2015年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究成果報告書

 

「救急専用病床の待機費用の推計 救急搬送遅滞問題改善に向けて-

 

政策・メディア研究科 後期博士課程 大西遼

 

本研究では、現行の救急医療提供体制の中で救急搬送遅滞問題(所謂、たらい回し問題)を改善するため、医療機関が一般病床から救急専用病床への割当変更を行う受入条件を外部経済評価(コン・ジョイント分析法)にて推計するための予備的研究を行った。具体的には、現行制度では考慮されていない救急医療体制を常時、確保する救急専用空床確保について、医療機関へアンケート調査を行い、受入環境を推計するための研究環境を整えること(文献調査、データベースの構築、壊れていた備品の買い替え等)や学会大会での発表と意見の募集、実際に医師に研究相談を行う等である。当初の予定ではアンケートの実施までを予定していたが、予算から十分な客対数を確保することが困難であったため、アンケート調査(本調査)は来年度に行うものとして、予備調査分だけを実施することとした。

 

研究の目的

救急搬送遅滞問題は1970年代から発生し、現在まで解決できていない医療政策上の重要な問題の一つである。考えられる改善方法は医療情報の効率的伝達等も含め多岐にわたるが、病床や救急医等の救急医療体制を常時確保することはその一つの方法であると考える。

本研究では、現行の診療報酬制度においては考慮されていない「医療機関が救急患者に対応するために救急医療体制を確保しておく報酬」を便益計測法(希望点数調査による仮想市場評価によって推計し、さらにその結果を基にコンジョイント分析を行うことで実際の制度受入の可能性について提示することを目的としている。

 

本研究(本年度)の内容

 2015年度の研究では、2014年度に行ったアンケート調査に対して考察を行い、周辺領域の知識の獲得と補足として必要な情報の収集、活用できるデータベースの構築を行った。アンケートについて、具体的には満床を理由とする受け入れ拒否が相当数存在するという現状に対して、救急専用に病床を空床のまま確保する「救急用空床確保加算」の導入可能性について関東の救急告示病院を対象に行ったものである。その結果から新制度の実現性を考察し、具体的な診療報酬点数の設定や他の制度との兼ね合いを検討した。さらに、学会の大会で発表や質問を行い、診療報酬点数の専門家や現場の医師の意見を伺うことで来年度に本調査を行うための下準備が整った。具体的には、2014年度に行った仮想市場評価法による医療機関へのアンケート調査の結果を基に、提案する新制度の受け入れ条件をアンケート郵送調査にて地域を変更して2016年度に行う予定であるため、今年度はアンケートの本調査の前段階である予備調査を実施する。そのために、新たに自治医科大学の医師の協力を得て、医療現場についての見識を加えた。ただし、結果の分析については期限内に間に合わなかったため、来年度の本調査と併せて論文等何らかの形で発表したい。

 

今後の予定

 来年度予算が確保出来次第、近畿地方の救急告示医療機関に対してアンケート本調査を行う。

 

 

謝辞

 森基金の助成によって、予備調査に必要な消耗品や破損していたPC周辺機器、書籍、文献等が入手することが出来た。今後の研究にとっても大きな意味を持つものであり、厚く感謝申し上げる。