2015年度 森泰吉郎記念研究振興基金 研究成果報告書

氏名
坂村 美奈
学籍番号
81424393
ログイン名
minarom
所属
政策・メディア研究科 修士課程2年
専攻
CI (Cyber Informatics)ユビキタスコンピューティング&ネットワーキングプロジェクト

研究課題名

ソーシャルリソース最適配置の為の連携型センシング

研究概要

近年,センサネットワークと携帯端末を利用したセンシングが普及している.携帯端末を利用したセンシング中で,特にユーザが意識的にセンサとして働く参加型センシングでは,例えば場所や天気の様子に関するタスク(あるセンシングの目的)を閲覧・選定し情報収集・提供する.しかしタスクの種類によって更新頻度や内容が異なることから,どのタスクを選定し情報収集・提供することが最も必要とされているかが分かり辛い. 本研究では,人々が日常的に持つモバイル端末や PC 端末を通して情報をやり取りする参加型セ ンシングを利用し,その技術を市民参加型まちづくりにも適用することを目的とする.これまで提 案されてきた参加型センシングのためのシステムは,必ずしも幅広い課題を対象とした市民参加型 まちづくりを対象としたシステムではなく,センシングのタスクが限定的でタスクの参加にアプリ ケーションのインストールが必要であるため,広く市民が容易に扱えるものとしては設計されてい ない.また,これまでの参加型センシングの研究例では,キャンパス内の限られた空間や,市を対 象としていても固定的なタスクのみの実験が主である.実際に多様な質問を行政側が日々設定し, それに対して市民がどう回答を行うのか,実際の実験を通じて評価する必要がある.さらに参加型 センシングではタスクによっては位置情報の提供が求められる場合があるため,自身の位置情報付 きの回答を行うことに対して,実際の実験を通じ不特定多数からの評価が必要である. 本研究では,市民参加型まちづくりのための行政と市民間のコミュニケーションツールである参 加型センシングシステム,MinaQn を構築し,藤沢市,茅ヶ崎市,寒川町の 3 都市で市の職員・ 市民を対象とした 2 週間の実証実験を行った.結果,定性的及び定量的なデータでシステムの有 効性を示すとともに,市民の位置情報提供に対する考えや意識を把握することができた.また, MinaQn では市民から提供された情報はオープンデータとして提供可能で,XMPP の技術を用い て統一化されたフォーマット及びプロトコルで収集されるため,従来の物理センサなどのデータと 同様に扱ったり動的に質問フォームを生成したりすることが可能となった.

背景と問題意識

近年,安価で高機能かつ高精度な物理センサの普及によ りセンサネットワークにおける研究が盛んである.物理セ ンサを用いると湿度や照度などの環境情報を定量的に取得 することが出来る.また,携帯端末を用いたセンシングが注目されている.スマートフォンは加速度センサや気圧センサなど様々な物理センサを搭載しているだけでなく,セ ンサの値や位置情報といった定量的な値の取得も可能であり,写真,コメントといった人の感性から得られる定性的な情報のリアルタイムな取得媒体としても利用できる.携帯端末を用いたセンシングのひとつに,参加型センシング (Participatory sensing)がある.参加型センシングにはユーザが意識的に行うセンシングと無意識的に行うセンシングがある.ユーザがセンシングに無意識的または意識的に参加することで達成される目的のことを本論文では「タスク」と呼ぶ.無意識的な参加とは,例えば騒音レベルが分かる物理センサを用いて「歩いている間の騒音度を取得してください」というものである.一方で意識的な参加とは,アンケートを利用して「今の天気はどうですか」と尋ねることなどを指す.このようにタスクはセンシングの具体的な収集目的のことでありセンシングシステムの管理者や他ユーザが提示する. 一方、都市計画 (Urban planning, City planning) とは,都市の将来あるべき姿(人口,土地利用,主 要施設等)を想定し,そのために必要な規制,誘導,整備を行い,都市を適正に発展させようとす る方法や手段のことである [45]. 都市計画上の課題として,防犯や防災,都市交通,都市景観,大 気汚染,ゴミ・廃棄物処理など様々な課題が挙げられる.市民参加型まちづくり (Participatory planning) とは,まちづくりの過程に市民を巻き込むことであり,実際の都市の中で起こってい る問題を素早く発見,解決できる可能性が高いため,近年多くの都市が注目をしている [17].市民 参加型まちづくりにおいて重要な尺度のひとつが,市の職員と市民の間でのコミュニケーションの 活性度合いである.市の職員は市民が日常生活で何を思い,感じているか,どのような日常生活を 送っているかを把握することでそれらを市政運営や政策立案に役立てることが出来る.コミュニ ケーションを活性化するためには,市の職員にとっては,尋ねたい質問をリアルタイムに聞き,得 られた意見をもとに何らかのアクションを起こすこと,そして市民にとっては,自分の持つ情報や 要望をいち早く伝えることのできる仕組みが必要である.

