2014年度森泰吉郎記念研究振興基金「研究育成費」研究成果報告書

政策・メディア研究科 修士課程1年
環境デザイン・ガバナンス(EG)
浅香 健太
Student ID:81424023

研究課題名

学生主導まちづくりとは:可能性とSFCにおける実践

研究概要

 近年、日本型のまちづくりは国際的に注目されている。そして日本では大学がまちづくりに関わる事例が相次いでおり、過去の調査によると大学と地方自治体が協働するまちづくりは実に191件が数えられた。そしてこのような場合、学生は研究室・ゼミ活動として地域と関わることが一般的だが、その一方で学生が自主的な活動として地域と携わっている事例がある。本研究においてはこれを「学生主導型まちづくり」と定義し、従来の住民主導、研究室・大学主導に加えた、新たなまちづくりの担い手として着目し、2つのアプローチを通して学生主導型まちづくりの可能性を研究していく。具体的には、先行事例調査・ヒアリングを通して全国各地で行われている学生主導型まちづくりの現状や課題を明らかにすると共に、実際に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下、SFC)において学生主導型まちづくりを実践する団体を運営し、SFCにおける現状の問題点を解決すると共に、可能性を、実践を通して明らかにすることが本研究の目的である。

研究の背景

 近年、日本型のまちづくりは海外において、欧米型の“Community-Development”では訳せない多岐にわたる活動として“machizukuri”といった独立した単語となりⅰ、国際的にまちづくり研究の重要性が高まりつつある。
そして日本では、まちづくりにおける“若者”の果たす役割の重要性が改めて認識されている。地域を変えるためには「よそもの」「わかもの」「ばかもの」の3要素が必要であり、まちづくりにおいてその役割を果たすのが“若者”である、と指摘されて久しい。ⅱ 実際に、過去の全国規模の調査によると、大学と地方自治体が協働するまちづくりの事例の数として191件が数えられるⅲなど、近年大学がまちづくりに関わる事例が相次いでいる。
さて、このように大学生がまちづくりに携わる場合は、研究室やゼミなどに所属して地域と関わっていくことが一般的である。柏の葉UDCKや喜多方のまちづくりもこれに該当し、“大学”と“まちづくり”と考えてすぐに思い浮かぶような事例のほとんどはこのタイプであり、これを本研究においては「研究室主導型まちづくり」と定義する。しかしながらその一方で、学生が自ら自主的にサークル活動として、まちづくりに携わっている事例がある。具体的には、東京都国立市の商店街でコミュティカフェなどを運営している一橋大学のまちづくりサークル「Pro-K」 が存在し、本研究においてはこれを「学生主導型まちづくり(団体)」と定義する。
 本研究においては、このような学生主導型まちづくりを従来の住民主導、研究室・大学主導に加えた、新たなまちづくりの担い手として着目し、2つのアプローチを通して学生主導型まちづくりの可能性を研究していく。具体的には、先行事例調査・ヒアリングを通して全国各地で行われている学生主導型まちづくりの現状や課題を明らかにすると共に、実際に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下、SFC)において学生主導型まちづくりを実践する団体を運営し、SFCにおける現状の問題点を解決するとともに学生主導型まちづくりの可能性を、実践を通して明らかにすることが本研究の目的である。

これまでの研究

 筆者は、平成25年度慶應義塾大学環境情報学部卒業プロジェクトにおいて、大学生のまちづくりへの関わり方・大学と地域との関わり方に疑問を抱き、研究室主導型・学生主導型まちづくり活動の既往研究の調査、および慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(以下、SFC)において11研究会・16団体を対象として2013年12月9日〜12月31日の間にアンケート調査を実施した。結果、組織代表者向け18、個人向け86、合計104の回答を得た。
図:SFCにおけるアンケート調査対象団体一覧・活動地域一覧
    

