2015年度 森基金 研究成果報告書

卵巣癌の薬剤耐性克服に向けたタンパク質一斉解析

政策・メディア研究科2年

山久保　純

概要

　これまで癌研究によって，癌細胞の分子メカニズムを解明し，癌診断，治療へ発展を遂げてきた．しかし抗癌剤治療によって一度は腫瘍が縮小するにも関わらず，一部の癌細胞が薬剤耐性を獲得することで再発癌となることが，治療への大きな障害となっている．薬剤耐性の癌細胞は，既に多くの研究が進められているが，薬剤から逃れる機構は多岐に渡るため，薬剤耐性を克服する手段は依然として確立されていない．薬剤耐性を持つ癌細胞の研究の中でも，発現するタンパク質を網羅的に解析するプロテオーム解析は，これまで薬剤耐性に関わるタンパク質を特定してきた．またリン酸化タンパク質のプロファイルを調べるリン酸化プロテオーム解析では，薬剤耐性の癌細胞に重要なシグナル伝達を明らかにしてきた．しかしこれら多くの研究は，ある一点でのタンパク質発現のみを調べており，治療後の薬剤耐性細胞がどのように薬剤から逃れるのかについてはあまり明らかになっていない．そこで本研究ではプロテオーム解析，リン酸化プロテオーム解析を用いて，シスプラチン感受性卵巣癌細胞 (A2780) とシスプラチン耐性細胞 (A2780cis) について，シスプラチン投与後における応答の違いから，シスプラチン耐性に特徴的な機構や，新規薬剤標的となるタンパク質の探索を行った．得られた時系列データの解析からDNA損傷応答や細胞周期に関わるタンパク質のリン酸化発現変動がA2780cisで異なることを観察し，さらにA2780cisは複数の薬剤耐性機構を発現することで，シスプラチン耐性を獲得していることが示唆された．またA2780とA2780cisで発現差があり，かつシスプラチン耐性との関与が報告されていないタンパク質，リン酸化タンパク質，キナーゼを探索し，その内いくつかはmRNAの発現も確認した．以上より，本研究ではこれらのタンパク質を含め，新たな治療方法として提案できると期待できる薬剤耐性に関わるタンパク質を推定した．

※ 本報告書はweb公開されるため，論文発表前の詳細なデータは除いて作成した．

研究業績

・ 国際学会 (ポスター発表)

“Dynamic Proteome Analysis of Cisplatin-Resistant Cancer Cells.”

cBio2015，2015/5

Jun Yamakubo，Masaru Mori, Kumar Selvarajoo, Masaru Tomita