2015年度森泰吉郎記念研究振興基金「研究育成費」研究成果報告書

政策・メディア研究科 修士課程2年
環境デザイン・ガバナンス(EG)
浅香 健太
Student ID:81424023

研究課題名

東京多摩地域・東京近隣3県における地域の愛着・居住地選択に関する研究

研究概要

 東京郊外(東京多摩地域・神奈川県・埼玉県・千葉県)は東京特別区と密接なつながりを有しており、東京特別区への通勤・通学比率が高い。一方で、このような地域では地域の大部分がベッドタウンと化しており、これまで東京の成長と共に人口が流入し成長を続けてきたが、一部自治体では流入人口の減少による少子高齢化といった問題が指摘されている。このような問題は一部自治体のみの問題ではなく、近い将来多くの自治体が直面する問題である。そこで本研究では、「地域の愛着」に着目し、市区町村が実施している市民意識調査を用いて、東京多摩地域・東京近隣3県における地域の愛着度を分析することで地域の愛着度が高い地域を可視化、その要因を解明する。その後、一部自治体をケーススタディとして取り上げ、他の都市圏(大阪都市圏、名古屋都市圏)と比較することにより、それぞれの地域の愛着度と居住地選択との関係性を考察し、あるべき地域の将来像を導き出すことが本研究の目的である。

研究の背景

 近年、東京圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)への人口流入が続いており、総務省によれば2013年には転入超過が前年比2万9315人増の9万6524人となっている。しかし、こうした転入超過の一方で、市区町村レベルでみれば既に人口減少に転じたところもあり、転換期は始まったと考えて良い。ⅰ
実際に、東京近郊のベッドタウンである所沢市では2040年までに人口は11.1%減少し、2040年には5人に2人が65歳以上、老齢化率は39.4%に達するとの予測もある。
このような東京郊外地域(東京多摩地域・神奈川県・埼玉県・千葉県)は東京特別区と密接なつながりを有しており、東京特別区への通勤・通学比率が高いため、このような地域では地域の大部分がベッドタウンと化しており、これまでは東京の成長と共に人口が流入し成長を続けてきた。しかし、前述した通り、既に一部自治体では流入人口の減少による少子高齢化といった問題が指摘されている。このような問題は一部自治体のみの問題ではなく、近い将来多くの自治体が直面する問題であり、首都圏のみならず日本全国の住宅地が抱える課題である。
つまり、これからの郊外住宅地では、まちを存続させるために人口を維持する必要があり、そのためには、居住地選択で積極的理由から選ばれていく必要がある。
そのような居住地選択において、重要な指標となってくるものが、住民一人ひとりが自らの住む地域を誇りに思う、いわゆる“シビックプライド”や地域の愛着である。
 そこで、本研究では郊外住宅地における地域の愛着を可視化するため、市区町村が実施している市民意識調査を活用し、まちづくり活動や地域活性化意向、定住意向に関係性がある「地域の愛着」度を明らかにしていく。さらに、その結果を地図ベースに落とし込み、地理的特性も考慮し、地域の愛着を高めることに成功している自治体の要因を解明する。
その後、一部自治体をケーススタディとして取り上げ、他の都市圏(大阪都市圏、名古屋都市圏)と比較することにより、それぞれの地域の愛着度と居住地選択との関係性を考察し、あるべき地域の将来像を導き出すことが、本研究の背景である。

既往研究

  本研究における直接的な既往研究は存在しないが、関連分野における研究は以下の通りである。

◆居住地選択:
大江守之ら(2006)『東京大都市圏郊外地域における世代交代に関する研究』
羽生和紀(2001)『居住地選択における場所イメージの影響』
菅康弘(2006)『よそ者であることを<選択>する-居住地選択と愛着の位相-』
◆郊外・首都圏:
三浦展ら(1987)『「東京」の侵略―首都改造計画は何を生むのか』
原田博夫ら(2010)『東京近郊の人口・社会・経済の現状と変貌: 鉄道路線別の考察』
◆地域の愛着:
伊藤香織ら(2008)『シビックプライド―都市のコミュニケーションをデザインする』
豊田尚吾(2013)『「地域への愛着」が地域再生に果たす役割―地域アイデンティティ確立に貢献』
長谷起世子(2013) 『地域への定住と愛着心からみるまちづくりに関する研究 : A市C地区における住民の意識分析』
鈴木春奈ら(2008)『地域愛着が地域への協力行動に及ぼす影響に関する研究』
鈴木春奈ら(2008)『「消費行動」が「地域愛着」に及ぼす影響に関する研究』
◆市民意識調査:
大谷信介ら(2002)『これでいいのか市民意識調査 大阪府44市町村の実態が語る課題と展望』

