2014年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究成果報告書

環境配慮活動を創出するプラットフォームの研究

政策・メディア研究科 修士課程1 年 井澤智里(81424077

chisaiza@sfc.keio.ac.jp

 

1. 研究背景

 社会課題の解決に向けた多様な主体間の協働の必要性は広く認識されており、協働については組織間関係論や経営学、行政学等様々な分野で分析が蓄積されつつある。一方で、戦略的協働を分析するための理論・視角についてはいまだ十分な整理・検討がなされていない、という見方もある。また環境課題についても、協働による環境配慮活動の発展が期待されているものの、ユーザーの環境意識の低さや協働に向けたリソースの不足などの課題が挙げられている。さらにそれら課題を解決するために期待されている中間支援組織やプラットフォームも発展途上にあり、理論的枠組みが構築されているとは言い難い。

 

2.研究の概要

 本研究では、協働による環境配慮活動の創出を促進するプラットフォームの設計に必要な要素を提示することを目的とする。具体的には、環境共生型のまちづくりに向けた活動をハード・ソフト両面から展開している、三菱地所による「エコッツェリア」を主な対象として、事業展開のプロセス、協働のメカニズム、そしてそれらの成果への貢献、を解明する。また、比較事例として三井不動産による「&EARTHプロジェクト」、東京急行電鉄による「住民創発プロジェクト」、および東京建物による「京橋環境ステーション」やイオンの「スマートイオン」活動等を取り上げ、環境配慮活動を創発させるプラットフォームにおける協働プロセスがどのように成果に影響を及ぼすのかを明らかにする。さらに、環境配慮活動特有の協働の難しさを踏まえた上での協働メカニズムを明らし、従来では成功事例の紹介にとどまることの多かった環境配慮活動における協働メカニズムの理論構築に寄与する。そうすることで、理論的貢献にとどまらず、“どのような内容が自社に最適かわからない”“どのように社内外の合意を得ていけばよいかわからない”など、企業担当者が抱える問題の解消につながる、実務への含意に富んだ研究を目指す。

 

3.先行研究と分析フレームワーク

 まず組織間関係や協働、プラットフォームに関する先行研究を整理した。例えば後藤は、協働に関する先行研究を、協働の類型化研究とおよび協働の実行化プロセス(資源依存モデル、取引コスト理論、制度理論、マルチプルストリームモデル)に分類した整理を行っている。小島らは、協働のガバナンスという視点から、NPO、政府、企業間の戦略的協働について「協働の窓モデル」の理論化を試みている。また憑は企業とNPOの協働事業における信頼形成やパフォーマンスの動態的な枠組みを提示している。Ansell & Gashは協働を促進する機能として、ファシリテーション的リーダーシップがプロセス全般に必要と述べ、佐藤・島岡はその発展型として企業・行政・NPO間の協働における中間支援組織の役割と機能についての理論化を試みている。他方で、中村らのように、企業内の新規事業開発担当などが、新たなエコビジネスを創出・立案できるよう支援する方法論を提案することを目的とした研究もある。

 本研究では、佐藤・島岡の中間支援組織の役割と機能についての研究を土台としながら、環境配慮活動を事業としても持続させていく上で必要な中村らのような研究成果も取り入れ、協働による環境配慮活動の創出・支援機能を果たすプラッットフォームのモデルを提示する。

3. 成果報告

主に3つのアプローチ(@総合小売業による環境配慮活動、A多様な主体間の協働モデルについて B協働を創発するプラットフォーム)から上記のとおり先行研究の整理・検討を行い、プロジェクトでの意見交換を行った。また、先進事例である三菱地所および東京急行、および企業との協働の実績のあるNPO法人ETIC.を対象にインタビュー調査および活動の視察を行った(2014年10〜)。さらに上記3社の他、&EARTHプロジェクト」「京橋環境ステーション」、「スマートイオン」を展開するイオン幕張新都心店、イオン新船橋店セブン&アイホールディングス、ユニー株式会社、そごう・西武、Jフロントリテイリング、三越伊勢丹ホールディングス、H2Oリテイリング株式会社、株式会社島屋における環境配慮活動の調査を行った。

 

4.今後の活動予定

今後は、主に調査した事例の類型化および比較分析、更なるインタビュー調査および文献調査、そしてアンケート調査を実施し、仮説モデルの構築とその精緻化を進めていく。 

以上