2014 年度森基金成果報告書

「公共施設の民主的設計ソフト開発と、その実用性の研究」

政策・メディア研究科修士課程(EG)松川昌平研究室 佐々木雅宏

 

 

研究内容・目的

本研究は、情報技術を援用することで、建築設計活動を支援する設計システム開発のひとつに位置づけられます。情報技術を用いた建築の形態を生成する手法は、アルゴリズミックデザインとして90年代頃より世界的にもその研究活動が活発となっています。その中で私の研究は、そういったある限定的な敷地において最適な形態を導き出す手法ではなく、現在の単一の計画主体によって建築がある種独善的に計画される状況において、新たな選択肢となるような設計手法のあり方を模索するものです。計画者の審美眼を元にシステムを設計し、ある程度計画者の予想した結果を得るようなアルゴリズミックデザインではなく、人間の思考を拡張し、人間のコミュニケーションを援助するような設計システムを、本年は4本開発してきました。

 

活動内容・成果

T. 公共施設の民主的設計ソフト「パブリックモール」の開発と発表

 

 

1-05

 

2-06

2-07

 

3-06

T-成果@日本建築学会主催「全国学生卒業設計コンクール2014」への出場と、同コンクールの作品集への掲載

http://www.jia.or.jp/event/aword/gakusei/ (日本建築学会ホームページ)

 

T-成果A「ALGODeQ」プログラミング国際コンペティションへの出場と、同コンクールで「Student Award」受賞

:藤平祐輔氏(同学B4)と共同製作

http://algodeq.org/(コンペホームページ)

http://algodeq.org/?page=award_list(受賞作品ページ)

https://www.youtube.com/watch?index=2&v=Vi7W-0sWI98&list=UUypRqdbqfErqFK2QTuJDWfA&app=desktop(作品紹介ムービー)

 

今回はパブリックモールという、公共建築の解体と再構築による、デザインの民主化システムの提案をさせて頂きます。このプロジェクトは設計の設計です。半分設計し、いかに半分を多くの人に委ねられるシステムを構築するかが問題となっています。この建築は人口の洞窟です。パーツ検索によって現れた、思ってもみなかったような形をどのように使うべきか一室一室洞窟を探検するように設計していきます。建築は一人の人によって計画されるのではなく、多くの人の意見を集約してみんなでつくりあげる設計こそが現代的な設計手法なのではないかと思います。

日本の既存公共施設は国土に分散して配置されて来ましたが、少子高齢化を受けて、施設の維持が困難になりつつあります。日本全国にある公共建築の半数に当たる52.2パーセントの施設は1981年に改正された、”standard for earthquake resistant design after 1981 in JAPAN”以前に建設されている為、これらの施設は2030年に一斉に更新時期を迎えます。今後50年かけてこれらの施設を更新するためには、年間6兆円更新投資予算を増資する必要があり、増資抜きで更新する為には既存施設に対して30%床面積を減少させる必要があります。この現状に対し、施設の統廃合により一極集中化を行う事で床面積の30%をカットする提案がなされています。施設が集中し複合化すると、そこは人が多く集まる新しい街の中心になると考えられます。しかし、現在実際に建っている施設は、部屋名の変更のみで用途変更を行うことを前提とされており、このままでは均質な空間が大量に生まれることが考えられます。実状、左の既存施設に対し、右の一極集中化施設はアーキテクチャが進歩しているとは言えません。

この現状に対し、私はパブリックモールというオルタナティブな提案をしたいと思います。私は人が集まる公共圏には、商店街が持っていた様な各地で魅力的な”多様性”と、ショッピングモールの様な合理的な”柔軟性”を両立する様な空間が望ましいと思っています。その為に今回は既存の公共施設の躯体を実際に解体し、再構築する構法システムを開発して、色々な人の意見を集約しながら多様性と合理的柔軟性を両立できる民主的デザインシステムを提案します。

