ソーシャルリソース最適配置の為の連携型センシング
近年,センサネットワークと携帯端末を利用したセンシングが普及している.携帯端末を利用したセンシング中で,特にユーザが意識的にセンサとして働く参加型センシングでは,例えば場所や天気の様子に関するタスク(あるセンシングの目的)を閲覧・選定し情報収集・提供する.しかしタスクの種類によって更新頻度や内容が異なることから,どのタスクを選定し情報収集・提供することが最も必要とされているかが分かり辛い. 本研究では,人々が日常的に持つモバイル端末や PC 端末を通して情報をやり取りする参加型セ ンシングを利用し,その技術を市民参加型まちづくりにも適用することを目的とする.これまで提 案されてきた参加型センシングのためのシステムは,必ずしも幅広い課題を対象とした市民参加型 まちづくりを対象としたシステムではなく,センシングのタスクが限定的でタスクの参加にアプリ ケーションのインストールが必要であるため,広く市民が容易に扱えるものとしては設計されてい ない.また,これまでの参加型センシングの研究例では,キャンパス内の限られた空間や,市を対 象としていても固定的なタスクのみの実験が主である.実際に多様な質問を行政側が日々設定し, それに対して市民がどう回答を行うのか,実際の実験を通じて評価する必要がある.さらに参加型 センシングではタスクによっては位置情報の提供が求められる場合があるため,自身の位置情報付 きの回答を行うことに対して,実際の実験を通じ不特定多数からの評価が必要である. 本研究では,市民参加型まちづくりのための行政と市民間のコミュニケーションツールである参 加型センシングシステム,MinaQn を構築し,藤沢市,茅ヶ崎市,寒川町の 3 都市で市の職員・ 市民を対象とした 2 週間の実証実験を行った.結果,定性的及び定量的なデータでシステムの有 効性を示すとともに,市民の位置情報提供に対する考えや意識を把握することができた.また, MinaQn では市民から提供された情報はオープンデータとして提供可能で,XMPP の技術を用い て統一化されたフォーマット及びプロトコルで収集されるため,従来の物理センサなどのデータと 同様に扱ったり動的に質問フォームを生成したりすることが可能となった.
近年,安価で高機能かつ高精度な物理センサの普及によ りセンサネットワークにおける研究が盛んである.物理セ ンサを用いると湿度や照度などの環境情報を定量的に取得 することが出来る.また,携帯端末を用いたセンシングが注目されている.スマートフォンは加速度センサや気圧センサなど様々な物理センサを搭載しているだけでなく,セ ンサの値や位置情報といった定量的な値の取得も可能であり,写真,コメントといった人の感性から得られる定性的な情報のリアルタイムな取得媒体としても利用できる.携帯端末を用いたセンシングのひとつに,参加型センシング (Participatory sensing)がある.参加型センシングにはユーザが意識的に行うセンシングと無意識的に行うセンシングがある.ユーザがセンシングに無意識的または意識的に参加することで達成される目的のことを本論文では「タスク」と呼ぶ.無意識的な参加とは,例えば騒音レベルが分かる物理センサを用いて「歩いている間の騒音度を取得してください」というものである.一方で意識的な参加とは,アンケートを利用して「今の天気はどうですか」と尋ねることなどを指す.このようにタスクはセンシングの具体的な収集目的のことでありセンシングシステムの管理者や他ユーザが提示する. 一方、都市計画 (Urban planning, City planning) とは,都市の将来あるべき姿(人口,土地利用,主 要施設等)を想定し,そのために必要な規制,誘導,整備を行い,都市を適正に発展させようとす る方法や手段のことである [45]. 都市計画上の課題として,防犯や防災,都市交通,都市景観,大 気汚染,ゴミ・廃棄物処理など様々な課題が挙げられる.市民参加型まちづくり (Participatory planning) とは,まちづくりの過程に市民を巻き込むことであり,実際の都市の中で起こってい る問題を素早く発見,解決できる可能性が高いため,近年多くの都市が注目をしている [17].市民 参加型まちづくりにおいて重要な尺度のひとつが,市の職員と市民の間でのコミュニケーションの 活性度合いである.市の職員は市民が日常生活で何を思い,感じているか,どのような日常生活を 送っているかを把握することでそれらを市政運営や政策立案に役立てることが出来る.コミュニ ケーションを活性化するためには,市の職員にとっては,尋ねたい質問をリアルタイムに聞き,得 られた意見をもとに何らかのアクションを起こすこと,そして市民にとっては,自分の持つ情報や 要望をいち早く伝えることのできる仕組みが必要である.
