その場に潜むモンスターを介した参加型センシング
本研究では携帯端末を通してその場に関する情報を投稿してもらう参加型センシングについて取り上げる.これまで参加型センシングに関する研究が多く行われてきたが,例えば参加者へのインセンティブ問題など,実際のシステムとしての応用は未だ進んでいない. 本研究では,参加者に対して新たな参加インセンティブとなりうる,「なりきり型参加型センシング」を提案し,実装を行う.これまで参加型センシングに参加するためには,個人ユーザ名もしくは匿名ユーザ名での参加が通常であったが,これではプライバシ問題や悪質な投稿が増える可能性が存在していた.本研究では,その場に潜むモンスターを介して参加型センシングに参加する,というモデルを実現する.
近年,参加型センシング[1]という,人々の持つモバイル端末や乗り物に搭載されたセンサからセンサ情報やアンケートに対する回答を収集するセンシング手法が近年注目されている. 参加型センシングにより,人々の持つモバイル端末や乗り物から各種センサの情報や写真,コメント,位置情報等様々な情報を取得し,リアルタイムに投稿したり,収集されたデータを解析することでそこで今何が起こっているのか把握し,把握した結果に応じて情報やサービスを提供することが出来る. 参加型センシングの特徴として,加速度,湿度や大気汚染度などといった定量的なデータを計測する物理的なセンサが設置されていない場所でも人が存在する場所であれば人の車や携帯端末に搭載されている物理センサなどから周辺のデータを収集できることや,食べ物の美味しさや臭いに関する感じ方,暑さに対する感じ方など人でなければ分からない情報を収集できることが挙げられる. 本研究では参加型センシングに参加する際のユーザ名の形態に注目する.これまで参加型センシングに参加するためには,個人ユーザ名もしくは匿名ユーザ名での参加が通常であった. しかし,例えば個人ユーザ名の場合はプライバシ侵害につながる恐れや,個人ユーザ名であるがために発言を控えてしまう人もいる.また,匿名ユーザ名の場合はせっかくその場を介した情報のやり取りであるのに,質問者と回答者,及び回答者と回答者の間でのコミュニケーションが取りづらい.そのため,今後,これらの問題意識を解決するようなユーザの参加促進方法を考える必要がある.既存の関連研究では,ユーザの参加促進方法として主に金銭的または非金銭的なインセンティブの付与に関する研究や,タスクのお願いする際の文面や人が受け入れてくれるようなお願いの仕方,タスクにかかる時間や場所を考慮した上でタスクをこなしてくれそうな人に頼むなどして参加者を増加させようと試みる研究もある. しかし,タスクの内容が重かったり数が多くなると金銭的なコストも増加してしまう.金銭的なインセンティブだけでなく,非金銭的なインセンティブもしくは人の気持ちを考えた依頼や参加への楽しさといったものを入れ込んでいくべきである. 本研究では,自発的に日常生活の中でセンシングに参加できるような仕組みづくりを目指していく.そのため今回,参加にエンターテイメント性を加えた新しいインセンティブモデルを提案する.本研究では,参加型センシングの特徴を生かして既存研究にはない,その場に根ざしたモンスターを取り入れ,モンスターになりきった参加型センシングへのタスク回答を提案する.
本研究では,参加型センシングの研究における課題のひとつである,参加への動機付けに関して新たな知見を得ることを目的とする.参加型センシングはその場に関するレポートが多い.また,参加型センシングの特徴として人の協力を得て人が取得できる情報をセンシングする手法である.これらのことから,本研究ではその場の特性を生かし,質問者と回答者が円滑にコミュニケーションを取れる方法としてその場に潜むモンスターを介した参加型センシング(Lokemon)を提案する.
以下の図にLokemonのイメージを示す.
Lokemonは,Location Monsterの略で,その場に潜む特徴あるキャラクター,すなわちロケモンに回答者は必ずなりきってなんらかのタスクに回答しなければならないという決まりを持つ.ロケモンの場所に紐付いたBeacon端末あるいはGPSの情報からその場の近辺にいる人々を検知する.遠隔にいるロケモンのユーザは質問をその場のユーザに対してではなくロケモンに対して投げかける.Lokemonを導入することで,タスクの回答者は,自分でも匿名でもない,全員に共通の「場所」を擬人化したキャラクターになりきることで,従来よりタスクへの参加意欲が増加したり,その場所への関心意欲が増加したりするのではないかと考えられる.
例えば,自分以外のキャラクターに「なりきる」ことによるタスクの回答や,場所への愛着心をキャラクターに具現化にした回答意欲の増加,キャラクターへの愛着心を利用したその場所に関しての回答意欲の増加である.
想定タスクとして,天気,混雑情報,イベント情報,セール情報,レストラン情報など一般的に多くの人がきになるその場に関する情報や,知らない土地に関する質問,その場の様子,今日の気分や健康状態など質問をするユーザ自身が聞きたい,話したい内容の質問を投げかけることを想定している.また,本研究で得られた知見を活かし,今後,参加型センシングの動機付けだけではなく擬人化した場やモノを介した情報提示によって人々の行動がどのように変化するかについて知見を深めていく.
今回,評価を行うためにiOSアプリケーションを実装する.本研究では従来の物理的なセンサから得られる情報と参加型センシングで得られる情報を統一的なフォーマット及びプロトコルで管理,利用できるセンシングプラットフォームを構築する.そうすることで,様々なセンサ情報をひとつのプラットフォーム上で扱って応用アプリケーションを作成したり動的な質問フォームを生成したりすることができる.また,人々から提供された情報はオープンデータとして提供可能である.
上記の実験をSFC内で行った。 実験は1/24-2/28まで行い、SFCの教職員及び学生を対象として、34名にiOSのアプリケーションを配布した。 ランダムに2グループに分け、モンスターの存在する「ロケモン」と存在しない「ロケレポ」と言う類似アプリを作成し、同じ条件のもと実験を行った。 期間中は自由に学内でアプリを使用してもらい、モンスターの収集や、ロケモンになりきった発言と、そうでない発言を比較した。 これまでの結果として、通常時のモンスターのいない参加型センシング手法と比較して、質問回答数や回答の質、反応速度等からロケモンのインセンティブの可能性やなりきり発言の可能性を示すことができた。 ロケモンの性格や見た目、場所により参加意欲に違いがでたため、次の実証実験ではどのようなロケモンが発言にどのように影響を及ぼすのか、より深く実証する。
実験は2月末まで行ったため、今後はデータの最終的な解析及び考察をさらに行い、論文としてまとめる。 そして、上記の実験で得られた知見を元に、アプリケーションの機能及びUI改善を行い、より大規模、広範囲の実証実験を行う。 実証実験に関しては、現在藤沢市役所の方々と相談をしており、今年4月以降に藤沢市の一般市民の方々を対象に藤沢市内に複数個所(50箇所以上)のロケモンを設置し、実験を行う予定である。 これらで得られた結果をまとめ、来年度以降の国際学会のFull paper及び論文誌として投稿し、発表することを今後の展望とする。
今学期は、以上に説明した研究に関して、以下の成果を得られた。