2015年度　森泰吉郎記念研究振興基金 成果報告書

新しいrRNA前駆体プロセシング制御機構の提唱

慶應義塾大学大学院　政策・メディア研究科　修士課程 1年

先端生命科学 (BI)

今井淳之介

研究概要

　すべての生物種においてribosomal RNA (rRNA) はタンパク質生合成系に関与する極めて重要なnon-coding RNAであり，RNA分解酵素 (RNase) による段階的な切断過程を経て成熟化される．真核生物では，rRNA前駆体の段階的な切断過程において，エンドリボヌクレアーゼであるNob1とその補助因子であるRNA結合タンパク質Dim2/PNO1が18S rRNAの3´末端の成熟化に関与することが知られている．一方，アーキア（古細菌）ではこれらのタンパク質について分子構造学的な研究にその主眼が注がれており，rRNAの切断過程における作用機序については明らかにされていない．そこで我々は，超好熱性アーキアであるPyrococcus furiosus（P. furiosus）をモデルケースとし，各々の相同タンパク質であるPF1205タンパク質（Pf-Nob1と命名）及びPF1580タンパク質（Pf-Dim2と命名）をコードする遺伝子のクローニングとHis-tagを付加した組換え体タンパク質の精製を行った．精製されたPf-Nob1及びPf-Dim2を用いて16S rRNAの3´末端領域-ITS領域-tRNA^Alaを含むRNAプローブに対する切断活性解析を行った結果，Pf-Nob1は60℃という高温下で特異的な切断箇所が検出され，エンドヌクレアーゼ活性をもつことが確認できた．また，Pf-Dim2存在下では，Pf-Dim2の濃度依存的にPf-Nob1の切断部位が変わりうることが新たに明らかになった．そこで次に，Pf-Dim2によるPf-Nob1の切断制御機構の解明に向けて，5´RACE法によるPf-Nob1及びPf-Dim2存在下でのPf-Nob1の切断箇所の同定を行った．その結果，Pf-Nob1は16S rRNAの3´末端を主に切断することが確認され，また，Pf-Dim2存在下のPf-Nob1の切断部位はヘリックス44（H44）と呼ばれる16S rRNAの3´末端に存在する二次構造の5´側を切断することが明らかとなった．さらに，我々はこのH44に着目し，H44を短くした変異体，及び欠損したRNAプローブをそれぞれ用いてPf-Nob1による切断活性解析を行ったところ，H44の構造依存的にPf-Nob1の切断反応が活性化されていることが明らかとなった．以上の結果は，Pf-Nob1の16S rRNA前駆体の3´末端の切断はH44の構造を介してPf-Dim2によって協調的に制御されている可能性を示唆している．

・本研究は国際論文誌投稿前のため，図表及び詳細に関する報告を控えさせて頂きます．

助成期間中の研究業績

国内学会 (ポスター発表)

• 今井淳之介, 佐藤朝子, 野呂絵美子, 冨田勝, 金井昭夫. (2015) 超好熱性アーキア由来Pf-Nob1及びPf-Dim2によるrRNA前駆体のプロセシング制御, 第17回日本RNA学会, 北海道

• Shohei Nagata, Junnosuke Imai, Gakuto Makino, Masaru Tomita, Akio Kanai. (2015) “Analysis of HIV-1evolution based on the sequence similarity network and stepwise clustering of the pol proteins”, MBSJ2015, Kobe, Japan.

国内学会 (招待講演)

• 今井淳之介, 佐藤朝子, 野呂絵美子, 冨田勝, 森大, 金井昭夫. (2015) 超好熱性アーキアPyrococcus furiosusにおけるrRNA及びtRNA前駆体のプロセシング因子の系統的な解析, ワークショップ(RNA機能を制御する酵素・複合体再考), BMB2015, 神戸

受賞歴

2015年度春学期　先端生命科学研究会　優秀賞