2014年度 森基金 研究成果報告書

メタボローム解析による卵巣がんの薬剤耐性機構の解明
The role for glutamine as a key factor of cisplatin resistance in ovarian cancer cell line A2780

生命情報科学(BI)
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科
修士課程2年 郭セイ

要旨

シスプラチンは卵巣がんを含む多くの固形がん種の治療に適用される白金錯体抗がん剤である.しかし,シスプラチンを使用した多くの患者は治療途中に獲得耐性が生じており,抗がん効果が低減するという問題がある.したがって,がん細胞の耐性獲得機構の解明はがんの薬剤耐性を克服し,治療効果を高めるのに重要である.シスプラチン耐性は複数の機序が報告されているが未だ不明な点が多く,シスプラチンの感受性を回復させる治療法は開発されていない.今回,我々はシスプラチン耐性機構の解明および耐性細胞の治療法の開発を目的とした.我々は上皮性卵巣がん細胞A2780とそのシスプラチン耐性株A2780cisを用いて,シスプラチン耐性の分子機構について検討を行った.耐性株A2780cisは親株であるA2780と比べて,約20倍の耐性を獲得していた.次に,我々はキャピラリー電気泳動飛行時間型質量分析法 (CE-TOFMS法)を用いて,両株の細胞内代謝産物プロファイルを調べた.その結果,耐性株の細胞内グルタミンレベルが親株と比べ30倍以上高いことを見いだした.グルタミンはがん細胞において重要なエネルギー源となる代謝物として知られ,我々はグルタミンの代謝とシスプラチン耐性の関連性について注目し調べた.そして,グルタミン欠乏及びグルタミナーゼ阻害により,耐性株のシスプラチン感受性を高めることに成功した.さらに,グルタミン欠乏条件下のA2780とA2780cisの代謝プロファイルから,還元型グルタチオン (GSH) レベルが通常培地培養と比べ,有意に減少したことがわかった.GSHはシスプラチンの排出と不活性化と関連性を持つことは先行研究により知られている.そのため,グルタミンの阻害はグルタチオン生産を低下させることによって,シスプラチン耐性を低下させる可能性がある.総じて,本検討により,シスプラチン薬剤耐性におけるグルタミン代謝の重要性が示唆された.

キーワード
1. 薬剤耐性,2.シスプラチン,3. 卵巣がん,4. メタボローム解析, 5. グルタミン代謝

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