既存の市民調査やアプリケーションでは,コミュニケーションの頻度が少なく問題を発見するた めの質問の内容も限られている.本研究では,人々が日常的に持つモバイル端末やパソコン端末を 通して情報をやり取りする参加型センシングを利用し,その技術を市民参加型まちづくりにも適用 することを目的とする.これまで提案されてきた参加型センシングのためのシステムは,必ずしも 幅広い課題を対象とした市民参加型まちづくりを対象としたシステムではなく,センシングのタス クが限定されていたり,タスクの参加にアプリケーションのインストールが必要であったりするな どの制限が存在しており,様々な課題に関して,広く市民が容易に扱えるものとしては設計されて いない.また,これまでの参加型センシングの研究例では,キャンパス内の限られた空間や,市を 対象としていても固定的なタスクのみの実験が主である.実際に多様な質問を行政側が日々設定 し,それに対して市民がどう回答を行うのか,実際の実験を通じて評価する必要がある.また参加 型センシングではタスクによっては位置情報の提供が求められる場合がある.プライバシーの意識 が高まる現在の社会において,市民が自身の位置情報付きの回答を行うことにどういう意識を持っ ているか,実際の実験を通じ不特定多数からの評価が重要となる.また,市民から提供された情報 は公共財として活用されるべきで,プライバシー情報を除いた上でオープンなセンサ情報として広 く容易に共有可能であることが望ましい. 本研究ではこれらの課題を解決し,市民参加型まちづくりのための行政と市民間のコミュニケー ションツールとして活用可能な参加型センシングシステム,MinaQn を構築するとともに,実際の 職員・市民を対象とした実験を通じてこれらの疑問を明らかにする.本研究では,藤沢市,茅ヶ崎 市,寒川町の 3 都市で 2 週間の実証実験を行い,MinaQn の効果を定量的及び定性的に評価した. 2 本論文の意義は以下の 3 点である.
本節ではMinaQnのシステムデザイン及び実装について示す.MinaQnでは,一般的なタスクと特別なタスクの 2 種類のタスクが存在する. 一般的なタスクとは,都市の建物や道などインフラの整備具合や清掃具合,健康 状態,避難所の認知度,交通状況やある場所の天気など,毎日の生活の中で市の職員が尋ね たい質問である.これは市民の市に対する意見や要求も含む.具体的な質問例として「桜の 開花状況を教えてください」,「周りでどのくらいの人がインフルエンザにかかっています か」といった質問である.一方で,一般的なタスクへの回答やセンシングされた情報,さら に何らかのイベントに基づき,市の職員といったセンシングタスクの編集者は次の特別なタ スクを作成する. 特別なタスクとは,日常生活の中で定期的に尋ねたい質問に比べて,災害時の被害 情報の把握など,一定期間のみ特別に聞きたい質問内容や緊急性を要する質問のことであ る.例えば「避難先には怪我をしている人がいますか」,「避難先には十分な食物があります か」といった内容である.特別なタスクにはプライバシーを考慮した上で位置情報も付加す ることを想定している.このように市の職員が一般的なタスクや特別なタスクの設定と回答を動的に繰り返すことで,リ アルタイムに市民の意見や状態を把握することができる.これらの情報が市側にとって,次のアク ションを起こす判断材料のひとつとなり得ると考えられる.
MinaQnの要件として利用容易性,導入用意性,相互運用性,オープン性が挙げられる. MinaQn はこれらの要件を満たさ れるように実装された. 詳細なシステムデザイン及び実装については下記記載の論文の中に記載したが,MinaQnでは汎用 性と拡張性を実現する XMPP をベースとしたセンサネットワークを実現するために,XEP の publish-subscribe extension を用いた.次に,Sensor-Over-Xmpp を拡張 した参加型センシングのための統一センサデータフォーマットを実現するために,Sensor Andrew を用い,参加型センシングのために本研究で拡張した独自のスキーマを開発した. 最後に,位置情報を含むセンサデータ収集が可能な直感的な編集・回答 Web インタフェースを実 現するために,BOSH を利用した Web 参加型センシングを実装したことと,HTML Geolocation API を利用した位置情報の取得を行った.
