2014年度 森泰吉郎記念研究振興基金研究助成

成果報告書


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研究課題名:味覚認知の内的処理モデル解明

所属:慶應義塾大学 政策・メディア研究科

氏名:福島宙輝

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 本研究では味覚と言語の接続を,日本酒の味わい表現を題材に,モノ的世界とコト的世界

の視点から検討した.従来自然科学的枠組みの中で研究の対象とされてきた客観的なモノ的

世界に加え,主観的要素を多分に含まざるを得ないコト的世界へのアプローチを試みた点に,

本研究の独自性を訴求したい.

 味覚のコト的世界に対して,本研究ではトップダウン方略による記号接地を試みた.その

中では言語という高次認知領域味覚という低次認知領域を媒介する「中間シェマ」の概念を

提案した.そして中間シェマの例として,動詞については「日本酒味わい図式」を,副詞世

界に関しては音象徴語を扱った.

 音象徴語研究においては「形式遮蔽分析」を提案し,音象徴語の味覚表現における機能を

分析した.形式遮蔽分析は音象徴語の新たな研究方法論として今後さらに手法を精緻化する

必要があるが,個別の語ではなく音象徴語全体の機能を明らかにする方法論として注目でき

るものと考える.本稿では,形式遮蔽分析によって,音象徴語の味覚表現における機能とし

て,①音象徴語は,対象の基本的な味を表現する際のサポートする,②音象徴語は,対象に

とって特徴的な味わいや「強い」味わいに対してはあまり用いられない,③音象徴語は「消

える」など,負の方向への変化を表現する際に用いられやすい,という三つの仮説を生成し

た.これらの仮説の検証は今後の課題である.

 本研究では教育工学,ことば工学的アプローチとして味覚の言語化を支援する方略を開発

した.これらのツールは身体知の学びを支援することを目標とされており,単発のワークシ

ョップ等による短期的な効果を問う効果検証を研究のスコープの外に置いたために,ツール

の効果検証は十分に行われていないのが現状である.今後の研究課題としては,こうしたツ

ールが長期的にどのような身体的な学びを引き起こすかを検証する必要がある.

 本研究では新規な取組みとして「中間シェマ」「形式遮蔽分析」などを提案した.これら

の分析手法や概念はまだまだ理論的基盤が脆弱であり,今後さらなる考察の必要とされる領

域である.

 なお以上の研究成果は2014年度修士論文として提出した.