプリケーション・サービスが生まれ,ユーザはモバイル/ウェアラブル端末を含む多様なデバイスを複数併用してそれらを利用する一方、ユーザの「注意」(アテンション)は貴重な資源となり、コンピューティングにおけるボトルネックとなる。そのためプロアクティブな情報提供を、ユーザのアテンション状態に対して最適なタイミングで行うための、ユーザの認知負荷上昇を抑制できる情報通知のタイミングを検知する基盤技術「Attelia」を提案した。Atteliaはユーザの様々なモバイル/ウェアラブルデバイス上で,生体センサを必要とせず、多様なサービス・アプリケーション側への改変を必要とせず動作し、実時間で情報通知タイミングを検知する。スマートフォン上でのAtteliaプロトタイプ実装にもとづき,その有効性を示すため被験者30人による16日間の研究室外ユーザ評価実験を行った。その結果Atteliaが検知したタイミングでの情報通知は,ユーザの認知負荷を33.3%減少させる効果を確認できた。本研究に関して国際会議[1]に論文が採録され、現在Best Paper Award候補にノミネートされている。


図1: スマートフォン、タブレット、スマートウォッチ、スマートカメラ等でのAtteliaの動作模様

2.観光客への津波避難経路提供のための津波避難シミュレーションおよび避難アプリの構築
藤沢市を含む湘南地区では、夏場の観光シーズンに大勢の海水浴客が訪れる。例えば藤沢市の片瀬西浜海岸に訪れるピーク時の海水浴客は1日あたり10万人以上と言われている。大地震発生および津波襲来時には、地元の土地勘のない観光客に、津波避難経路を提供する必要がある。本取り組みでは、三次元地図データ、5mメッシュ標高データ、道路網データ、人口分布データ、各津波一時避難場所/高台の場所や建物高さ、収容人数といった情報を元に、GISソフトおよびソルバーソフトウェアを使用して、避難経路を算出するシミュレーションを行った。本研究結果にもとづき、現在総務省G空間シティ構築事業において、津波避難訓練アプリケーションシステムの構築に取り組んでいる。

Published Paper (Refereed)