2015年度森基金研究成果報告書

日本におけるハラール認証の現状と課題

 

政策・メディア研究科

博士課程 戸田圭祐

 

1.研究概要

ここ数年日本では、ハラール認証、即ち、商品やサービスに対してそれらがイスラームの教義に適ったものであると認証団体がお墨付きを与える制度に注目が集まっているが、国内の認証団体や宗教団体のハラールの基準や認証に対する考え方は、実は様々であり、主に三つの立場に分けることができる。そこで本研究では、これら三つの立場のそれぞれについて、ハラール及び認証に対する考え方と実践、その背景と動機、そして、基準の統一や情報共有のあり方を含む喫緊の課題も含めて調査を行い、イスラームの聖典で言及されていることを踏まえつつ、ハラール認証の現状を多角的に考察する。またこのことを通じ、日本のハラールをめぐるガバナンス構築実現に向けた今後の方向性についても示唆したい。

 

2.本年度の活動報告の概要

 本年度は博士論文執筆に向けて、ハラールとその認証に関連する国内の宗教団体、認証団体の活動についての調査と、それを踏まえ明らかになった現在のハラールビジネスの課題点について研究を行った。

まず、認証からは距離をおく名古屋モスクや福岡マスジド、そしてダアワ(宣教)を目的として認証業務を行う大塚モスク関係者から直接話を聞いた。両者は認証において考え方を異にする一方で、商業主義的なハラールビジネスへの懸念という点では見解の一致が確認された。一部認証団体や経営コンサルタントによって、ムスリムへのハラール対応のハードルが、コストの面からも実際の対応面からも高くなっている現状に対して危惧しているということであった。また彼らは、ムスリムへの対応については、最低限の自然体の対応で十分であること、提供するサービスの情報提供こそ重要という点について、積極的に情報を発信していきたいということであった。

そこで次に、ムスリムへの対応のハードルが高くなっている具体例を収集し、それらについてシャリーア(イスラーム法)の観点から分析を行った。具体例の収集のためには、関連団体のHPや、該当するレポート・調査報告書、地方自治体など公共団体が発行しているムスリムおもてなしマニュアルなどを参照、比較した。そして、収集された対応例やハラールの基準について分析をするために、クルアーン、預言者ムハンマドの言行録ハディース、それらに対する注釈書(アスカラ―ニーのفتح الباري شرح صحيح البخاريなど)、法学者たちが導き出したルール・知識(フィクフ)についてのアラビヤ語の専門書(イブン・ウサイミーンのالشرح الممتعなど)を読み解いた。その結果、日本で流通している食品分野におけるハラールの情報については、主にマレーシアやインドネシアなどの認証基準に基づいているものが多いものの、それらは様々ある法解釈のうちの一つに過ぎないことが明らかになった。むしろ、緩やかな実践のほうが、クルアーンやハディースの示している教えに適っているとされる事柄も存在した。例えば、豚肉や酒を使用した調理器具や皿などの洗浄とその回数についてである。今後も、こうしたハラールの情報収集とその分析、そして関係団体へのインタビュー調査を引き続き行っていきたい。

なお、私が春学期で単位取得退学をしたため、基金申請時に予定していた地方へのフィールドワークが期間内に実現しせず、インタビューについては、対象者が都内を訪れた時に実施した。

また、SFC研究所イスラーム研究・ラボと神奈川県が917日に実施した「ムスリム観光客おもてなし研修会」において、講師として「ハラールビジネスの現状」を発表した。