看護用具開発における産業との連携システムの構築に関する研究

 

平成15年度慶應義塾大学SFC研究所プロジェクト補助 報告書

 

 

 

 

 

 

平成16年4月

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究代表者   鈴 木 里 利 

(慶應義塾大学看護医療学部 助手)


 

研究課題

 

看護用具開発における産業との連携システムの構築に関する研究

 

 

 

 

 

研究組織

 

研究代表者   鈴 木  里 利    (慶應義塾大学看護医療学部 助手)

 

研究分担者   安 田  恵美子    (慶應義塾大学看護医療学部 専任講師)

 

 

 

 

 

研究経費

 

   平成15年度     1095千円


 

 


T はじめに

 

平成15年から,文部科学省や科学技術振興機構等,産学連携の強化を図るための支援事業が数多く開始され,大学と企業との連携がとりやすい環境となってきた。

一方,看護の分野では,看護用具・用品の開発に関する研究が,毎年多数報告されている。しかし,これらの看護用具・用品の開発は,施設の物的・人的環境が異なり,その環境にのみ使用可能な方法であるため,一般化,商品化には限界が生じている現状がある。また,研究者らの臨床経験では,臨床の現場で,看護用具の不具合を感じ,改善を試みても,商品開発に至る企業との連携システムが存在しないことで,患者にとってのより良い看護用具・用品を商品化し,多くの臨床で共有化していくことが困難なことがあった。

臨床が企業との連携を図り,共同開発していくことができるならば,より患者に見合った看護用具の試作,検証および改良が円滑に行われ,かつ迅速に開発がなされると考える。そのことが結果的には看護ケアの向上にもつながると考えている。

 

 

U 研究目的

 

本研究のねらいは,看護用具・用品の開発を促進するための臨床と産業との連携システムを構築することにある。具体的には,臨床側および企業側の現状分析,課題の明確化を図り,その結果から,臨床と企業との連携を図るための場づくり,関係づくり,共同開発や特許等に関する知識の提供および共同開発のためのサポート等を目標として,ITの活用,セミナー・情報交換会の開催および評価を実施する。これらの活動から,臨床と産業との連携システムのあり方について,具体的なモデルを構築することを本研究の最終的なねらいとする。

 

平成15年度は,看護用具・用品の開発における臨床と企業との連携に関する実態を明らかにし,臨床と産業との連携システムの構築に向けての基礎的データを得ることを目的とし,以下の4点を研究目標とする。

 

1.看護用具・用品に関する文献検討を実施し,文献から,臨床と企業との連携に関する課題を明確にする。

2.臨床側の現状分析および今後の課題を明確にするため,看護師を対象とした質問紙調査を実施する。

3.看護用具・用品の開発に関連する企業の現状分析の第一段階として,企業側のニーズを知り,アプローチ方法を探ることを目的とし,企業の情報収集を行う。

4.2,3より,本研究テーマの今後の課題と方向性を明確にする。


V 研究計画と実施

 

【臨床の現状と課題】

1.文献検討

 看護用具・用品の開発に関する文献検討を行った。文献の対象は,看護系の学会および雑誌にて,製作・改良・開発された作品が報告されているものとした。分析の視点は,動機,研究者・製作者の背景,作品の特徴,評価方法,問題点,商品化についての6項目とし,記載の有無および内容について分析を行った。分析結果から,今後の課題を検討した。なお,分析は研究者2名で行い,妥当性の確保につとめた。

 

2.専門的知識の提供者からの情報収集

 看護用具・用品の開発に関連する臨床側の専門的な知識を得るため,以下の専門家に情報収集を実施した。

1)教育機関所属の研究者(成人看護学)

2)教育機関所属の研究者(看護管理学)

3)医療機関所属の看護師長(看護用具検討委員会委員会委員長)

 

3.質問紙調査

臨床側の現状分析および今後の課題を明確にするため,看護師への質問紙調査を実施した。

1)質問紙の作成

 文献検討および専門的知識の提供者からの情報収集をもとに,質問項目を選定した。

2)質問紙の妥当性の検討

 作成した質問紙の内容妥当性を検討するため,看護系大学教員,臨床経験豊富な看護師数名と共に,質問項目の内容について精錬を行った。また,意味の不明瞭な質問文や回答しづらい点などについて点検するため,看護師,大学教員10名にプレテストを実施した。