その結果から、以下の様な点が明らかとなった。

Ⅰ. 学生主導型まちづくりに関する研究においては、全国の学生まちづくり団体を対象に活動内容や学生の専攻分野、他団体との連携等について調査した研究や組織構成等に着目した研究、地域・大学連携まちづくりにおけるプロセスを示した研究等がある一方で、学生主導型まちづくりの利点欠点や現状の課題、学生主導型まちづくり団体の構成者に着目した研究がされてこなかった。

Ⅱ. SFCは域学連携の先進地である一方で、大学と地域(特に藤沢市)との関係が希薄である、研究会同士・サークル同士の横のつながりが希薄である、地域からの要請に答える窓口がわかりにくい、地域と関わりたい学生の受け皿となる団体が部分的にしか存在しない、といった問題点を抱えている。
このような背景から、本研究を行うに至った。

研究のテーマ

上記のような背景から、学生主導型まちづくりを新たなまちづくりの担い手として着目し、以下の様な2つのアプローチを通して研究を進めていく。

Ⅰ. 全国各地で行われている学生主導型まちづくりの先行事例をいくつか取り上げ、実際に各々の組織で活動している個々人に焦点を当て、調査・ヒアリングを実施する。その調査結果から、これまで明ら かにされてこなかった、学生主導型まちづくりの現状や課題を明らかにする。

Ⅱ. 学生主導型まちづくりを検証するため、SFCにおいて学生主導型まちづくりを実践する団体を実際に運営し、これまでの研究で明らかとなったSFCにおける現状の問題点を解決するとともに、Ⅰで明らかとなった学生主導型まちづくりの可能性を、SFCを事例の一つとして実践を通して明らかにする。

さらに、ⅠとⅡを同時進行で研究を進めていくことにより、Ⅰの先行事例を通した研究およびⅡの実践を通した研究といった2つのアプローチから共通の目的である、学生主導型まちづくりの課題・可能性といったことが明らかになり、相乗効果が期待でき、研究を円滑に進めることが可能となる。

研究の位置づけ

 現在、学生主導型まちづくりに関する研究は、小林英嗣ら著(2008)「地域と大学の共創まちづくり」ⅳに一部大学と地域の事例がまとめられている。また、山田裕喜・小松尚(2009)『学生主体のまちづくり活動の現状と課題 : 全国の学生団体を対象としたアンケート分析から』ⅴにおいては、全国の学生まちづくり団体を対象としてアンケート調査を行い、活動内容や学生の専攻分野、他団体との連携についての調査が、また学生まちづくり団体の活動場所については、山口浩介(2012)「全国の学生まちづくり団体の活動場所に関する研究」ⅵが詳しい。また、一橋大学の事例に関しては、KF書籍化プロジェクト(2012)『学生まちづくらーの奇跡―国立発!一橋大生のコミュニティ・ビジネス』にまとめられている。
 このように、これまでの学生主導型まちづくり研究においては、全国の団体に対してアンケート調査を行い統計的に研究したものや学生主導型まちづくりを行っている活動団体自身がいわば自伝としてまとめたものⅶが多く、学生主導型まちづくりに関わっている個々人の意識等に焦点を当てた研究はされてこなかった。また、学生主導型まちづくりを学問として研究しそれを実践した事例は皆無である。
 そこで、本研究においては既往研究で取り上げられてこなかったこれらの視点に着目し研究を行っていく。

研究の手法

 研究の手法については、研究のテーマで述べたⅠとⅡの2つのアプローチから以下の通りに研究していく。

Ⅰ. 全国各地で行われている学生主導型まちづくりの先行事例をいくつか取り上げ、実際に各々の組織で活動している個々人に焦点を当て、調査・ヒアリングを実施する。 具体的には、それぞれの団体の代表者の方一人一人に対してヒアリングを行い、その方がまちづくりに興味を持ったきっかけやその団体に入ろうと思ったきっかけ、現状抱えている課題等を明らかにする。 さらに、代表者以外の方にもアンケート調査を行い、これら両方の結果を他の団体の結果と合わせて分析を行うことにより、学生主導型まちづくりが抱えている利点欠点や現状の課題・可能性等を明らかにする。