目的と研究意義

既存の市民調査やアプリケーションでは,コミュニケーションの頻度が少なく問題を発見するた めの質問の内容も限られている.本研究では,人々が日常的に持つモバイル端末やパソコン端末を 通して情報をやり取りする参加型センシングを利用し,その技術を市民参加型まちづくりにも適用 することを目的とする.これまで提案されてきた参加型センシングのためのシステムは,必ずしも 幅広い課題を対象とした市民参加型まちづくりを対象としたシステムではなく,センシングのタス クが限定されていたり,タスクの参加にアプリケーションのインストールが必要であったりするな どの制限が存在しており,様々な課題に関して,広く市民が容易に扱えるものとしては設計されて いない.また,これまでの参加型センシングの研究例では,キャンパス内の限られた空間や,市を 対象としていても固定的なタスクのみの実験が主である.実際に多様な質問を行政側が日々設定 し,それに対して市民がどう回答を行うのか,実際の実験を通じて評価する必要がある.また参加 型センシングではタスクによっては位置情報の提供が求められる場合がある.プライバシーの意識 が高まる現在の社会において,市民が自身の位置情報付きの回答を行うことにどういう意識を持っ ているか,実際の実験を通じ不特定多数からの評価が重要となる.また,市民から提供された情報 は公共財として活用されるべきで,プライバシー情報を除いた上でオープンなセンサ情報として広 く容易に共有可能であることが望ましい. 本研究ではこれらの課題を解決し,市民参加型まちづくりのための行政と市民間のコミュニケー ションツールとして活用可能な参加型センシングシステム,MinaQn を構築するとともに,実際の 職員・市民を対象とした実験を通じてこれらの疑問を明らかにする.本研究では,藤沢市,茅ヶ崎 市,寒川町の 3 都市で 2 週間の実証実験を行い,MinaQn の効果を定量的及び定性的に評価した. 2 本論文の意義は以下の 3 点である.

MinaQn

本節ではMinaQnのシステムデザイン及び実装について示す.MinaQnでは,一般的なタスクと特別なタスクの 2 種類のタスクが存在する. 一般的なタスクとは,都市の建物や道などインフラの整備具合や清掃具合,健康 状態,避難所の認知度,交通状況やある場所の天気など,毎日の生活の中で市の職員が尋ね たい質問である.これは市民の市に対する意見や要求も含む.具体的な質問例として「桜の 開花状況を教えてください」,「周りでどのくらいの人がインフルエンザにかかっています か」といった質問である.一方で,一般的なタスクへの回答やセンシングされた情報,さら に何らかのイベントに基づき,市の職員といったセンシングタスクの編集者は次の特別なタ スクを作成する. 特別なタスクとは,日常生活の中で定期的に尋ねたい質問に比べて,災害時の被害 情報の把握など,一定期間のみ特別に聞きたい質問内容や緊急性を要する質問のことであ る.例えば「避難先には怪我をしている人がいますか」,「避難先には十分な食物があります か」といった内容である.特別なタスクにはプライバシーを考慮した上で位置情報も付加す ることを想定している.このように市の職員が一般的なタスクや特別なタスクの設定と回答を動的に繰り返すことで,リ アルタイムに市民の意見や状態を把握することができる.これらの情報が市側にとって,次のアク ションを起こす判断材料のひとつとなり得ると考えられる.

MinaQnの要件として利用容易性,導入用意性,相互運用性,オープン性が挙げられる. MinaQn はこれらの要件を満たさ れるように実装された. 詳細なシステムデザイン及び実装については下記記載の論文の中に記載したが,MinaQnでは汎用 性と拡張性を実現する XMPP をベースとしたセンサネットワークを実現するために,XEP の publish-subscribe extension を用いた.次に,Sensor-Over-Xmpp を拡張 した参加型センシングのための統一センサデータフォーマットを実現するために,Sensor Andrew を用い,参加型センシングのために本研究で拡張した独自のスキーマを開発した. 最後に,位置情報を含むセンサデータ収集が可能な直感的な編集・回答 Web インタフェースを実 現するために,BOSH を利用した Web 参加型センシングを実装したことと,HTML Geolocation API を利用した位置情報の取得を行った.

