2004年度

SFC研究所プロジェクト補助

 

研究課題名:

災害時緊急救助活動支援を目的とした双方向型情報システムの構築

総合政策学部 専任講師 石橋 健一

2005年3月


目次

1.研究の背景... 3

2.研究目的... 3

3.携帯電話を使ったヒヤリマップ作成実験... 4

3.1 ヒヤリマップ... 4

3.2 ヒヤリマップ作成システム... 5

3.3 実験概要... 6

3.3 実験結果... 7

参考文献/サイト... 10


1.研究の背景

大地震などの大災害発生後、様々な被害が発生することが想定されている。被害の中でも建物については、倒壊といった直接的な被害だけではなく都市火災といった大規模な2次災害を引き起こす可能性がある。加えて、建物内部には人々が居住し生活を行っており、建物倒壊によって生き埋め者が発生する可能性が高く、緊急対応活動の遅れは甚大な人的被害を発生させる可能性があり、特に、即時的な対応が求められている被害のひとつと言える。

また、1995年に発生した阪神淡路大震災では、日本各地から支援部隊(警察、消防、自衛隊)が派遣され、緊急救助活動を行った。しかし、現地対策本部から出される出動命令に対して、当該被災地の地図が不足していること、支援部隊が被災地の地理について明るくなかったため、迅速な緊急救助活動をなかなか行うことができなかった。加えて被害調査結果の処理(調査紙への調査結果の転記や集計作業のためのデータ入力作業)に時間がかかったため、被害調査も困難を極めた。これらのことより、大規模災害による人的被害を最小限にするためには円滑な救助活動の実施が不可欠であり、そのためには正確な被害情報や被災地周辺情報といった詳細かつ、正確な情報を取得し、処理することが必要であることが指摘されている。

 

2.研究目的

本研究は建物倒壊による人的被害を最小にするための緊急救助活動の基礎となる、緊急救助要員の位置把握をリアルタイムで実現することが必要であると考え、緊急情報を即時に共有可能となるシステムの構築を目的とする。

大地震などの大災害発生後、様々な被害が発生することが想定されている。被害の中でも建物については、倒壊といった直接的な被害だけではなく都市火災といった大規模な2次災害を引き起こす可能性がある。加えて、建物内部には人々が居住し生活を行っており、建物倒壊によって生き埋め者が発生する可能性が高く、緊急対応活動の遅れは甚大な人的被害を発生させる可能性があり、特に、即時的な対応が求められている被害のひとつと言える。

そこで、本研究では携帯電話(GPS、カメラつき)の位置取得・写真情報をメイルによって送信可能といった機能を使い、双方向型通信の基盤となる情報共有システムの構築を行う。

以上の課題を実現するために、タブレットPC,PDAといったモバイル情報機器に、高感度GPS測位機能や無線・衛星インターネットといった情報通信機能を組み合わせ、災害時において被災地と災害対策本部間で通信し、災害対策本部にある建物被害情報をリアルタイムで更新可能となるシステムを構築することをねらいとする。

本年度は、携帯電話端末(GPS/カメラ機能つき)を用いた情報伝達の可能性について検討を行うことを目的とする。具体的には、携帯電話端末機能(カメラ機能/位置情報取得機能)を用い、災害時に危険となる箇所を地図上に追加したヒヤリマップの作成がオンラインで作成可能であるかどうかを検証する。

 

3.携帯電話を使ったヒヤリマップ作成実験

3.1 ヒヤリマップ

ヒヤリマップとは、道路利用者の危険情報(ヒヤリとした経験)の共有を行うことによって、道路の安全を確保することを目的として行われてきた。すなわち、時々刻々と変わる環境の変化に伴う危険事象の発生をデータとしてストックすることにより、事前に危険情報を認知することにより事故の発生確率を低下させることに主眼が置かれてきた。

ヒヤリマップの作成については、現地調査をおこなって危険な箇所(ヒヤリとした場所)を認識し(図1、図2)、それを地図上にマッピングを行う(図3、図4)。これらの作業は実査の時間、および結果の取りまとめの時間が必要であるため、最終的なヒヤリマップが完成するまでには長時間を要することが多い。


また、ヒヤリマップ作成のためには、作成者が危険な箇所を認識したとした場合、地図(ヒヤリマップ)がある場所まで出向き、危険な箇所を記入する必要がある。そのため、危険か箇所があったとしてもすぐに地図上に反映させることができない。加えて、時間的な差(危険箇所の認知と地図への記入)が生じるため、記入を忘れることなどが問題であると考えられる。さらに、時々刻々変化する状況をリアルタイムに反映させることができないことも問題であると考えられる。