今回はこのシステムを使って実際に設計を行う為に、千葉県千葉市稲毛区の埋め立て地にある廃校になった小学校の敷地でシミュレーションを行いました。この敷地は稲毛海岸駅から徒歩12分位置にあり、また、ニュータウンの団地群の中心に位置している為、多くの人のシステムへの参加と、施設の利用が見込めると考えています。この敷地周辺には千葉市が保有するRC造の10棟の公共施設があり、これらが今後50年ですべて更新されるときに、その躯体を解体再構築してどのような建築が可能かシミュレーションしました。今回はRC造の建築をワイヤーで切断するワイヤーソー工法を用いて躯体を切断します。この工法は既存の技術であり、躯体は自由に切断が可能です。鉄筋に当たっても誤差20mmの精度で切断します。次に実際に解体再構築可能な大きさを検討する為に技術検討を行いました。その結果全敷地に設置可能な450トンクレーンで躯体を持ち上げ、周辺道路を通ることができる、荷台の大きさ9400×6000のキャリアに載せられるパーツに切り出すことを決定しました。最終的に決定したパーツの切断位置は、構造的に全体が成り立つものを選択しました。決定したパーツの切断位置は、平面的には柱を中心に5000かけ5000のグリッドで切断し、断面的には床面を中心に上階方向に2100、下階方向に1500のグリッドで切断しました。そうすると一つのピースは5000×5000×高さ3600の仮想グリッドに納まり、形態は中心の柱にスラブがついたコマの様な形状になります。10棟の施設からは全部で1040ピースが切り出され、それらを分析すると形状は10パターンに類型することが出来ました。これらのピースは柱からスラブの出ている方向に梁が出ているため、互いの柱と梁をはつって鉄筋に新たな鉄筋を溶接し、コンクリートを打ち直すことで、柱と梁が通り、構造化することが可能となります。設定したルールに従って切断することで、再構築した際に床レベルと構造の位置が一致し、建築化する事が可能です。

 

Real Architecture

この工法システムを応用した”Democratic Design System”を提案します。この設計システムは,実空間の建築(Real Architecture)をデザインする為のアーキテクチャを情報空間に実装します。そして、そのシステムを誰にでもコントロールできるインターフェースにすることで、より多くの市民、参加者の意見を集約する為の社会的な設計システムを駆動します。建築は動線や、採光、諸室面積といった建築家が課した必要な要求を満たしながら、実際の空間はパーツ検索によって現れた、思ってもみなかったような形をどのように使うべきか一室一室洞窟を探検するように設計されています。これは一つの建築でありながら、一つの都市を凝縮した様ような建築です。実際街で使われていたそれぞれの躯体がパッチワークされ、一つの建築を形作ります。そこでは形態から新しい用途が見出され、さまざまな形態に対する解釈が集約されているのです。

 

IT Architecture

次はReal Architectureを設計するための「IT Architecture」についてです。今回は3DCADである”Rhinoceros”を使用しました。Top Peaceの形態情報を”MySQL上”にデータベースとして保存し、形態の生成は”Python”を使用してコーディングを行いました。

今回デザインに使用する”Top Peace” からは、9bit の情報を記憶しています。

1.柱が上階へ伸びているか/いないか

2.3.4.5. 柱を中心に仮想空間の東西南北方向へそれぞれ壁があるか/ないか

6.7.8.9.仮想の壁で仕切られた4つの空間にそれぞれスラブがあるか/ないか

10の施設から切り出した1040ピースの形態情報はすべてデータベースに記憶されており、どのピースをどこに使うべきかシステムによって検索をかけます。設計は3段階に分かれていて、まず設計者は5000×5000のグリットに基づいて居室の設計を行います。設計者は各階の外形の大きさ、動線の位置、各室の位置を入力していきます。次に各階の大きさや、動線の位置、立て動線の位置を入力すると、先ほどの10の類型の中からどの形状のパーツをどこに配置するべきかコンピュータで検索して、ヴォリュームスタディを行うことができます。

最後にそのヴォリュームにどの形状のパーツが来るべきか実際にパーツを配置してデザインの検討を行うことが出来ます。ここでは建築家が要求した条件を充たすパーツを検索して、自由にパーツの入れ替えを行うことができます。

 

Social Architecture

次はより多くの市民、参加者の意見を集約する為の”Social Architectureです。このシステムも三段階に分かれていて、それを実現する為のIT Architectureの三段階がそれぞれ対となって駆動します。

Step1 Public Meeting。ここでは市民、公共機関の2者が議論を行い、どのような施設がどれくらいの面積パブリックモールに必要か検討を行います。

Step2 Volume Study Competition具体的な建築計画は高度な専門技術が求められる為,多くの建築家を募ってシステムを利用したヴォリューム案の検討を行います。ここでは沢山の配置案がだされ、その中からコンペで選ばれた案を採用します。

Step3 Design Workshopここでは最初にコンピュータから検索した形をコンピュータ上や、また、3Dプリンタで作成された模型をレゴブロックのように組み立てて、市民、公共機関の人々をに実際に手に触ってもらいながらデザイン検討を行います。