Ⅱ. SFCにおいて学生主導型まちづくりを実践する団体を実際に運営し、これまでの研究で明らかとなったSFCにおける現状の問題点を解決するとともに、学生主導型まちづくりの可能性を、実践を通して明らかにする。具体的には、以下の図のようなSFCにおいて地域と関わっている団体の活動内容をまとめて情報発信する団体(仮称:SFCまちづくり委員会)を設立する。これによって、SFCにおいてまちづくりに携わっている研究会・団体をつなげ、地域との架け橋となる役割を担う。

図:団体構想図・ポスター(当初)


  

研究の意義

 本研究の意義としては、以下の様な点が挙げられる。
第1に国際的に注目されているまちづくり研究において、新たな担い手として期待されている学生主導型まちづくりについて、なぜ大学生は活動していくのか個人ベースの視点から明らかになること、さらに学生主導型まちづくりの抱えている現状の課題について2つのアプローチを通して詳しく明らかになること。
第2にⅡのアプローチを通して、現状のSFCが抱えている、地域と関わっている研究会・団体間の連携の弱さが解消され、域学連携の先進地としてのSFCの活動がさらに学生・地域の方々に認知されること。
第3に大学内の地域連携機関を学生主導で担う初の事例となり、域学連携が盛んになっている近年において、他大学におけるモデルケースとなり本研究の社会的貢献の価値が高いこと。

具体的な成果

1. 学生まちづくりの先進事例調査・ワークショップの実施(SFCまちづくり委員会)

2. SFCの学生まちづくり活動を発信するWebサイト「SFC Machi Navi」の立ち上げ

3. Open Research Forum 2014への出展



1. 学生まちづくりの先進事例調査・ワークショップの実施(SFCまちづくり委員会)

本活動は、学生まちづくりの先進事例である金沢市を実際に調査、まちづくりを担っている学生とワークショップを実施し意見交換をすることで、そこからSFCにおける学生まちづくりの手法を見出すことが目的である。

活動期間:2014年11月1日(土)〜2日(日)
活動場所:石川県金沢市片町 金沢学生のまち市民交流館等
訪問先:
・金沢まちづくり学生会議
・金沢市市民協働推進課
・金沢学生のまち市民交流館コーディネーター
参加者:10名程度(SFCの学部生・院生4名、金沢星稜大学・金沢工業大学等の学生4名、金沢市役所職員、市民交流館コーディネーター)

■活動内容

 今回の活動では、学生・市・地域が協働して活動している先進事例である、「学生のまち」を掲げている金沢市を訪れ、実際に活動している学生団体と意見交換会を実施することにより、学生まちづくりの現状の問題点や課題等を明らかにし、SFCにおける学生まちづくりの活性化の一助とすることが目的である。そこで本活動では、11月2日に金沢まちづくり学生会議・金沢市市民協働推進課・金沢学生のまち市民交流館コーディネーター等にアポイントを取り、意見交換会を実施した。
 金沢市では、平成22年に「金沢市における学生のまちの推進に関する条例」を制定、その活動を行う学生団体として「金沢まちづくり学生会議」を発足させた。活動は平成22年度を1期目とし、今年で5期目となる。1期目〜3期目まではあくまで市が主体的に地域での枠組み構築等を行ってきたが、4期目の交流イベント「OPEN CITY IN KANAZAWA」の企画・運営を皮切りに学生主体へと進化を遂げた。そして5期目となる現在は、市はあくまでサポート役として関わっていくのみであり、主要な活動の企画等は学生が主体的に取り組んでいる。 また、金沢まちづくり学生会議は複数の金沢市内の大学生が集まって活動している団体であるため、共通の活動場所が必要となる。その活動場所としては、市が中心市街地・片町の古民家を改修した学生・市民の交流の場「金沢学生のまち市民交流館」が使われており、ここに学生が訪れる他、金沢市市民協働推進課職員、市民交流館コーディネーターも常駐している。
 本活動では、そのような金沢市の学生まちづくり推進体制がどのような経緯で生まれ、現状どのような課題・問題点があるのか意見交換を行った他、SFCにおける取り組み・SFCの研究会が地域で行っている取り組み(神奈川県藤沢市・山梨県富士吉田市等)を紹介し、その活動に関する質疑応答・意見交換も行った。その際には、どのような主体と協働しているのか、どのような課題があるのか、金銭面はどのようにして活動しているのか、等の質問が挙がり、まちづくりに関する課題はどちらにおいても共通の課題があることが判明した。

