2014年度 森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費)成果報告書

 

 

日本における外国人研修・技能実習事業の仕組みとその問題点

―中国人研修生・技能実習生を事例に―

 

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科

修士2

簡燕霞

kannennka1220[at]gmail.com

 

 

Ø  本年度の活動報告の概要

本年度は、主に調査で得られた資料をまとめ、修論執筆を行った。

 

Ø  キーワード

外国人研修・技能実習事業、仕組み、人権問題、中国人研修生・技能実習生

 

Ø  論文要旨

本研究は、外国人研修・技能実習事業の各段階における問題及びこれらの問題が発生し続ける理由を明らかにするものである。あわせて、本事業の仕組みに重点を置きながら、仕組みと問題からどのような社会像が見られるのか、さらに、どのように問題を解決するのかを論じる。事例として、中国人研修生・技能実習生を扱う。

まず、中国人研修生・技能実習生個人の事例を取り上げ、彼らの募集から帰国までの流れを詳説する。各段階における具体的な問題を把握したうえで、来日前と来日後という二段階に分けて、特に彼らが抱えている人権問題について考察する。具体的には、来日前の段階で、様々なしばりがある契約書と、来日後の段階で、職場における制限、生活における制限及び健康管理の問題を取り上げる。

つぎに、送り出し機関と受け入れ機関を含め、各アクターを分析し、本事業の背景となる日本と中国における社会問題を考察することによって、本事業において問題が発生し続ける理由を明らかにする。

さらに、新自由主義とグローバル経済というより大きな枠組みの中で本事業における問題を論じる。

最後に、外国人研修生・技能実習生の人権を守るという立場から解決方法を探り出し、市場に倫理的制度を埋め込むように提言を行った。

 

Ø  まとめ

本研究は、まず、各アクターへの調査に基づいて、本事業の各段階における問題を明らかにした。また、本事業の仕組みを分析することによって、なぜそれらの問題が起こり続けるのかを解明した。さらに、ミクロ的・メゾ的・マクロ的アプローチを用いることによって、問題を掘り下げたうえで、労使関係の問題、新自由主義とグローバル経済の中の問題を追求することができた。最後に、労働者の人権を守る理念を堅持したうえで、国家、市場、市民社会及び中間組織に焦点を当て、既得権益の構造を変化させる方法を含め、解決策を探り出すことができた。人権を守ることは、短期的には経済的な損失と見えても、長期的には日中関係作りにも、日本の国益にもなる。これらのミクロ的及びマクロ的な分析によって、先行研究より深く問題を掘り下げることができ、先行研究を乗り越えた。

なぜ本事業はうまく回っているように見えるかというと、ブローカーと送り出し機関の間に手数料、送り出し機関と受け入れ機関の間に管理費、受け入れ機関と受け入れ企業、受け入れ機関とJITCOの間に会員費で結ばれた関係があるからである。では、これらの膨大な金銭は誰が負担しているのかというと、結局一番下にいる研修生・技能実習生が企業を支え、企業が彼らへの賃金と同額、あるいは賃金を上回る金額で本事業を支え続けている。

労働力の国際移動分野においては、人手不足問題がカバーされているように見えるにも関わらず、国家の無責任さ及び市場の強勢さによって、弱者と強者の二極化が深刻になっている。問題を解決するヒントだと考えられるのは、ミクロ・レベルの相互扶助である。国内における貧困格差、両国間における貧困格差が存在する社会の中で、外国人と日本人の友好関係に基づく相互扶助の事例が調査の中にも出ている。つまり、人間同士は利益を奪い合う競合関係だけに存在するのではなく、「ホモ・エコノミクス」ではない関係性が異なる国同士の中でも構築されている。もちろん、このような相互扶助の関係を一般化させることは難しいが、研修生・技能実習生の人権侵害の問題を解決するにあたって、ミクロ・レベルの友好関係の構築は、両国の関係づくりにあたっても1つの救いだと考えられる。

 本研究における限界と今後の課題は2つある。1つ目は、本研究は様々なアクターと具体的な事例を取り上げたが、これらのアクターと事例の普遍性をどうやって保証するのかという課題である。今後は調査対象を拡大し、ほかの送り出し機関、受け入れ機関と中間組織も調査する必要がある。

 2つ目は、労働市場分析に関する課題である。本研究は中小企業、特に製造業全般を対象として設定し、「人手不足で悩む零細企業の生き残り戦略として活用される外国人研修・技能実習制度」という大きな枠組みによって現状を把握している。しかしながら、中小企業といっても、各産業は業種ごとに独自の形態で展開している。本研究では、業種ごとの多様な姿を描き出すことができなかった。この点は今後の課題として考察する必要がある。

 

 2014年度は、森泰吉郎記念研究振興基金(研究者育成費)の研究助成金をいただき、調査を通じて、より広範な情報収集を行った。そして、それらの調査成果を踏まえて、課題を整理し、修士論文の根幹となる枠組みを構築することができた。

本研究を支援して頂いた森泰吉郎記念研究振興基金の関係者の方々には、心から感謝の意を申し上げます。