 

3.2 ヒヤリマップ作成システム


今回は、従来のヒヤリマップ作成の問題点として考えられてきた即時性について検証を行うために、ヒヤリマップ作成については、以下に示すシステム概念図(図5)に基づきシステム構築を行った。

本実験では、携帯電話機能(GPS機能、カメラ機能、メイル機能)に着目をした。すなわち、従来、人間が手動で行ってきた測位と認知の一部について携帯電話機能を活用することとした。

図5に示しているとおり、本システムでは、まず、被験者は危険箇所と認識した場所について携帯電話を用いて写真撮影を行うとともに測位を行う。これらのデータ(写真と位置情報を携帯電話のメイル機能を使ってサーバーへ送信し、これを結果表示装置によって閲覧しようとするものである。

 

なお、今回、携帯電話から収集した情報を地図上へ表示するソフトウェアは「なるほど便利!GIS道具箱(国土交通省)[4]」で公開されている「地図ぽん[5]」を利用して行った。

3.3 実験概要


今回、携帯電話を使ったヒヤリマップ作成について以下に示す表1のとおり実験を行った。

 


 

また、実験当日は、表2に示すスケジュールで実験を行った。


 

3.3 実験結果


表3に示しているとおり、90分間のうち12グループの参加者は66枚の写真撮影を行った。これを参加人数で単純に平均すると5.5枚/グループの撮影を行ったことになる。ただし、表3にもあるとおり最小撮影枚数は1枚であり、最大撮影枚数は12枚になっている。

実際には、90分間をすべて使って街歩きを行ったわけではなく、ある参加者は30分程度で集合場所へ戻ってくるなどの事例が見られた。また、今回参加者には小学生から高齢者までが含まれており、いづれの年齢階層も携帯電話の操作に戸惑うこともなかった。




4.結論

本研究によって構築された携帯電話を用いた被害情報取得システムは、災害時の双方向通信を可能とする基盤として活用することが可能であると考えられる。すなわち、実験には各年代の実験参加者があったにもかかわらず、いづれの年代の参加者も位置情報つき映像をメイルに添付して送信することを容易にマスターすることが可能であった。

しかし、実験に使用した機材に初期設定(メイル送信先の設定)などを行っていたことなどを考えると、ある程度、機器側でのアシスト(専用ソフトの開発)などが必要になると考える。また、本実験を行った結果、判明した問題点もさまざまあったので、いかに記載をしておく。

 

1)携帯電話の電池寿命

携帯電話で写真撮影を行った結果、電池が30分で切れてしまい、十分な撮影ができなかった。

 2)メイル送信時間

携帯電話で写真つきメイルを送信する場合、メイルサイズが大きくなってしまうため、送信に時間がかかり、実用的ではなかった。

 3)写真サイズ

携帯電話の機種によっては、写真のサイズを指定することが可能であるが、特定の機種によっては小さなサイズの写真しか撮影することができず、撮影された写真情報を判別することができなかった。また、写真のサイズを大きくすると、上記、1)2)の問題が発生するため、最適なサイズを決定する必要がある。

 

災害時情報システムでは、緊急時の緊急対応用の通信システムは災害無線に代表されるように音声によるシステムであった。しかし、効率的な緊急対応活動を行うためには、相互情報通信(特に、テキストや画像といった被害情報や災害対策本部からの指令)は不可欠である。これを実現するためには、災害による不通時間および区間を可能な限り減少させる必要がある。よって、本研究で構築するシステムを構築することにより、災害に強い通信システム構築の一助になることが期待される。

 


参考文献/サイト

[1]新潟県中越地震復旧・復興GISプロジェクト、

              http://chuetsu-gis.nagaoka-id.ac.jp/index.html

[2]福岡県西方沖地震復旧・復興GISプロジェクト、

              http://www.ies.kyushu-u.ac.jp/~eqwfuku/

[3]三重県/安全・安心の通学路の整備システムづくりチーム/事務局津建設部

http://www.pref.mie.jp/TKENSET/HP/anansystemHP/anansystem.htm

[4]なるほど便利!GIS道具箱(国土交通省)

http://w3land.mlit.go.jp/nrpb-gisbox/

[5]地図ぽん、http://w3land.mlit.go.jp/nrpb-gisbox/dl/j-ric/index_right.html