実証実験と考察

本研究では,構築した MinaQn を実在の都市を対象として使用し,実際の市の職員・市民が関 わる実験を通じてこれらの疑問を明らかにする.評価では,平常時の運用を想定して位置情報を付 加せず日常的な質問を配布する評価,災害時の運用を想定して位置情報を付加した質問を配布する評価及び位置情報提供への意識調査,システムを利用する市民からのフィードバックと質問を実際 に設定する市職員からのフィードバックを行った. 実証実験では神奈川県藤沢市,茅ヶ崎市及び寒川町の 3 都市で2週間実証実験を行った. 今回,全部で 5 つの Web サイトに実験期間中リンクを貼ってもらい,実験を行った.

  1. 1)平常時を想定した評価
  2. 今回の実証実験で得られた総回答数は 939 個であった.注目すべき結果として,定量的なデータ 結果と人々から得られた定性的なデータ結果との間に違いが見られた.例えば,花粉症の症状に関 する質問を実験中 3 回した際,回答データの分布に明確な差が出た.質問の結果として,花粉症の 症状は図 7.3 のように「全く症状が出ていない」と回答したオレンジの部分が占める人々の割合が 日を追うごとに減っているように,2 月 13 日,17 日,23 日の順に酷くなっていった.なお,水色 の部分は「目と鼻に症状が出ている」と回答した人の割合,ピンクの部分は「目だけに症状が出て いる」,そして黄色の部分は「鼻だけに症状が出ている」と回答した人の割合である.しかし,環境 省花粉観測システム [37] 上の神奈川県自然環境保全センター(厚木市)の公開情報によると,検出 された実際の 1 立方メートルあたりの花粉量は 2 月 17 日 (189 個),13 日 (1124 個),23 日 (2624 個) の順に多くなっていった.このことから,市民の回答場所と実際の花粉量の検出場所が異なる 可能性があるとはいえ,参加型センシングが定量的データから推測しきれない都市の状況を把握す るために利用できることがわかった.
  3. 2)災害時を想定した評価
  4. 今回の実証実験で得られた総回答数は 339 個であった.アクセスログによると,実験の位置情報 の提供に関する説明ページから実際の質問ページに移らなかったユーザはピンポイントバージョン で 44.33%,メッシュバージョンで 41.43% であった.すなわち 2 種類の間で僅かな差となったこ とから,実際に自然災害が起きた際,市民は自身の位置情報をプライバシーの保護の観点から提供 をためらうということは少ないと考えられる.
  5. 3)市民からのフィードバック
  6. 回答数は 160 で,そのうち男性が 68%(108 人),女性が 33%(52 人)であった.年代は 10 代 が 1%(1 人),20 代が 15%(24 人),30 代が 32%(51 人),40 代が 26%(42 人),50 代が 9%(14 人), 60 代が 10%(16 人),70 代以上が 8%(12 人) と,20 代から 40 代が半数以上を占めた. アンケートでは「アンケートを通じて行政に意見を伝えるなど,市民と行政の情報を共有出来る 仕組みは必要だと思いますか」という質問に対して「強く感じる」と答えた人が 32%(51 人),「感 じる」と答えた人が 52%(83 人),「どちらとも言えない」と答えた人が 12%(19 人),「感じない」 と答えた人が 3%(4 人),「全く感じない」と答えた人が 2%(3 人)と,80% 以上の人々が市と市 民の間で情報を共有する必要があると感じると回答した. また,「災害時など有事の際に,自らの位置情報や属性情報を行政側へ提供してもよいと思われ ますか?」という質問に対して,「強くそう思う」と答えた人が 34%(55 人),「そう思う」と答え た人が 53%(85 人),「どちらとも言えない」と答えた人が 10%(16 人),「そう思わない」と答え た人が 2%(3 人),「全くそう思わない」と答えた人が 1%(1 人)と,全体で約 90% のユーザが, 位置情報やプロフィール情報を快く市や政府に提供すると答えた.すなわち自然災害が起きた際位 置情報を付加した参加型センシングを実施することは市にとっても市民にとっても大変意味のある ことだと言える. 最後に「平時においても行政の運営のために,自ら位置情報や属性情報を行政側へ提供してもよ いと思われますか?」