本研究では,構築した MinaQn を実在の都市を対象として使用し,実際の市の職員・市民が関 わる実験を通じてこれらの疑問を明らかにする.評価では,平常時の運用を想定して位置情報を付 加せず日常的な質問を配布する評価,災害時の運用を想定して位置情報を付加した質問を配布する評価及び位置情報提供への意識調査,システムを利用する市民からのフィードバックと質問を実際 に設定する市職員からのフィードバックを行った. 実証実験では神奈川県藤沢市,茅ヶ崎市及び寒川町の 3 都市で2週間実証実験を行った. 今回,全部で 5 つの Web サイトに実験期間中リンクを貼ってもらい,実験を行った.
本研究のコントリビューションとして,市の職員と市民とのコミュニケーションを活 性化するための,オープンかつ拡張性のある Web 参加型センシングプラットフォーム MInaQn の 設計と実装,MinaQn の評価と結果考察及び将来の参加型センシングを利用したスマートシティ構 築のためのデザインが挙げられる.しかし,実際の使用に向けて,さらに MinaQn を改善していくためにはより長期の実験を行う必要がある.これにより多くのデータを 収集し新たな知見が得られるだけでなく,より多くの市の職員及び市民からシステムのフィード バックを得ることができる. 参加人数を増やすためには,市民参加型まちづくりのコンセプトや知識を広め,MinaQn のよう なシステムの認知度を上げることに加えて,何らかのインセンティブを与えることを考慮する必要 がある.そのためのひとつとして,評価結果から明らかになったように,それぞれの質問を行う意 図を明確にし,市民に提示することで参加する人々の意欲を増加させられる可能性がある.また, 既存の Web サイトに質問 URL を組み込むだけでなく既存のスマートフォンアプリケーションに も質問を組み込むことで適切なタイミングで push 通知を利用した参加のきっかけを与えることも 考えている. そして,特に市の職員が扱う参加型センシングタスクの定義,配布を行う画面のインタフェース を改善すると同時にシステムの可用性を高め,メンテナンスのしやすいシステムを作成することで より多くの質問数,質問カテゴリ,参加者,質問配布箇所を対象とした広範囲,長期間に渡る実験 を行う. 最後に,回答する市民の信頼性を担保する必要がある.今後,プ ライバシーを考慮した上で一人一人を識別するユーザ ID などを発行することで重複した人の回答 を防ぐことができると考えている.また,発言内容の信頼性に関してはインセンティブを与えるこ とで参加意欲を増加させたり,より確からしい回答データを多く集めるために参加人数を増加させ たりすることを考えている. 自由記述の際の荒らし対策に関しては,自由記述の場合のみ事前に回答データの可視化の際に フィルタリングを行ったり,自動的に予約された誹謗中傷の可能性のある単語を削除したり,書き 込みへの第三者からの通報機能を付けたりすることで予防をすることを考えている. 本研究で得られた知見をもとに,以上の課題を解決した上で,今後の展望として,参加型センシ ングだけでなく物理センサや Web ページ,ドローンの取得するセンサデータなど他のセンシング データを組み合わせて使用することで複合的なセンシング環境を実現することも考えている.ま た,得られた情報を可視化し提示する際にも Web ページ上だけで公表したりするのではなく,例 えば災害時に避難状況をテレビで放送したりプッシュ通知でスマートフォンに配布したりすること で市の職員だけでなく市民も次の行動決定の補助となり得る.これにより,ひとつの地域の参加型 センシングの結果をその場限りのものにするのではなく,他都市や国で収集されたセンサデータを 共有したり有効利用したりすることで個々の都市のフレームワークを超えたコミュニティの形成を することが可能になるだろう.
今学期は、以上に説明した研究に関して、国際学会(Ubicomp2015内のWorkshop:Smartcities 2015)に論文を投稿し、2015年9月7~11日に大阪にて発表を行い、他の関連研究について知見を深めた.また、9月に行われた研究合宿で得られたフィードバック等を生かし、12月に締め切りであった情報処理学会の論文誌ユビキタスコンピューティングシステム(V)に投稿し、現在審査待ちである。さらに11月21日から22日にかけて六本木で行われたORF2015(SFC Open Research Forum)にてポスター発表及びデモを行った。また、本研究は修士論文としてまとめ、提出を行い、最終発表を行った。 また、本研究が課題として挙げている、参加センシングへの参加機会創出の発見のためのセンシングデザインやインセンティブを研究するために新しくエンターテイメント性を加えたシステムを提案しており、現在はこのシステムの実装及びSFCキャンパスや駅を利用した実験に向けて準備を進めている。これらに関して、国内学会論文誌及び国際学会への投稿を目標としている。
本研究の詳しい内容を以下にまとめた。
MinaQn:Web-based Participatory Sensing Platform for Citizen-centric Urban Development