2014年度 森基金 研究成果報告書

 

 

卵巣癌治療に向けたベバシズマブ投与後の応答

 

 

政策・メディア研究科1

山久保 純

 

 

概要

 本研究は当初,分子標的薬ベバシズマブの投与後における卵巣癌細胞株の応答について調べるとしていたが,ベバシズマブは医療用のみの販売で実験用には入手が困難であることに加え,コストが高いことから,この研究を行うよりも前に汎用的な抗癌剤であるシスプラチンの応答について調べた.また本研究では卵巣癌培養細胞株A2780に加えて,シスプラチン耐性細胞株A2780cisにおける応答についても対象としている.癌の抗癌剤治療において,癌細胞の薬剤耐性化は大きな障害となっており,これまでに多くの先行研究で薬剤耐性機構について調べられてきた.しかし複雑な薬剤耐性機構については未だ不明瞭な部分が多く,新規治療法提案に向けた更なる基礎研究が必要とされている.特に薬剤耐性癌細胞の抗がん剤応答については細胞内全体を対象とする研究も少ない.このことから本研究ではシスプラチン投与後における卵巣癌の薬剤耐性細胞株の応答を調べることで,薬剤耐性システムの一端を解明するとともに,薬剤のターゲットとなるような薬剤耐性に関与するタンパク質の機能を明らかにすることを目的とした.本研究では細胞内にあるタンパク質を一斉同定,定量するプロテオーム解析を用いることで,薬剤刺激における細胞内タンパク質の動態を追うことに成功した.その結果,卵巣癌細胞と卵巣癌シスプラチン耐性細胞とでDNA damage response, Apoptosisに関わる経路に発現差がみられた.このシスプラチン投与後における発現差は薬剤耐性に関与している可能性がある.また本解析から薬剤耐性への関与が予想されうる新規候補タンパク質についても複数同定できた.今後は時系列データにおける定量値の穴をなくすために再計算を行う他,統計を用いたデータ解析から薬剤耐性機構について明らかにしていく.

 

  本報告書はweb公開されるため,論文発表前の詳細なデータは除いて作成した.

 

 

研究業績

  国内学会 (ポスター発表)

シスプラチン刺激された卵巣癌の薬剤耐性細胞株における時系列プロテオーム解析

37回日本分子生物学会,横浜,2014/12

山久保純,森大,冨田勝