参加型スマートシティを加速させる「サイバー・フィジカル いいね!」の構築に向けて
大越匡
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 博士課程3年

背景 情報技術の発展とともに、多くの人々が暮らす都市を情報化し、人々のQuality of Life (Quality of Life)向上や社会コストの削減などの効果を狙う「スマートシティ」のビジョンが注目されている。様々な都市においてスマートシティに関する技術研究開発・実証実験のプロジェクトが実施され、多様なアプリケーションが提案されるなか、「参加型センシングにもとづく都市サービスの維持・向上」に関するアプリケーションは、代表的なアプリケーション分野と言える。例えば全米で多くの都市で使われている "See Click Fix"[1]は、道端の落書きやゴミ、道路に出来た穴など都市における「要改善点」を市民がスマートフォンから位置情報付き写真で投稿・共有することで、行政サービスによる迅速な対応を可能としている。また街中を歩く人々のスマートフォン内センサデータを共有してもらい、人々の「行列」行動など、都市における社会的なイベントの発生を検知し、行列の待ち時間情報共有や、待っている人へのインセンティブクーポン配布など新たなサービスを生み出そうとするアプリケーションも開発されている。 筆者は同アプローチよる人々の行列行動検知に関する研究を行い、国際学会において論文発表を行った。

スマートシティにおける最適なタイミング検知 本研究で本年度、具体的には、まず特にスマートシティにおけるユーザへの最適な情報通知タイミングを検知し、ユーザ側でのより多くかつスムーズな情報閲覧、認知負荷の低減といった効果を目指す研究を行った。

ユーザはスマートシティを代表とする様々な環境において、モバイル・ウェアラブル端末を含む多様なデバイスを複数併用して利用する。スマートシティにおける様々な情報がユーザに到達する一方、ユーザの「注意」(アテンション)は貴重な資源となり、コンピューティングにおけるボトルネックとなる。そのため多様な情報提供を、ユーザのアテンション状態に対して最適なタイミングで行うための、ユーザの認知負荷上昇を抑制できる情報通知のタイミングを検知する基盤技術「Attelia II」を構築し、評価を行った。

Attelia IIはユーザの多様なモバイル/ウェアラブルデバイス上で,生体センサを必要とせず、多様なサービス・アプリケーション側への改変を必要とせず動作し、実時間で情報通知タイミングを検知する。スマートフォン、スマートウォッチなどの複数のプラットフォーム上 (図1参照) でのAttelia IIプロトタイプ実装にもとづき,その有効性を示すため被験者41人による1ヶ月間の研究室外ユーザ評価実験を行った。


結果として、モバイルデバイス、ウェアラブルデバイス、およびそれらの組み合わせからなるマルチデバイス環境において、Attelia IIが検知するbreakpointタイミングでの通知が、通知受信時におけるユーザの負担を有意に抑制できることが判明した。

本研究の成果は国際会議 The 2015 ACM International Joint Conference on Pervasive and Ubiquitous Computing (UbiComp '15) [1]、国際論文誌 Pervasive and Mobile Computing Journal [2]に採録された。

[1] T. Okoshi, J. Ramos, H. Nozaki, J. Nakazawa, A. K. Dey, and H. Tokuda, “Reducing Users’ Perceived Mental Effort Due to Interruptive Notifications in Multi-Device Mobile Environments,” in Proceedings of the 2015 ACM International Joint Conference on Pervasive and Ubiquitous Computing (UbiComp ’15), 2015, pp. 475–486.
[2] T. Okoshi, H. Nozaki, J. Nakazawa, H. Tokuda, J. Ramos, and A. K. Dey, “Towards attention-aware adaptive notification on smart phones,” Pervasive Mob. Comput., vol. 26, pp. 17–34, Feb. 2016.