空気中の化学物質による
情報伝達に関する脳機能研究

政策・メディア研究科 前田遥
青山敦研究室
2018年 2月

概要

近年, 人体から発せられる汗が, 空気を介してヒトの感情や行動に影響を与えることが明らかになってきている. しかしながら, この現象が汗に含まれるどの化学物質によってどのように引き起こされるのかは分かっていない. 一方で, 映画館における排気を分析したところ, 映画の不安なシーンで排気中のメタノール濃度が上昇したとの報告がある. よって, 空気中の化学物質であるメタノールが, 不安に関する情報伝達において重要な役割を果たしている可能性がある. そこで本研究では, 実験協力者に嗅覚刺激として希薄なメタノールを呈示し, 顔画像刺激の不安表情の印象を 7 段階で評価しているときの脳波を計測した. その結果, メタノールによって顔表情の判断が変化し, 特に女性において, より不安に判断されることが分かった. 同時に, 後頭葉内側部における活動が広く大きくなり, 低周波帯域を使用したグローバルなコネクションも広範囲にわたって見られるようになった. 特に女性においては, 嗅覚関連領域に多くのコネクションが存在し, 後頭葉内側部の活動が刺激後約 100 ms に過渡的に現れた. メタノールの匂いは知覚できなかったことから, 女性においては, 閾下で駆動された嗅覚処理が, 顔認知前の視覚処理に影響を及ぼしたと考えられる. したがって, 空気中の化学物質であるメタノールが, 嗅覚系を介して不安表情の判断に影響を与え得ることが明らかになった.

本文章はwebに公開されるため, 論文執筆中につき, 詳細は省略する.