活動報告書
情報通信政策と経済の関係-IT成熟国、IT途上国における事例調査
政策・メディア研究科2年 大坪佳祐
2015/02/25
本研究では、政府による情報通信関連の法規制権限を増強し他諸国とは一線を画す政策アプローチを取る韓国、近年の目覚しい経済発展を受け、2億人のネット利用人口を抱えるインドを対象に、『プライバシー、セキュリティ対策の進展している国は、経済発展も進んでいる』、『都市部、地方部でのデジタルデバイドが深刻な国ほど、政策が滞る』等の仮説に基づき、ITU、WEF等の第三者機関による統計データの分析と、現地調査での専門家ヒアリングを行った。
加えて、各国のネットプライバシー、セキュリティへの対策と経済発展の因果関係を明らかにし、そこから「マルチステークホルダー・プロセス」[1]の重要性を探った。
情報通信における研究において現在最も注目されている議論のひとつが「マルチステークホルダー・プロセス」である。「マルチステークホルダー・プロセス」とは、企業や消費者、投資家、労働者、NPOなど、社会の様々な立場にある組織や個人が、参加し、学び、協力し、それぞれの役割を果たし、合意形成を行っていくプロセス[2]のことである。このプロセスは国家の政策を政府の中だけで完結させない持続可能な発展を支える新しいガバナンスのモデルとして、様々な分野において応用が進んでいる。
インターネット・ガバナンスの世界における「マルチステークホルダー・プロセス」は未だその議論の基盤を整える途上にある。2005年にチュニジアで行われた世界情報社会サミット(WSIS)において、インターネット・ガバナンスが初めて議論の的となった。その中では、現代インターネット社会に於ける米国の優位性の危険だけではなく、ICANNなどの非政府かつ非責任の民間団体が影響力を持つ現状について議論がなされ、「情報社会に関するチュニスアジェンダ」の合意に至った他、「インターネット・ガバナンス・フォーラム」の設立が決定された。WSISジュネーブで採択された原則によると、インターネット・ガバナンスとは多国間の透明性と政府や他の利害関係の完全な関与を求め且つ民主的であるべきだと確認されている。
昨今、グローバル・インターネット・ガバナンスの分野において、「マルチステークホルダー(利害関係者)」の取り扱いについての議論が加熱している。とりわけ、スマートフォンの普及によってインターネット人口が爆発的に増加していることに加え、Google Glassなどに代表されるウェアラブル端末の登場によって、新しい技術の保護や規制が急務となっている
本研究の意義は、インターネット・ガバナンスという比較的研究の進んでいない分野を、しかも「マルチステークホルダー・プロセス」に焦点を絞り分析することにある。[3]インターネットという単語を含むと、とかく技術に注目されがちだが、本研究は政策(立法)に着目することで他の研究とは異なる切り口を提示することが可能となる。そのなかで、左記に取り上げた二つの国家における情報通信政策がいかに共通しまたいかに異なり、それぞれの利害関係を以ってグローバル・インターネット・ガバナンスへの影響について検証を行い諸外国との比較分析を行うことで、今後の政策評価への一助となることも期待される。
本テーマでの研究活動は、地道なインタビュー調査やフィールドワークを多く必要とするため、今後継続的に研究活動に取り組んでゆくための、その第一段階となる資料分析や海外資料の翻訳を行い、モデルケースの調査分析を行なう事に焦点を置き前提の調査を行なう事に注力し研究を進めている。
具体的には、「経済発展」および「サイバーセキュリティ対策」、「犯罪」、「デジタルデバイド」をキーワードに据えて、上項にある通りの計画で掲げたリサーチクエスチョンや仮説を乖離する事の無い様に配慮を行ないながら情報通信政策分野におけるマルチステークホルダー・プロセスを用い行なわれた国際会議のケースを調査、分析を行なった。
インターネット・ガバナンス、情報通信政策におけるマルチステークホルダー・プロセスの取り扱いについては、2014年5月にブラジルにて開催されたNET
mundial にて策定されたキー・プリンシパルを用いて理解をする事が出来る。
@
インターネット・ガバナンスは民主的かつ、マルチステークホルダー・プロセス、ステークホルダーによる有意義な参加の上に成り立つべきである。
A
インターネット・コミュニティにおける意思決定のプロセスは、透明度、協働、責任、それぞれの原則則ってコラボレーションが図られる必要がある。
B
インターネット・コミュニティにおける共通の目的は、グローバルであり強力な、相互運用可能で安定したネットワークが万人に提供されることである。
本会議では、将来的なインターネットの成長と発展のためには、マルチステークホルダーによるガバナンス・モデルの重要性確認され、国家と非国家のアクター間の議論と「同等に」扱われることが重要であると確認された。
マルチステークホルダー・プロセスを用いた会議は先行研究によって提示されている。以下にまとめた分類と特徴は、地球環境分野における先行研究によりまとめられた物であるが、情報通信政策においても動揺のフレームワークを用いて分類を行なう事が可能であると考えている。
