2014年度 森基金研究成果報告書

トリパノソーマの脊椎動物への寄生能力の由来解明

生命情報科学(BI)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
修士課程2年 福澤玲奈

要旨

Trypanosoma(ユーグレナ門・キネトプラスト類)はヒトを含む幅広い脊椎動物に寄生する原生生物である.ユーグレナ門は自由生活性と寄生性の両種を含むが,寄生性の種はキネトプラスト類でしか発見されていない.従って,Trypanosomaの寄生能力はキネトプラスト類とその他の系統の分岐後に獲得されたと考えられる.本研究では,バクテリアからの水平伝播がこの様な進化上のギャップを形成したという仮説を立て,遺伝情報の網羅的解析によってTrypanosomaゲノムの中に存在する水平伝播遺伝子の探索を行った.まず,Trypanosoma bruceiTrypanosoma cruziの全遺伝子の中からバクテリアに相同遺伝子が存在する遺伝子を抽出した.次に,これらの遺伝子から祖先生物から引き継がれた遺伝子,及び重複遺伝子を取り除くことで,T. bruceiで14個,T. cruziで17個の水平伝播遺伝子候補を得た.最後に,バクテリア遺伝子とTrypanosoma遺伝子の混合系統樹を再構築することにより,水平伝播プロセスが強く支持される遺伝子を選択した.その結果,Trypanosomaにおける宿主からの免疫回避システムの中心的な役割を担う酵素群が水平伝播によって獲得されたことが示唆された.Trypanosomaの寄生能力の起源を明らかにする本研究が,原生生物によって引き起こされる感染症に関するより深い洞察につながり,さらにトリパノソーマ症の薬剤開発につながることを期待する.

キーワード
1. Trypanosoma,2.寄生能力,3. 水平伝播,4. 原核生物, 5.進化

※論文執筆のため詳細なデータは割愛