2016年度森泰吉郎記念研究振興基金「研究育成費」研究成果報告書

流動意味解析による状況変化計量のためのビジュアリゼーションシステム

荻原 崇

慶應義塾大学政策・メディア研究科修士課程二年(81524255)

Project Novel Computing


1. 研究背景と概要

近年,屋内外における人々の流動や混雑度合い,そしてその地点にいる人々の属性をセンサによってリアルタイムに獲得し,その状況を推定していく技術への関心が高まっている.特に,鉄道空間において大規模な駅における1日の平均利用者数は100万人を超えており,通勤通学での利用のほか旅行者や外国人など多岐にわたっており,求められるサービスや緊急事態の対応策も多様である.さらに,2020年に東京オリンピックが開催されることから,海外からの旅行者が増加することが予測されている.そのため,各地点の状況の変化や異常をリアルタイムに検出・解析した上で人々が最適な意思決定を実施することが可能となるシステムの実現は重要な研究対象である.

本研究では,人々が持つモバイル端末から放出されるプローブリクエストと呼ばれるWi-Fiパケットをセンシングすることにより,人々の流動を推定する方式とその実現システムを提案する.さらに,特定の場所への訪問回数や訪日外国人であるかなどの属性を推定し,各地点がどのような状況か,どのような人々が滞在しているかを意味解析するシステムを提案する. 大学前のバス停及び日本科学未来館で開催されたG空間EXPO2016にて実際にセンサを設置し,本方式による分析と実際の状況の間の相関係数0.81を得られることを示した.また,MACアドレスがランダマイズされている状況下での滞在人数の補完手法を示した.さらに,キャンパス内にて2週間センサを複数地点に設置し,提案手法の有用性及び応用可能性を示した.

この提案システムにより,各地点の状況は言葉に変換され,誰もが簡単かつ迅速に状況を把握することができ,より安全かつ快適な環境を獲得することができる可能性を示した.

2. 研究成果

(1) 高い精度での滞在人数の推定のために、MACアドレスのランダマイズ機能を考慮した滞在人数推定手法を評価・提案した.

(2) 各地点の状況を意味解析することにより、言葉に変換した。さらに二つの言葉によって状況の変化が起こった時間を発見することができる機構を構築した.

(3) 変換された言葉をシステム上でビジュアライズするシステムを構築した.

(4) 計3箇所で提案システムの評価実験を実施し、有用性及び実現可能性を示した.

3. 今後の計画

主に三つの今後の課題がある.第一は,状況の意味解析手法の改善である.特にComplex状況などの複数特徴量を用いた状況の意味解析手法について,各特徴量が非常に高い状態であるときにComplexと分類されるような手法に改善する必要があると考える.計算手法について,内積計算を用いた手法だけではなく,特異スペクトル変換法などの変化・異常検出手法などを組み合わせ,異常と検出したときに具体的にどのような状況であるかを意味解析するような手法の実現によって,より有用性の高いシステムを構築することが可能であると考える. 第二は,滞在人数の推定精度の改善である.本研究では,ランダマイズ端末を含めた・含めないなど様々な条件・環境下で検証を行ったが,推定精度の安定性に欠ける結果となった.より精度を向上させるために,前章でも述べたように,ランダマイズ端末を除き,他の統計情報などと組み合わせることでより精度の向上させることができると考えている. 第三は,システムの応用についてである.本研究では,主にスタッフに向けたビジュアライゼーションシステムを構築したが,一般のユーザを対象とした応用も考えられる.例えば,ユーザのコンテキストと各地点のコンテキストを考慮した情報検索・レコメンドシステムなどが挙げられる.このようなシステムにより,インターネット空間だけではなく,物理空間においても一人ひとりにあった情報提供サービスを提供することが可能となる.


研究成果

[1] 荻原崇、 白迎玖、 髙垣良宏、 清木康、“無線センサを用いた駅構内における大規模人流誘導を対象とする流動 意味解析システム”、DEIM Forum 2016、F6-2、2016.

[2] 荻原崇、 白迎玖、 髙垣良宏、 清木康、“無線センサを用いた駅構内における大規模人流誘導を対象とする流動 意味解析システム”、 交通運輸プロジェクトレビュー No.24、 2015年度慶應義塾大学JR東日本寄附講座報告書、p.45-50、 2016.

[3] Takashi OGIWARA、 Yasushi KIYOKI、 “A Dynamic Equalizer System with Person Flow and Semantic Analysis for Recognizing Environmental Situations ”、 International Electronics Symposium (IES) 2016、 1570297088、 2016