このシステムを使えば、ここだけではなく全国の解体される公共施設の躯体を利用しながら何処にでもパブリックモールを建設することが可能になります。また、実際に建てたあとでも、変更の要求が出た時に同じようシミュレーションしながら施設の更新を行い、その時周辺に住んでいる人達の要求に応えて行くことが可能です。まず5000グリッドにのっとって設計された平面情報を、居室、動線、立て動線、吹き抜けのそれぞれのレイヤーに、サーフェイスとして入力する。ここでプログラムを起動すると。レイヤーに格納されたサーフェイスの情報を読み込んで自動で10Patternを検索し、条件を満たした中からランダムにデザインを選択し、全体を組み立てる。満足のいく結果が得られるまで何度でもデザインを検索しなおすことができる。全体を組み立てたら、次に細部をデザインする。建築は動線や大体の居室面積を確保し、また、採光は設計段階である程度コントロール可能だが、パーツ検索によって開口の大きさ、位置、部屋の取り合いはランダムに立ち現れる。3D空間を探検しながら、変更したいパーツをクリックすると、別のパーツに変更が可能である。そのときは新たなウィンドウが開き、そのパーツのもつ現在のパラメーターが表示される。パラメーターを変更することで、その場所だけに本来その場所には現れないパーツを検索することも可能である。

 

多くの人の意見と、建築家の叡智を集約してみんなでつくりあげる設計手法をとる事で、「建築家なしの建築」のように多様な空間を、カオスではなく、盆栽を育てるように作ることが出来るのではないでしょうか。

 

 

 

U.「植物を育てるように建築を育てる」設計システムの開発と発表

本研究では植物を育てるように建築を育ててみました。まず、植物を育てるようにというくらいですから、植物が環境に適応する過程を分析してみました。植物は、生成、評価、交配の三つのプロセスで進化をしていきます。一つ目は生成のプロセスです。一つの枝から枝を分岐させるという単純なルールによってカタチを生成します。枝の角度や分岐する数を変えることで、多様なカタチを作り出すことができます。このように植物は単純なルールで多様なカタチを生成しています。二つ目は評価のプロセスです。たとえば背の高くて大きな木と、背の低くて小さな木がいたとしましょう。植物は光を求めて枝を伸ばします。高くて大きな木は、自らを維持するコストが掛かります。しかし、低くて小さい木は、低いコストで生存することができます。そのため、このように同じく環境に適応していても違ったカタチで生き残ることができます。二つの植物は同じように環境に適応していても違ったカタチをしています。三つ目は交配のプロセスです。植物は自然環境で淘汰、生存、交配を繰り返すこと遺伝子を受け継ぎ環境に適応していきます。このような三つのプロセスで形態の自動進化を行うシステムを多目的GAとして実装し、「鉄塔」、「椅子」、「建築」を育てるシステムを開発しました。

 

U-成果@鉄塔設計システム「Pylonome」の開発と、「日本建築学会主催 コロキウム2014形態創生コンテスト」で「最優秀賞」受賞

:藤平祐輔氏(同学B4,津久井森見氏(同学B3)と共同製作

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http://news-sv.aij.or.jp/kouzou/s17/htm/colloquium.htm (コロキウム構造形態の解析と創生2014 学会ホームページ)

https://www.youtube.com/watch?v=HrsvTVMN-Eg (作品ムービー)

https://www.youtube.com/watch?v=jwjoWV6Ho5I (作品ムービー)

https://www.youtube.com/watch?v=JmfIZv-EoFg (作品ムービー)

 

 

 

U-成果A椅子設計システム「Stoolome」の開発と、「ORF」での展示、また、松川昌平氏の「TEDxKIDs」での発表資料補助

:藤平祐輔氏(同学B4,津久井森見氏(同学B3)と共同製作

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https://www.youtube.com/watch?v=Gzh8JQQ5tY0  (作品ムービー)

https://www.youtube.com/watch?v=Ukt-0qY_Dnw (作品ムービー)

https://www.youtube.com/watch?v=sRl8ffjXA4o  (作品ムービー)

 

 

 

U-成果B建築設計システム「植物を育てるように建築を育てる」の開発

:藤平祐輔氏(同学B4)の卒業制作の作成補助

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https://www.youtube.com/watch?v=u3d954MDVK0  (作品ムービー)

https://www.youtube.com/watch?v=5BZIXShkSmM  (作品ムービー)

https://www.youtube.com/watch?v=Nclr-x-Xc0Q  (作品ムービー)

 

 

今後の発展の可能性

 一つ目の「パブリックモール」は、民主的なデザインの決定を支援するという意味では、ある形態群の中から適するものを選び取るためのシステムといえる。また、二つ目の「植物を育てるように建築を育てる」は、人間では想起、検証不能な領域まで建築の可能性を探索するシステムである。この二つを統合すると、「植物を育てるように建築を育てる」によって可能性の領域を広げ、「パブリックモール」によって中から適するものを選択するというシステムを構築できるものと考える。今後は二つのシステムを統合し、民主的なプロセスの可能性を実践の場で模索したいと考える。