2015年度 森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

在宅・施設サービス量の設定における市町村の「自律的行動」メカニズムの解明

 

政策・メディア研究科 後期博士課程3年 鈴木 栄之心(PS所属)

 

 

 

 

 

1.はじめに

本研究は当初、在宅・施設サービス量の設定における市町村の「自律的行動」メカニズムを解明することに主眼を置いていた。

しかしながら、20159月から11月にかけて、秋田県と神奈川県の市町村と県庁を対象に計49件のヒアリング調査を実施したところ、両サービス量の設定における市町村の「自律的行動」は、最終的に介護保険料の水準に結実することが確認された。そこで、当初の研究目的や内容を変更して、保険料の設定における市町村行動を長期的に分析することとした。ただし、市町村の「自律的行動」に着眼するという研究の核心的部分に変更はない。

 

 

 

2.研究目的

新たに設定された研究目的は、6度にわたる介護保険料の設定において市町村はどの様な行動をとってきたのか、長期的な分析を行うことにある。具体的にはまず、介護保険料の設定における市町村行動を4タイプに分類した上で、社会経済要因と政治要因、外的要因、制度要因のうち、どの要因が各タイプを規定するのか分析を行う。次に、介護保険料の設定に市町村相互の参照行動は観察されるのか分析する。使用するデータは介護保険制度が施行された2000年から2015年までの15年間分のデータである。本研究により、個々の市町村の長期的な行動原理が解明されることが期待される。

 

 

 

3.保険料の種類

各市町村が設定する保険料は、以下の3種類に大別することができる。

・実質保険料:準備基金から取り崩して軽減する前の保険料

・条例保険料:準備基金から取り崩して軽減した後の保険料

・必要保険料:財政均衡を図るために結果的に必要だった保険料

 

 

 

4RQ

 本研究では、以下の2つのRQを検証する。なお、各RQの検証に当たり、編入合併や新設合併を予定している市町村は、合併に乗じて保険料を実体よりも過小に設定する機会主義的行動をとることが想定されるため、サンプルから除外して別途分析を行うこととする。

RQ1:社会経済要因と政治要因、外的要因、制度要因のうち、どの要因が各タイプを規定するか

RQ2:保険料の設定に市町村相互の参照行動は観察されるか

 

 

 

5.研究方法

(1)RQ1

RQ1ではまず、都道府県ごとに各市町村における実質保険料―条例保険料の乖離度(%)と条例保険料―必要保険料の乖離度(%)を算定して標準化を行うことにより、市町村行動を4タイプに分類する。実質保険料―条例保険料の乖離度(%)を一方の軸として設定する理由は、市町村が準備基金からどの程度取り崩して保険料を軽減させたのか、あるいは軽減させることができたのかを把握するためである。また、条例保険料―必要保険料の乖離度を他方の軸として設定する理由は、市町村がどの程度の余裕を見て保険料を設定して準備基金へ積み立てたのかを把握するためである。つまり、市町村行動が4タイプのいずれに該当するのかによって、準備基金を介護保険財政の調整弁とした市町村行動を観察することが可能となる。

次に、4タイプを従属変数にとり、独立変数に各市町村の社会経済要因と政治要因、外的要因、制度要因をとって多項ロジスティック回帰分析を行う。独立変数のうち、社会経済要因は後期高齢化率と要介護認定率、政治要因は計画策定年度の首長選挙ダミーと地方議会選挙ダミー、外的要因は参酌標準ダミー、制度要因は財政安定化基金からの貸付ダミーと地域区分の適用ダミーを採用する。なお、分析は市と町村に分けて行う。

 

(2)RQ2

RQ2ではまず、各都道府県の全市町村・老人福祉圏域・市・町村ごとに、標準化した実質保険料―条例保険料の乖離度(%)と条例保険料―必要保険料の乖離度(%)の距離行列を作成して、距離の平均値を算定する。次に、計画期間ごとにt検定を行って有意差があるのかを分析し、保険料の設定において相互参照行動は働いているのかを検証する。なお、距離の尺度は平方ユークリッド距離を用いる。

 

 

 

6.今後の方針

 研究結果を学会で発表し、修正のうえ、論文投稿を進める。