イマーシブ上映環境(CAVE)を利用したマルチスクリーン映画に関する研究

稲蔭正彦*1   根津智之**2   東田あすか**2   アリス・ディン**3

*慶應義塾大学環境情報学部教授

**2慶應義塾大学SFC研究所訪問研究員

**3慶應義塾大学政策メディア研究科

 

 


1 概要

本研究では、イマーシブな上映環境の簡易版の開発及びそのマルチスクリーン環境における映像コンテンツの可能性を探る活動を行なった。

 

2 ZENシステム

ZENZone Entrance)システムは、マルチスクリーンへの継ぎ目のない 3DCG および実写の動画像配信に関して、米国スタンフォード大学で開発されている Chromium というグラフィックスライブラリを用いてシステムを構築した。Chromium の主な特徴としては

1. サーバマシン上に仮想の巨大画面を作り、その任意の部分をクライアントマシンへ転送、実際の理をクライアントマシン上で行う事により、スケーラブルな複数画面の描画が可能になる。

2. 柔軟な画面構成、マシン構成(クライアントマシン=スクリーン数の台数など)が可能であり、設定ファイルを書き換えるだけで縦長や横長はもちろん、斜め方向へと繋がるマルチスクリーンへの対応が行える。

3. 描画に用いるプログラムは通常の単一画面用のプログラムをそのまま使用できるため、開発コストが押さえられる。

の3点である。

本システムでは、実写の動画像も扱うため、実写動画データがネットワーク上を転送されていくことにより、その再生サイズによってはネットワークに相当の負荷が掛かり、画面描画速度が低下する。これを防ぐために、動画像の再生に限ってはサーバマシンからクライアントマシンへの転送ではなく、予めクライアントマシンに保存された動画像をローカルに呼び出すような SPU (Chromium 環境における画面描画プログラム) を開発し、この技術課題を解決した。

 

図1 ZENシステムの概念図

 

3 ZENコンテンツ

3−1.試作

ZENシステムで鑑賞する映像コンテンツの試作を複数実施した。映像撮影は、複数のDVカメラを用いて撮影し、編集において映像同期を実現した。図2では、3画面で、カメラを犬の目線に設定してボールが画面間を移動することによる臨場感を実験した。また、図3では5画面の同期映像に加え、それぞれをステレオ映像として記録し、シャッター式メガネを装着して映像を鑑賞する試作である。

これらの試作は、開発した基本システムの動作確認の目的に加え、マルチスクリーン用コンテンツの特徴と特有の問題を洗い出すことであった。その結果、映像の新しい表現領域の視点からは、単純に映像をマルチスクリーンで展開しても予想以上の臨場感を得ることは難しいと判断した。

 

図2 3画面マルチスクリーン映像テスト

図3 5画面マルチスクリーン映像テスト

 

3−2.インタラクティブ・スペース

前項による表現の拡張を実現するために、本研究ではインタラクティビティを付与した。ディスプレイにセンサーを付加することで、ディスプレイ自体を手前に引くことで映像の任意の部分にズームインするインターフェイスを開発中である。このズーム機能により、図4の机に置いてある本を読んだり、教室の前方に設置されているモニターを拡大して映像を鑑賞したりできる。

ズーム機能

 

図4 インタラクティブスペース

 

4 結論

本研究では、映像表現の拡張を模索することを目的として、イマーシブな上映環境の簡易版の開発及びそのマルチスクリーン環境における映像コンテンツの可能性を探る活動を行なった。今後、ディスプレイにセンサーを付与することをはじめとする本システムの機能拡張を行なうと共に、コンテンツを完成させていく予定ある。

 

5 予算報告

予算使用詳細は、下記の通りである:

 

書籍                     24,465

ソフト                  150,990

ハード                  302,572

メディア              14,868

出張費                  430,774

雑費                     76,331

 

      計1,000,000