多義語の処理メカニズムに関する脳科学研究

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科2年 清水一匡

 

 

 本研究では、日本語における言語の認知、特に多義語の処理メカニズムについて扱った。

日本語は、表音文字である「かな」と表意文字である「漢字」を同時に用いる点で、特殊な言語である。一般に言語は左脳で処理されるが、先行研究から、多義語の処理には右側頭葉、或いは左側頭のブローカ野周辺の関与が示唆されている。これまで行われた研究の殆どは表音文字である「アルファベット」を用いる言語であり、日本語について、特に表意文字である漢字に関して多義語の処理メカニズムを調べた研究はこれまで存在しなかった。

本研究では、ひらがなと漢字でどのように処理に差異があるのか、また多義語処理に関連する脳活動は存在するのか、以上の2点に関して検討を行った。

近赤外線分光法(NIRS)を用い、多義語の意味認知課題を行う実験参加者の脳活動を計測した結果、ひらがなの処理では右側のブローカ野、漢字の処理では右側のウェルニッケ野が活動している事が明らかになった。また、多義語の認知の際には両側のブローカ野が活動している事が分かった。漢字の多義語とひらがなの多義語の認知時の脳活動を比較した所、ひらがなの多義語の処理時に右側のブローカ野及び左側のウェルニッケ野が活動している事が明らかになった。

 

今回の研究によって得られた成果は、下記のような応用が期待される。

1) 自然言語処理において、多義語を含む文の精度の高い処理が可能になる

2) 言語処理における役割が未解明である右ブローカ野の働きの解明に寄与する

3) アルファベットに比べて研究が進んでいない、表意文字の認知プロセスの解明につながる