研究目的と研究方法
本研究の目的は,楽しくかつ効果的に学習できる単語学習システムを作成,評価することである.そのためにスマートフォン付属のカメラに着目した.スマートフォンは若い世代においては特に,いつも持ち歩く物として定着しており,写真を撮るという行為も,日常的に多くの人に楽しまれている.また,自身の以前の研究からは,触りやめくりの動作などの情報が,単語を思い出す際のきっかけとして作用し,記憶力を向上させるのではないか,ということが示唆された.さらに,記憶の宮殿と呼ばれる古くから使われている記憶法が,頭の中でよく知った場所に単語や物を置いて覚えるという手法であるため,写真により場所というヒントが与えられることで,○○に表示されていた単語は××だったな,と思い出しやすくなるのではないかと考えた.
研究方法としては,まずプロトタイプを作成し,そのプロトタイプで単語記憶実験を行う.
単語記憶システムの名前
研究企画書の段階で,本システムの名前は「どこでも単語帳」を略して「どこたん」としていたが,Uberallという名称に変更した.この名前はドイツ語の「どこでも」という単語からきており,どこでも単語帳になってしまうという意味がこめられているほか, Uが笑顔に見えることから本システムの名前とした.
Uberallとは
(1) システム概要
Uberallはスマートフォンを利用した単語記憶システムである.カメラ機能を利用して写真を撮り,その写真の中の四角い部分を単語帳として,事前に登録された覚えたい単語を表示する.画像を用いて単語を覚えるものは書籍などでも見られるが,本システムでは,単語の内容に関係なく,日常生活でよく見る風景を写真に写し,その一部を単語帳にするものである.
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上の図はUberallを使う際の典型的なストーリーボードである.単語帳を使う場所と時間を考慮し,ここでは通学中の電車の中を想定した.利用者は Uberallをスマートフォンで起動する.そして,適当な場所に向かって写真を撮影する.すると, Uberallは自動で写真の中の四角部分などを判定して,その部分を単語帳の1ページとし,事前に登録された単語リストから単語を表示する.
このようにUberallを使うことで,利用者は単語を思い出すキッカケとして新たに場所というヒントを得る.これにより,電車に乗っている時に「△駅あたりで撮った写真にこの単語があったな」と単語を思い出しやすくなると想定される.
(2) プロトタイプ
Uberallの評価を行うために,スマートフォンと画面遷移をシミュレートするPOPを用いてプロトタイプを作成した.POPはスマートフォン上で作動するプロトタイプ作成のためのアプリである.POPでは画像に対して指定した部分をクリックして別のページに飛ぶことができる.
POPではスマートフォン内蔵のカメラを利用することができないため,あらかじめ撮影した写真を利用し,擬似的に写真を撮っている操作をしてもらった.最初は風景のみが画面上に映し出され,利用者がカメラのボタンをクリックする.次に,写真が撮られ単語帳が作られたかのように単語帳が表示される画面へと遷移する.これにより,スマートフォンを利用して写真を撮るときの動きを擬似的に再現している.
実験
作成したプロトタイプを用いて実験を行い,20名の被験者に漢字と英単語それぞれ10単語をUberallを用いて記憶してもらった.1日後,3日後,1週間後にメールでテストを送付し,被験者は与えられた単語リストの中から記憶した単語を選択する.
結果と考察
課題成績を以下に示す.
成績は1単語を1点とし,20人の被験者の点数を合計した.各課題は2点が満点であり,以下のグラフでは平均値とその標準偏差を示している.
今後の課題
1.Uberallの実システムの開発
→現在はプロトタイプでありコンセプトは良さそうであることがわかったので,早期に開発し実システムでの実験を行う必要がある.
2.条件を変えての実験
→プロトタイプからさらなる実験方法,実験条件が発見された.それらについても実験を行う.
具体的な成果
①Shimizu, R. and Ogawa, K.: Which is More Effective for Learning German and Japa-nese Language, Paper or Digital? Paper presented at HCI International, Greece, (2014)
→ギリシャで開催されたHCI international 2014に参加.研究発表を行った.
②電子情報通信学会 ライフインテリジェンスとオフィス情報システム研究会(LOIS)のための論文執筆と発表
→プロトタイプの実験結果について論文を執筆,3月の研究会にて発表を行う.
③HCI International 2015へ向けた英語論文の執筆
→ロサンゼルスで開催されるHCI international 2015に論文が通り,プロトタイプの実験結果について英語論文の執筆を行った.
参考文献