という質問に対して,「強くそう思う」と答えた人が 4%(6 人),「そう思う」 と答えた人が 17%(27 人),「どちらとも言えない」と答えた人が 47%(75 人),「そう思わない」 と答えた人が 21%(34 人),「全くそう思わない」と答えた人が 11%(18 人)と,有事の際に比べ て平時でも自身の情報を提供してもよいと考える人々は 21% と減り,約半数の人々が「どちらと も言えない」と回答した.多くの人にとって,平時でも自身の情報を提供することが結果的に自身 や周りの人々が暮らす市の運営のために役立つという意識を今後広めていくことが大切である. また,自由記入で得られた実験に関する主な意見として,「位置情報だけでなくある程度の個人 情報を露出しても管理できる人もいれば,全く出来ない人や,情報が露出すること自体を受け入れ られない人がいる.その上で,情報をどのように生かし,又は隠すのかをわかりやすく説明するこ とが最も重要である」,「個人情報は自ら発信する以外は把握されたくない」といった個人の情報提 供に関する意見が得られた. また,災害時の情報伝達・共有について,「有事の際にどのように情報を得たらよいかわからな いので,自治体から情報をプッシュ型でどんどん届けて欲しい」という意見もあった.市民協働に ついては,「市民・企業・行政(国・都道府県・市町村)が協力・協働する体制のプラットフォーム の構築が必要と感じている」,「デジタル基盤の公益利用について、行政と民間を区別する必要はな いと思う」という意見が得られた. 上記の回答内容からも読み取れるように,位置情報も含めた個人情報を取扱う際は,収集するタ イミングや情報の範囲,及び利用用途を明確化しておくことを重要視している住民が多い.また,有事の際に自治体からの情報提供(プッシュ型)を期待していたり,市民協働のための仕組みの必 要性を感じている方もいることがわかった.また,実証に協力いただいた地域団体との意見交換では,住民同士や住民と自治体・関係機関が インターネットを介して情報共有を行うことで,様々な人との関わりが生まれ,地域生活をより安 心・安全で,楽しく,便利なものとするための街づくりの活動などに参加する住民が増えていく効 果があることがわかった.今回の実証を通して得ることができた一定の成果や,市民からの貴重な 意見・要望については,参加型センシングによる取組みを今後検討・実行していく際に活かしてい きたい.
  7. 4)市の職員からのフィードバック
  8. まず質問番号 1 の本システムの使用感に関して,回答は 3(普通)で,理由は「今回使用したも のは実証用の試用プロトタイプであったため」とあった.また,質問番号 2 の本システムの有効性 について,回答は 1(とてもそう思う)で,理由は「比較的に簡易に、リアルタイムで市民の意見 を収集できるため」であった.質問番号 3 の,本システムを今後本格的に導入する場合,使用した い頻度に関する回答は適宜であり,その理由は,「定点で収集した方がよい質問があれば定期的に なるが,現状の想定では任意のタイミングで市民に質問を投げたい場合に有効と考えている為」で あった.さらに,質問番号 4 の今回設定した質問以外に実施してみたい質問の内容として,「どう しても行政からの質問だと行政としてふさわしくないと世間から思われる質問は投げにくいため, 行政(自治体)という枠を超えた質問をしてみたい」との回答があった.また質問番号 5 の質問配 布システムや類似システムの必要性について,回答は 1(とても必要)で,理由は「平時だけでな く非常時の情報収集に有効だと考えられる為」であった.また,質問番号 6 の今後の質問配布シス テムの改善点や修正点としてシステムのインタフェースに加えて,質問の入力ルールの改善が挙げ られた.最後に質問番号 7 の他の日本の市区町村や他の国の都市に同じシステムを配布する場合懸 念すべきこととして,「システムの可用性、システムの修正しやすさ(メンテナンスのしやすさ)」 が挙げられた.全体として,市の職員にとっても MinaQn のようなシステムは必要性が高く,今 後も利用価値が高いものだと分かった.しかし質問の作成画面のインタフェースの改善や,メンテ ナンスのしやすさ等システムの汎用性や持続性を高めるために改善しなければいけない点も判明し た.さらに,質問番号 4 にあるように,MinaQn によって市の職員が気軽に市民に質問を投げか けられる仕組みがあっても,行政(自治体)としてのあるべき姿を気にすることで質問内容が限定 されてしまうもどかしさも感じられた.MinaQn を利用して多くの市民から得られる有用な回答 データは必ずしも市民調査で行うような行政運営のための質問から得られる情報だけではない.今 後は行政の枠組みを超えた使用も期待される.