図:シビックプライドの相関図


図:地域の愛着を構成する要素

 上記の既往研究から、地域の愛着はまちづくり、地域活性化に対して統計的に意味のあるプラスの効果があると実証されている。また、継続居住年数は地域の愛着の形成につながり、それがまちづくり活動へとつながっていくことが示されている。
つまり、地域の愛着は居住年数、定住意識、住民の参加意思が循環的に関係して形成され、場に対する帰属意識の高まりが定住意識の高揚につながり、定住意識の高揚がまちへの愛着を形成し、まちへの愛着がまちづくりへの思いの芽生え・成長を促し、さらにまちづくりへの行動につながるⅳサイクルが確認されているのである。
そこで本研究では、これまで定量的に分析されることの少なかった地域の愛着を、市区町村が実施している市民意識調査を用いて可視化し地図ベースに落とし込み、分析・考察していく点に新規性がある。

研究の意義

本研究の意義としては、以下の様な点が挙げられる。

第1に、すでに一部地域で発生しつつある、人口減少を防ぎ、居住地選択で積極的理由から選ばれ、都市間競争で生き残っていく手法が見出されることで、自治体の存続性・持続可能性が維持されること。
第2に、これまでにまちづくり活動や地域活性化意向に関係があるとされながらも、定量的に分析されることのなかった地域の愛着が可視化されること。
第3に、ケーススタディや他の都市圏との比較分析を通して、人口減少社会におけるふさわしい郊外住宅地像を探る一助となること。


具体的な成果

・平成27年度修士論文『都市の評価指標としての「地域愛着度」-首都圏近郊自治体の市民意識調査に着目して-』の執筆


1. 論文要旨

 東京郊外地域は特別区への通勤・通学比率が高い。このような地域はこれまで東京の成長と共に人口が流入し成長を続けてきたが、市町村レベルでみれば既に人口減少に転じたところもあり、転換期は始まっている。
全国896自治体に消滅可能性があると2014年5月に発表された「増田レポート」も記憶に新しく、その中には東京郊外67市区町村も含まれている。
また都市において近所付き合いの希薄化による防災レベルの低下、高齢者・若者・子育て世代の孤立といった様々な社会問題が発生している。このような課題解決のため近年地域コミュニティやまちづくりが注目されその中でも注目されているものが「地域愛着」である。地域愛着は都市における協力行動やまちづくりへの関与促進につながることが示唆され、注目を集めている。
そこで本研究では「地域愛着度」に着目し、東京郊外自治体において「地域愛着度」指標がどの程度調査・活用され、都市の評価指標としてどのようなことを示すことができるのか解明することで、これからの郊外都市は地域愛着をどのように活用していくべきか、分析することを期待し研究テーマを設定した。
 本修士論文は、序論・本論・結論から構成される。序論ではまず、第1章で住宅地や東京郊外を取り巻く課題や地域愛着を取り巻く概観をまとめ、本研究の意義と目的を明らかとした。
本論では、まず初めに第2章で地域愛着と郊外の変遷について触れ、地域愛着の定義の変遷や東京郊外地域の変遷について概観した。地域愛着は、「人々と特定の地域をつなぐ感情的な絆」であり、東京郊外は「山の手」の拡大から、鉄道の発達に伴う遠距離地域への開発等の歴史を歩んできた。
第3章では本研究の主軸となる地域愛着度と定住意向の比較評価を行った。地域愛着度は、東京郊外地域の41の自治体が調査しており、神奈川県川崎市や千葉県船橋市、埼玉県所沢市といった特別区から距離が近い地域や、神奈川県葉山町・千葉県睦沢町といった町も含まれている。
第4章ではケーススタディとして千葉県印西市を選択し、詳しく分析している。この分析から、地域愛着度はニュータウン、既成市街地、市街化調整区域といった市街地の特性によって異なる傾向を示し、地域愛着度の活用は課題が残るといった点が明らかとなった。
結論は第5章でこれまでの研究成果を踏まえ、都市の評価指標として「地域愛着度だけで都市像を評価するのは難しい」という点を示唆した。
その一方で、地域愛着度が高いと人口が増加する傾向や、地域愛着度と定住意向の間には、あくまで傾向であるが正の相関がある点、地域愛着度は自治体の地区内分析に有効であることから地域の課題解決や問題把握に利用できる点、自治体は住民の方が地域愛着や定住等について話し合う場の創出を目指し、そのような場で自治体・住民の両者が地域愛着を高める要素を認識・理解し、積極的に行動していく必要がある点を指摘している。


2. 発表レジュメ











 

3. 発表スライド

修士論文最終発表資料.pdf(16.7MB)