3)質問紙調査の実施

 対象は,全国の200床以上の病院のうち,無作為に抽出した500施設に勤務する看護師2,000名とした。

質問紙は,看護用具・用品の開発,企業との連携,共同開発に関する項目,および看護用具・用品に関する情報収集の方法に関する項目で構成される内容で調査した。

調査の依頼は,施設の看護部長・総看護師長宛に,研究の概要,研究協力の依頼,倫理的配慮に関する事項を記した依頼文を,看護師宛依頼文・看護師用質問紙(4部分)と共に郵送して行った。同意の得られた看護師のみ本研究の対象とし,無記名回答,個別郵送にて回収した。データは統計学的処理を行い,分析結果から,臨床の現状および今後の課題を検討した。

 質問紙調査を実施するにあたって,慶應義塾大学看護医療学部研究倫理委員会の承認を得た。


【企業の現状と課題】

1.専門的知識の提供者からの情報収集

 看護用具・用品の開発に関連する企業側の専門的な知識を得るため,以下の専門家に情報収集を実施した。

1)臨床と共同研究を実施している自営業者

2)大学発ベンチャー企業の育成支援組織所属者

 

2.企業への情報収集

 企業側の現状分析および今後の課題を明確にするための第一段階として,企業のニーズを知り,企業へのアプローチ方法を探ることを目的として,企業の情報収集を行った。

 情報収集の方法は,看護用具・用品に関連する展示会に商品を出展している企業のブースに出向き,研究者の立場,目的および収集したい内容について口頭で説明し,了承の得られた企業の担当者から得た。

 得られた情報をもとに,次年度以降の企業へのアプローチ方法について検討した。

 

 

この他,研究を継続していくために,外部資金の獲得を目的として,研究助成の申請を行った。


W おわりに

 

看護は,実践の場である臨床と,教育,研究の三者が連関することで,より良い成果であるケアが生み出されるという特性を持っている。したがって,患者のニーズに適したより良い看護用具・用品の開発を行っていくには,教育,研究と企業だけではなく,臨床と教育,研究,企業の連携を図っていくことが必須であると言える。

本研究の最終的な目的は,このような看護の特性をとらえ,看護用具・用品に関する産学連携を図るためのシステムのあり方を探り,モデル化することにある。また,看護用具・用品の開発が促進されれば,ケアの向上につながるだけでなく,産業界においても,商品化に向けての新たなシステムが確立されることとなり,商品開発,販売戦略,シェアの拡大の視点からも重要であると考える。

 

平成15年度は,臨床と企業の現状分析と今後の課題を明確にするため,文献検討,看護師への質問紙調査(現在分析中),企業の情報収集を行った。

平成16年度以降は,質問紙調査で得られた結果から,臨床側への具体的な支援方法を検討し実施すること,企業に対しては,ニーズをより把握するためにヒアリングの実施を計画している。また,臨床と企業との相互の情報交換,研究活動の広報を目的として,ITの活用も視野に入れ,Webサイトの開設運営について,具体的に計画を練っていく予定である。本研究の成果については,平16年度,17年度の学会で報告できるよう,投稿を計画している。

なお,本研究は,外部資金の獲得が条件となっており,2003年秋には,平成16度の文部科学省科学研究費補助金の申請を行った。

 

最後になりましたが,本研究の実施にあたり,ご協力頂きました看護部長様・総看護師長様,看護師の皆様と,企業の皆様に深く感謝申し上げます。

 

2004年4月

研究代表者 鈴木里利

 

 

 

 

====================================

看護用具開発における産業との連携システムの構築に関する研究

平成15年度慶應義塾大学SFC研究所プロジェクト補助 報告書

====================================

2004年4月

編集  慶應義塾大学看護医療学部  助 手   鈴 木  里 利

     慶應義塾大学看護医療学部 専任講師   安 田 恵 美 子

252-8530 神奈川県藤沢市遠藤4411

TEL (0466)49-6200

E-Mail kangoyougu-rg@sfc.keio.ac.jp

====================================

本報告書の無断複写は、著作権法上での例外を除き、禁じられています。

複写される場合は、その都度事前に研究者の許諾を得て下さい。