2014年度森泰吉郎記念研究振興基金 研究育成費(修士課程)成果報告書

ネット上の情報において、批判的思考が必要だと判断される

状況・トピックスの構造的特徴

所属:政策・メディア研究科 修士課程1

学籍番号 81424484

信清あゆみ

1.研究内容

<問題>

ソーシャルメディアの普及により、人々は情報を受信するだけでなく、手軽に発信することも可能となった。そのような状況から我々にはこれまでよりも一層、情報を吟味する能力、いわば批判的思考力を身につけることが求められている。しかし批判的思考といっても、何を以てそれが出来ているのか、その能力があるのかということに明確な答えはない。田中・楠見(2007a)では、批判的思考におけるこれまでの研究パラダイムは「使い分け」という見方が不足しているという点に着目した。批判的思考の認知プロセスモデル(田中・楠見,2007b)では、パフォーマンスとして表出される前に使用判断という段階が最初に存在することが示されている。

 そのことから、ネット社会を生きる我々がメディアリテラシーを身につけていくには、まずネット上の情報というドメインで、批判的思考の使用判断を適切に行えること、そしてそれを前提とした上で、情報を弁別するスキルを身につけることが必要だと考えられる。

<本研究の目的>

批判的思考の使用判断を適切に行えるようになるためには、まず現状で人々がどのような状況・トピックスのとき批判的思考が必要だと判断しているのか、その傾性を明らかにすることが必要となる。そこで本研究では、批判的思考の必要性判断に影響を与えると考えられる状況・トピックスがどのような要因で構成されているのかに着目して、その構造的特徴を明らかにする。 

<研究の背景>

 これまでの研究によれば、日常場面において文脈・目標という状況的要因が批判的思考の必要性判断に影響を与えることが明らかにされている(田中・楠見,2007a)。ここでいう文脈は、「〜なとき」というような形式で統一されており本研究でいう状況に相当するものである。この研究から、批判的思考の必要性判断に影響を与える文脈の特徴として、客観的基準に依拠するものか否かという要素が示されている。また、目標に関しては「正しい判断をする」「楽しむ」の違いが判断を左右していることも明らかにされた。

本研究ではこれを踏まえ、ネット上の情報において状況・トピックスが批判的思考の必要性判断に影響を与えているという仮説のもと、それらがどのような構造的特徴を持つのかを明らかにする。

2.研究活動

2.1.文献研究

本格的調査に入る前に、自分の研究の位置づけや社会的意義、目的の妥当性を明確なものにすること、そしてこれまでの再確認も含めて文献整理に時間をかけた。そのため、批判的思考に関する文献・流言の拡散に関する文献の主に2系統を俯瞰した。批判的思考の研究からは、軸となる研究を2つに定めることによって本研究で用いる理論、調査方法の方向性を固めた。

1つはKuhn et al(2000)の認識論的信念の発達に関する研究である。認識論的信念とは、知識や知ることに関して個人が抱いている信念(Hofer & Pintrich,1997)のことを指す。Kuhn et al(2000)は、本研究のトピックス選定・解釈を行う際に参考にする。もう1つは研究内容でも述べたように、田中・楠見(2007b)の批判的思考の認知プロセスモデルを本研究においての前提とする。また調査計画においては、田中・楠見(2007a)の結果から得られた文脈の特徴をもとにトピックスの選定を行う。

この2系統の関係としては、大枠のモデルとなる部分は楠見らに依拠し、知識や意見をどのように、とらえているのかそれを構成する要因についてKuhnらに依拠する。

一方で、本研究が問題として扱った題材をマクロな視点から見るために、流言の拡散に関する文献整理を行った。川上(1997)から、人は他人に情報を伝えるときそれが正しいと思って伝えているということや、宮部ら(2013)から、震災時に拡散する流言テキストは、行動を促す内容や状況の報告、回想、予測が大部分を占めるということなど実際に社会で起きた現象から直接的な問題として批判的思考がどのような位置づけにあるのかを考えた。

このような背景からも、ネットユーザーひとりひとりが情報を受け取る際、第一段階としてそれらを批判的に見ることが必要だと思っているのかどうかを知ることが重要であると言える。

 

2.2.今年度実施した調査

<第1回予備調査  1/19実施済み>

情報通信機器の利用実態など基本的な属性、また関心のあるトピックスなどを明らかにするために、大学生85名(女30名、男53名)を対象として探索的な予備調査を行った。

[主な質問項目]

・情報通信機器との接触状況・使用媒体

・メディアの特徴についての理解

・真偽に不信感を抱いたトピックス[自由記述式]

・関心を持ったトピックス[自由記述式]

※データは現在分析中である。

3.今後の調査計画

<第2回予備調査 春学期初め  実施予定4月>

第2回予備調査では、批判的思考の必要性判断を従属変数として、それに影響を与える状況・トピックスの要因を確定することを目的とする。第1回予備調査で得られた結果と先行研究をもとに、仮説として独立変数をいくつか絞ったうえで質問紙調査を行い、重回帰分析をはじめとした多変量解析を行う。

<本調査  実施予定7月>

第2回予備調査の分析結果から修正を行い、要因を明確化する。それらを独立変数として、実際の状況・トピックスを構成した質問紙調査を行う。

 

4.参考文献

 

Hofer,B.K. & Pintrich,P.R.(1997). The development of epistemological theories: Beliefs about knowledge and their relation to learning. Review of Educational Research,67, 88-140.

Kuhn,D.Cheney,R.,& Weinstock,M.(2000). The development of epistemological understanding. Cognitive Development. 15,309-328.

川上善郎うわさが走る(2011) 情報伝播の社会心理 サイエンス社

楠見孝・子安増生・道田泰司(2012) 批判的思考を育む 有斐閣

楠見孝・道田泰司(2015) 批判的思考―21世紀を生きぬくリテラシーの基盤― 新曜社 

田中優子・楠見孝(2007a). 批判的思考の使用判断に及ぼす目標と文脈の効果. 教育心理学研究,55,514-525.

田中優子・楠見孝(2007b). 批判的思考プロセスにおけるメタ認知の役割. 心理学評論,50,256-269.

宮部真衣,田中弥生,西畑祥,灘本明代,荒牧英治(2013). マイクロブログにおける流言の影響の分析,自然言語処理,20,3,485-511.