     
▲金沢学生のまち市民交流館・玄関         ▲金沢学生のまち市民交流館マッチングボード

▲意見交換会の様子


2. SFCの学生まちづくり活動を発信するWebサイト「SFC Machi Navi」の立ち上げ

 前述した通り、SFCは域学連携の先進地である一方で、大学と地域(特に藤沢市)との関係が希薄である、研究会同士・サークル同士の横のつながりが希薄である、地域からの要請に答える窓口がわかりにくい、地域と関わりたい学生の受け皿となる団体が部分的にしか存在しない、といった問題点を抱えている。そこで、このような問題点を解決する一つの試みとして、SFCの地域と関わる研究会・団体の情報やニュースを一元的に取り扱うサイト「SFC Machi Navi」を立ち上げた。
実際に、まずは飯盛義徳研究室・一ノ瀬友博研究室・中島直人研究室の協力を得、それぞれの研究会の紹介コンテンツを作成した。
SFC Machi Naviに関しては、現状発展途上であるため、今後ともコンテンツの充実を目指していく。

SFC Machi Navi

     


3. Open Research Forum 2014への出展

 Open Research Forum2014企画、湘南藤沢学会「第8回 SFC学生の研究・活動発信」に応募し、「SFCまちづくり委員会 -SFCのまちづくり活動をつなげ、学生と地域との架け橋となる取組-」として出展団体に選定されたため、展示を行った。ORF2014当日はSFC生のみならず外部の来場者とも意見を交わすことができ、貴重な機会となった。

湘南藤沢学会「第8回 SFC学生の研究・活動発信」

      

総括

 この他にも過去に行った現状調査や現在進めているプロジェクトがあり(歴史まちづくり調査、郊外住宅地調査等)、ここではすべてを紹介することができず残念ではあるが、今後とも学生まちづくりへの調査・研究を進め、SFCにおける現状の問題点を解決するとともに学生主導型まちづくりの可能性を、実践を通して明らかにしていきたい。
本基金は研究を進める上で、交通費等の面で大きな支えとなり、円滑に研究を進めることが出来ました。
大変ありがとうございました。

参考文献

ⅰ Lorayne Woodend(2013), A study into the practice of machizukuri(community building)in Japan, The George Pepler International Award.
ⅱ 真壁昭夫(2012)『若者、バカ者、よそ者: イノベーションは彼らから始まる!』、PHP研究所
ⅲ 客野尚志(2011)「大学の授業を通じたまちづくり参画の持続可能な方法 -実践事例の創発概念からの考案-」『関西学院大学総合政策学部研究会』, 36,1-17
ⅳ 学芸出版社、小林英嗣+地域・大学連携まちづくり研究会編著
ⅴ 学術講演梗概集、F-1, 都市計画, 建築経済・住宅問題 11-12
ⅵ 九州大学大学院人間環境学府アーバンデザイン学修士論文
ⅶ KF書籍化プロジェクト『学生まちづくらーの奇跡―国立発!一橋大生のコミュニティ・ビジネス』学文社、2012年や鈴木誠『大学と地域のまちづくり宣言 岐阜経済大学マイスター倶楽部の挑戦』自治体研究社、2004年等。