大岩健太郎/政策・メディア研究科修士課程/81424183
2015年度森基金活動報告書
合板における現地材を用いた構法の研究
□概要
今年度は、フィリピンでの建築支援を通して研究テーマである合板を用いた構法について調査、実践を行った。専門技術を持たない個人によるCNCルーターの利用が拡大している点に注目し、合板の構造材としての可能性を追求した。実際にCNCルーターを使って構法の検討を行うとともに、東京理科大学の今本研究室と協力して新しい構法の強度実験も行った。
□背景
合板は四八板という統一された規格が世界中で生産されており、この規格に沿った設計を行えば遠隔地でデザインしたものを現地で組み立てることが可能である。FabLabに代表されるように、現代ではものづくりのリソースをネットワーク化する運動が活発化しており、WikiHouseのようにオープンソースのデータから住宅を作ることも出来る。また、東日本大震災で明らかになったように被災地では職人がいなくとも住宅供給が可能な仕組みが求められている。これらのことから、合板は被災地の住宅供給において有利な材料であると言える。今年度は、2013年の震災で多くの公共施設が被害を受け、また現地にFabLabを持つフィリピンボホール島を対象に、建築を専門としない人でも建設可能なベニヤハウスの建設に携わりながら、構法の面からのアプローチを行った。
WikiHouse Time-lapse(https://www.youtube.com/watch?v=fj60TkheH8M)<アクセス日:2015/02/27>
[資料1]
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目的、手法
今回の建設では合板を構造体として用いた際の最適な構法を探ることを目的とした。そのための手段として、CNCルーターを用いてプレカット図面通りの高精度な掘削が出来ることを前提とした設計を行った。また、油圧圧縮機を用いた圧縮試験によって合板の素材としての強度を測定し、合板で組み上げた構造体が成り立つための設計要件を模索した。
[資料2:shopbot]
[資料3:油圧圧縮機]
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活動プロセス
●春学期の活動
今年度の活動は、まずチーム全体で敷地周辺の文献調査を行い、その後模型を作りながら構法のスタディを行った。最初の2~3週間で全体での検討を行った後、設計班、マテリアル班、テクニカル班の3つに分かれて活動を行った。構法の検討は主にテクニカル班が行った。
テクニカル班では、初期段階で製作したスタディ模型をもとに、MDFを用いて研究室設置のCNCルーター(最大600×400)で接合部のモックアップを行った。設計班による建築の全体像が出来た時点でプレカット設備を持つ工務店に製材を依頼して、全体の1/5のモックアップを行い組み立て手順を確認したのち、6月下旬に一度FabLabボホールに出向いてテストカットを行った。ここでは1スパンあたりの面剛性を高めることが課題として浮かび上がり、設計変更を行うとともに、東京理科大での破壊実験で部材強度の測定を行った。
[資料4:MDFモック]
●夏期フィールドワーク
8月初旬に、敷地のあるフィリピン・ボホール島に渡航し、約5週間にわたって活動を行った。関係者に向けたプレゼンテーション後、敷地のあるコゴンで基礎を作るチームと、FabLab でプレカットを行うチームに分かれて活動を開始した。
FabLabチームではまず、タグビララン市内の建材店をいくつか回り、一番価格帯と資材の保管状態が安定していたBUILDERS WEARで最初の合板18mm 90枚を購入した。1スパンの部材を切り出した時点で、FabLabがある大学構内でモックアップを行い、不具合があった部分に関しては設計変更、カット図の修正などを行った。カット後サンディングと防蟻剤の塗布を行い、部材ごとにナンバリングを行った。コゴンの基礎が完成するのとほぼ同時期に運搬、組み立てを行った。組み立て後は、インテリアの家具、建具の製作を行った。カット図を無駄なくレイアウトすること、またテストカットしたものを再利用することで廃材利用を促進した。
[資料5:資材倉庫]
[資料6:構内モック]
●秋学期の活動
秋学期は、夏のフィールドワークを施工記録としてまとめるとともに、それまでの知見を活かした3m四方の大きさの「家」を製作して、2015度のORFでワークショップ、展示を行った。また強度試験を帰国後引き続き行い、合板そのものの剪断強度だけでなく楔を差し込んだ状態での部材の変化を調べた。
[資料7:強度試験]
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活動成果
まず構法の点において、日本の伝統建築に基づく楔を用いた新しい継ぎ手の形を示したことが合板の構造体としての可能性を広げた点があげられる。また強度試験によって接合部の剪断強度が約1t程度あることが明らかになり、ある程度素材の強度に頼った設計が可能なことが分かった。次に、FabLabは世界中に展開しているが、地域によって利用の仕方や利用者の意識には差がある。ボホールの場合、日本や東南アジア、オーストラリアのビジネスマンが新規事業立ち上げのために多く視察に訪れる環境にある。インタビューなどから、現地の利用者にはものづくりの技術を起業に活かそうという意識が見られた。
FabLab設立による貧困プロジェクトのアウトライン(http://yutakatokushima.com/?p=160)<アクセス日:2015/02/27>
[資料8:徳島泰さんブログ]
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課題点
今回の設計指針として、高精度な掘削ができることを前提としたことが大きなポイントであったが、職人を必要とせず一般の人でも組み上げることができるという点でこの指針は適していたとは言えない。その理由としては、接合部に設計をする上でのリスクが集中してしまった点が挙げられる。現地で実際に組み上げてみると、1mm以下のほんのわずかなずれでさえも不具合が生じることが分かった。また、CNCの管理状況によっては必ずしも精密なプレカットが行えるとは限らない。さらに、現地の気候によって合板自体の厚みが変動し、モックアップ段階でうまくいった部分がいざ現地に運搬すると接合しない、という状況が起こった。一方で現地の構法に乗っ取った外装材の施工では、ずれを許容する構法で建設されており、現地の構法との対応も今後の課題として残った。
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今後の活動
上記の課題点を踏まえた上で、今後は接合部のずれを許容しながらも構造体としての強度を失わないよう構法を発展させることが必要である。また、現地の地域性にどのように対応して行くかという点では、さまざまな地域に対応できるような環境性能をコントロールしつつ、それを可能にする構法の実現を探って行きたい。今回現地の構法に頼ったエクステリアの部分も含めて完成されたものとしてパッケージするのか、それとも現地の建設力をもっと信頼すべきなのかは今後議論すべき課題である。こうした問題に取り組むことで、今まで途上国支援や被災地支援に留まっていた活動が、都市に住む人々への新しい提案にもつながっていくのではないかと考える。
[資料9:内観写真]
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参考文献
[1] WikiHouse (http://www.wikihouse.cc/) <アクセス日:2015/02/27>
[2]田中浩也(2014)『SFを実現する -3Dプリンタの想像力- 』(講談社現代新書)講談社.