2014年度森泰吉郎記念研究振興基金 研究者育成費(修士課程) 成果報告書

『メディアと言語　－3.11 報道をめぐる日独英新聞比較』

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 修士課程１年　佐藤　友紀子/yukisato(at)sfc.keio.ac.jp

0. はじめに

　

研究報告書の初頭にあたり、2014年度森泰吉郎記念研究振興基金研究者育成費の採択を受け研究活動に専念することができた感謝の気持ちを表したい。自身の研究計画が採択されたことは研究を進めていく上で大きな励みとなった。

本年度は、修士論文執筆に向けた適切な理論と分析方法の整理を行った。また、研究活動のフィールドである日本とドイツにおいて資料収集、インタビュー調査及び分析を進めることができた。

研究資金は、以上の研究活動を支えるとともに、次年度の研究においても使用できる消耗品を購入することに充てた。本年度の研究成果に基づいて、修士論文執筆に向けた研究成果をより高いものに仕上げたいと思う。

1. 研究概要

　

本研究では同じテーマに対する多言語間に渡るメディア報道テクストの差異を明らかにすることで、メディア報道上における日本像の相対化を試みることが目的である。本研究では事例として2011年に発生した東日本大震災から一年後に発行された2012年3月11日以降のニュース情報に焦点をあて、日本語圏、ドイツ語圏、英語圏（アメリカ合衆国）それぞれの言語圏で発行された新聞記事の内容を比較分析する。また、本研究では東日本大震災によって大いに影響を受けたドイツ語圏におけるプリントメディアに重点を置き、メディア報道内容と人々の意識の違いも明らかにする。

1.1 問題背景

　

インターネットが発達した21世紀において我々は多様な情報を得ることが出来るにもかかわらず、実際に発信された言語で提供されている情報に触れる機会は非常に限られている。我々が日々得ているニュース情報に注目した場合、この現象をどう捉えることが出来るだろうか。日本で発信される多くの海外ニュースは米国の報道機関に依存している可能性が高い（金子 / DeWit, 2005）。

研究対象を日本語で発信されたニュース情報に向けた場合、他国のメディア報道においてどのように受容され、発信されるのだろうか。情報の発信と受容の間に大きな違いが存在するのではないだろうか。この点を明らかにすることで、メデイア報道上における日本像の相対化を試みることが本研究の目的である。そのための調査対象として、2011年に発生した東日本大震災から一年後に発行された2012年3月11日以降のニュース情報に焦点をあて、日本語圏、ドイツ語圏、英語圏（アメリカ合衆国）それぞれの言語圏で発行された新聞のニュース記事（プリント媒体）内容を比較分析する。

また、ニュース報道が発信する内容とメディア報道を受信する人々の意識は必ずしも一致しないのではないかと考える。本研究ではニュース報道内容と人々の考えがどのように乖離しているのかインタビュー調査を通して明らかにする。

1.2 これまでの研究成果

　

研究対象である日本語圏、ドイツ語圏、英語圏で発行された新聞記事の質的資料分析調査を行った結果、特にドイツ語圏の報道において日本語圏と英語圏とは異なるテクスト構造に違いが見られた。ドイツ語語圏における報道の特徴として、東日本大震災を振り返る際に、自国のエネルギー政策問題を同紙面上に報道する、もしくは東日本大震災を振り返る記事と共に自国のエネルギー対策に関する情報を関連付ける傾向がある。以上、構造的な特徴が見られたドイツ語圏で発行される新聞において綿密なディスコース分析を行った結果、東日本大震災を描写する際に紙面上に登場する言葉や画像の組み合わせは宗教的なコンテクストが内含されている可能性が見られた。　

ドイツ語圏で発信されているプリントメディア媒体の情報に特徴が見られたため、筆者は2012年度より継続的にドイツ語圏をフィールドとしたインタビュー調査を行っている。インタビュー調査では、東日本大震災を振り返りつつ自国のエネルギー対策、特に脱原発に関連する報道内容が見られるドイツメディア報道の内容と人々の意識の違いを追求する。2012年以降、ドイツ語圏における報道内容の変化と伴いどのように人々の意識が変化するのか明らかにしたいと考える。記事データ及びインタビュー調査データをコーディング・カテゴライズした上でパターンを比較した。これまでの調査結果としてドイツのエネルギー対策に対する実際の人々の意識には多様な考えが存在することが導かれた。特にドイツの脱原発政策に対して、被験者の将来に対する不安や現政策に対する不満が明らかになった。

2. 2014年度の活動

　

今年度は日本及びドイツにおいて資料調査、インタビュー調査を行った。ドイツでは実際新聞社に赴き参与観察を行った。

日本では日本語圏、英語圏で発行されている新聞社に所属するジャーナリストとインタビュー調査を行い、記事が生成されるプロセスを明らかにした。

2014年度9月より調査を継続するためにドイツに滞在し、テクスト分析及びテクスト分析の裏付け調査を主に遂行した。ドイツ人学生を対象に宗教的要素が見られる対象記事を被験者に与え、被験者が記事を読み、後ほどインタビューで気になったテクスト内容を問う実験インタビュー調査を遂行したところ、紙面上に登場する宗教的なテクストは被験者にとって宗教用語であると意識されていないのにもかかわらず、被験者の意識に残る影響を与える要素である可能性が見られた。また、調査の後半で宗教用語であると調査者が示唆することによって気づきを得る被験者と気づきを得ない被験者に分かれる傾向がある。原因として被験者の出身地が背景に関わっている可能性が高いと考えられる。

このことから、宗教用語は人々の意識に影響を与える機能を持つということが言える。この知見は、今後のメディア報道の見方に新たな側面を加える意義があるものであると考えられる。

3. 今後の展望

　

今後は修士論文執筆に向けて主にドイツ語圏におけるフィールドワークを中心に質的調査及び分析を進める予定である。ドイツの新聞社にて引き続き参与観察を行った上で、新聞社に所属するジャーナリスト及び編集者とインタビュー調査を行う。

また、ドイツ人学生を対象としたインタビュー調査及び分析も引き続き行う。

最終的には収集したデータをまとめ、総合的な分析を実施する。

4. 謝辞

　

本年度の研究の実施にあたって、以下の方々に感謝の気持ちを申し上げたい。まず、指導教授である藁谷先生と研究に対して新たな見方を示唆してくれた平高先生と白井先生である。また、今学期はドイツにあるハレ大学に所属するスタッフの皆さんからもクリティカルなフィードバックをいただいた。ドイツ語文化圏からの見方を得ることで、研究過程を再考することができた。

また、常に積極的にインタビュー調査に応じてくれるハレ大学に所属する学部生・大学院生の皆さんに大いに感謝の気持ちを示したい。