現状、情報の収集が出来たインターネット・ガバナンス、情報政策の分野において特定の国や地域において実施されているマルチステークホルダー・プロセスを用いた国際会議は以下の通りである。
Aviation – The Worldwide Slot
Guidelines |
The Evolution of Governance
Structure in Cryptocurrencies and the Emergence of
Code- Based Arbitration in Bitcoin |
Creative Commons (CC) |
Fighting Spam the Multistakeholder Way: A Case Study on the Port 25/TCP
Management in the Brazilian Internet |
Enquete-Kommission Internet und digitale Gesellschaft (Enquete
Commission on Internet and Digital Society) |
Multistakeholder Approaches to Water Resource Management in the
White Volta River Basin |
Multistakeholder Governance and Nodal Authority –
Understanding Internet Exchange Points |
Towards a Cyber Security Policy
Model |
A Bill of Rights for the Brazilian
Internet (“Marco Civil”) |
The Global Multistakeholder
Meeting on the Future of Internet Governance (NETmundial) |
Swiss ComCom
FTTH Roundtable |
Turkish Internet Improvement Board |
Multistakeholder Forum for Japanese Privacy Policy |
今後上記を踏まえて事例につき、分析を行ってゆくところではあるが、現時点でまとめることができる進捗状況と課題、見解を以下にまとめる。
1.
自身が参加しているKICISのマルチステークホルダー会議では、明確なアウトプットがなされていなおらず。議論が堂々巡りしている状態である。
2.
国レベルでの会議では、アウトプットの批准を表明しない国が出てきている。ステークホルダーが代表する規模が大きくなってしまうに従い、合意形成はむずかしくなるのではないだろうか。また1つのステークホルダーが圧力をかけ成果の行方を操作や妥協する事は、望ましい合意形成ではないは明白であり、上記のような折衝がNETMundialでも世界ダム委員会でも発生しており、特定の分野のみに発生する事ではない。
3.
日本のレベルでは、自治他レベル、より具体的なテーマについてのモデルのほうがより成果を挙げている。そこから見えてくるのは、ステークホルダーが細かくなればなるほど、そして数が少なければ少ないほど、合意形成はたやすいのでは無いだろうか。今後より本格的な調査を続けて結う事が必要胃なるが。マルチステークホルダー・プロセスを一番効果的に活かせるのは、規模が極端に小さい会議なのではないだろうかという見解を持った。
現時点でインターネット・ガバナンスにおける最もホットな分野であるマルチステークホルダー・プロセスをいち早く研究してゆく事で、今後議論が進むに中で直面する疑問や課題について円滑に検討を進めてゆく一助となる事ができた。この場をお借りして、実態を解明しづらい本分野について研究助成を行ってくださった関係者皆様に感謝申し上げるとともに、引き続き本テーマについて注目し、研究を続けてゆくことを約束します。
[1]平等代表性を有する3主体以上のステークホルダー間における、意思 決定、合意形成、もしくはそれに準ずる意思疎通のプロセス (内閣府の定義による)
[2]
マルチステークホルダー・プロセスに関するより詳細な定義については Hemmati, Dodds et al.(2002) による「特定の決定に利害関係 を持つ個人やグループの代表であり、当該決定 に影響を及ぼす又は及ぼし得る人々だけでなく、当該決定に影響を受 ける人々を含む」を採用する
[3]インターネット・ガバナンス領域におけるマルチステークホルダー・プロセスへの注目については、1.ITUなどの動きにみられる、国主導でのガバナンス体制への疑問 2.既存の米国政府や企業の特権的支配への不満 3.インターネット利用者の細分化と分裂 4.米国商務省によるIANA機能のICANNへの移管とその条件等の現状での課題解決をふまえ、米国による特権的な影響力を弱めつつ、 バランスを保ち広く意見を収集できる新しいガバナンスの形態として注目されている。