今後の展望

本研究のコントリビューションとして,市の職員と市民とのコミュニケーションを活 性化するための,オープンかつ拡張性のある Web 参加型センシングプラットフォーム MInaQn の 設計と実装,MinaQn の評価と結果考察及び将来の参加型センシングを利用したスマートシティ構 築のためのデザインが挙げられる.しかし,実際の使用に向けて,さらに MinaQn を改善していくためにはより長期の実験を行う必要がある.これにより多くのデータを 収集し新たな知見が得られるだけでなく,より多くの市の職員及び市民からシステムのフィード バックを得ることができる. 参加人数を増やすためには,市民参加型まちづくりのコンセプトや知識を広め,MinaQn のよう なシステムの認知度を上げることに加えて,何らかのインセンティブを与えることを考慮する必要 がある.そのためのひとつとして,評価結果から明らかになったように,それぞれの質問を行う意 図を明確にし,市民に提示することで参加する人々の意欲を増加させられる可能性がある.また, 既存の Web サイトに質問 URL を組み込むだけでなく既存のスマートフォンアプリケーションに も質問を組み込むことで適切なタイミングで push 通知を利用した参加のきっかけを与えることも 考えている. そして,特に市の職員が扱う参加型センシングタスクの定義,配布を行う画面のインタフェース を改善すると同時にシステムの可用性を高め,メンテナンスのしやすいシステムを作成することで より多くの質問数,質問カテゴリ,参加者,質問配布箇所を対象とした広範囲,長期間に渡る実験 を行う. 最後に,回答する市民の信頼性を担保する必要がある.今後,プ ライバシーを考慮した上で一人一人を識別するユーザ ID などを発行することで重複した人の回答 を防ぐことができると考えている.また,発言内容の信頼性に関してはインセンティブを与えるこ とで参加意欲を増加させたり,より確からしい回答データを多く集めるために参加人数を増加させ たりすることを考えている. 自由記述の際の荒らし対策に関しては,自由記述の場合のみ事前に回答データの可視化の際に フィルタリングを行ったり,自動的に予約された誹謗中傷の可能性のある単語を削除したり,書き 込みへの第三者からの通報機能を付けたりすることで予防をすることを考えている. 本研究で得られた知見をもとに,以上の課題を解決した上で,今後の展望として,参加型センシ ングだけでなく物理センサや Web ページ,ドローンの取得するセンサデータなど他のセンシング データを組み合わせて使用することで複合的なセンシング環境を実現することも考えている.ま た,得られた情報を可視化し提示する際にも Web ページ上だけで公表したりするのではなく,例 えば災害時に避難状況をテレビで放送したりプッシュ通知でスマートフォンに配布したりすること で市の職員だけでなく市民も次の行動決定の補助となり得る.これにより,ひとつの地域の参加型 センシングの結果をその場限りのものにするのではなく,他都市や国で収集されたセンサデータを 共有したり有効利用したりすることで個々の都市のフレームワークを超えたコミュニティの形成を することが可能になるだろう.

研究成果

今学期は、以上に説明した研究に関して、国際学会(Ubicomp2015内のWorkshop:Smartcities 2015)に論文を投稿し、2015年9月7~11日に大阪にて発表を行い、他の関連研究について知見を深めた.また、9月に行われた研究合宿で得られたフィードバック等を生かし、12月に締め切りであった情報処理学会の論文誌ユビキタスコンピューティングシステム(V)に投稿し、現在審査待ちである。さらに11月21日から22日にかけて六本木で行われたORF2015(SFC Open Research Forum)にてポスター発表及びデモを行った。また、本研究は修士論文としてまとめ、提出を行い、最終発表を行った。 また、本研究が課題として挙げている、参加センシングへの参加機会創出の発見のためのセンシングデザインやインセンティブを研究するために新しくエンターテイメント性を加えたシステムを提案しており、現在はこのシステムの実装及びSFCキャンパスや駅を利用した実験に向けて準備を進めている。これらに関して、国内学会論文誌及び国際学会への投稿を目標としている。

MinaQn:Web-based Participatory Sensing Platform for Citizen-centric Urban Development

本研究の詳しい内容を以下にまとめた。
MinaQn:Web-based Participatory Sensing Platform for Citizen-centric Urban Development