平成23年2月28日
平成22年度慶應義塾大学SFC研究所プロジェクト補助研究報告書
加療中のがん患者のQOL維持・向上支援システムの構築
―化学療法中の患者への運動プログラムによる介入と評価―
研究代表者
茶園美香
(慶應義塾大学看護医療学部 准教授)
<研究組織>
新藤悦子(慶應義塾大学看護医療学部 准教授)
小林正弘(慶應義塾大学看護医療学部 教授)
久保美紀(慶應義塾大学看護医療学部 助教)
山岸直子(慶應義塾大学看護医療学部 助教)
菅谷たか子(慶應義塾大学病院 看護師長)
福井純子(慶應義塾大学病院 看護師長)
近藤咲子(慶應義塾大学病院 看護師長)
加藤恵里子(慶應義塾大学病院 看護師長)
新幡智子(元慶應義塾大学看護医療学部 助教)
T. 研究の意義
加療中(化学療法、放射線療法中)のがん患者は、病気や治療の副作用によって倦怠感、吐き気、気分の低下など身体的・心理的な変化をきたしやすい。この変化によって患者は身体を動かすことが億劫になり、ベッド上で寝た状態で過ごすことが多くなる。さらに治療のみならず、がんに罹患することによって、精神的にも苦痛を感じるようになり、がん患者のQOLが低下し、治療の継続性が困難になる。このことから、加療中のがん患者に対して、継続的に運動が実施できるようなプログラムを作ることが求められている。
現在は、入院中にリハビリテーションとして運動をすることが勧められている。しかし、リハビリテーションを提供することには限界があり、加療中のすべてのがん患者にリハビリテーションを提供する事はできない。また退院後は、患者自身が運動を継続していかなければならない。今後、加療目的で入院したがん患者に対して、入院中からの指導プログラムの項目の一つとして運動を取り入れることによって、がん患者が療養している場(病院あるいは自宅)において、患者自身が継続して運動を実践できるようになると考える。さらに今後、患者のQOLが維持・向上するような運動プログラム配信サイトや支援体制を構築するための資料となるという点で意義がある。
そこで、今回は、HRC e-ケアプロジェクト1)で、中高年者の下肢筋力維持、増進を目的として当研究班が開発した「お目覚め体操」「お茶の間体操」を、加療中のがん患者に実施してもらい、その効果および実施する上での課題を明らかにしたいと考えた。この2種類の体操には、次の2つの特徴がある。@DVD を使って実施するため、入院中からベッドサイドあるいは自宅において短時間で、自分の生活スタイルや体調に合わせて好きな時間に実施できる。A運動プログラムの体操は、寝てできる「お目覚め体操」と椅子に座って行う「お茶の間体操」があり、患者は自分の体調に合わせて好きな体操を選ぶことができる。
加療法中(化学療法・放射線療法)のがん患者が、この特徴ある運動プログラムを入院中から自宅療養期間を通して4ヶ月間継続的に実施することが、QOLを維持・向上するために有効であることや継続するための課題が明らかになり、「加療中のがん患者に対する運動プログラム」を構築するevidenceを提供することができるという点において意義がある。
U.研究の背景
@
研究の学術的背景
国内・国外の研究の動向と位置づけ
がん治療中、治療後の患者の7割以上が倦怠感などの苦痛を経験し、そのうちの80%が日常生活の変更を余儀なくされ、QOLが低下していることが報告されている2)3)。特に、化学療法・放射線療法を受けている患者は、長期にわたる治療の継続、治療ならびにがん進行による体力低下や嘔気、嘔吐、食欲不振による電解質バランスが崩れ、さらに体力を消耗することなどから生じる。倦怠感があると体動が億劫になり、ベッド上で過ごす時間が長く、運動量が減少し関連した活動力の減少し、さらに筋力および体力低下が生じるが、これらの原因はまだ十分明らかにはされていない。
Mockらは、乳がん患者に対する運動プログラムとして、ウォーキングプログラムを開発し、倦怠感、不安感の軽減や睡眠障害を防止し、症状コントロールに役立つことを明らかにしている4)。全米総合がん情報ネットワークでは、患者の正常な機能を妨げる症状として倦怠感を取り上げ、それを軽減するための運動療法を推進している5)。化学療法を受けた乳癌患者が治療後、座りがちな生活習慣となり、身体活動量が、治療前に比較して有意に低下していたという結果から、治療中から運動を実施する必要性を提唱している研究もある。これまでのがん患者に対する運動プログラムの研究における運動の種類は、エアロビクス、ウォーキング、その両方を使う方法で実施されていたと報告されている6)7)。
日本においては、2007年に制定されたがん対策基本法の第16条において、がん患者の療養生活の質の維持向上を目指した対策として、治療中から緩和ケアを実施する必要性が提唱されている8)。これに基づいて、緩和ケアへの取り組みが推進されがん疼痛に関する対策が積極的にすすめられているが、倦怠感などの症状に対しての対策はいまだ十分ではない。さらに、がんの治療が急速に進歩し、治療率は向上している中で、加療中の患者に対するリハビリテーションはまだ十分に行われていないために、治療後、身体状況が回復するために時間がかかり、社会復帰が遅れるという状況もある。その結果、社会的役割が担えないことや将来の見通しがもてなくなるといった心理的・社会的側面の問題や、生きる意味を失うといったスピリチュアルペインを持つことになり、QOLが低下しやすい。特に治療中は副作用などによる活動力の低下があり、全身を動かすような活発な運動ができにくい状況にもある。
これまで日本においては、がんサバイバーに対して、ウォーキングやチューブトレーニングなどによる運動プログラムを開発している9)。これらに加えて、患者がさらに手軽に実施できる運動を加え、継続できるようなものにしていくことが必要であると考える。
以上から、がん患者の早期社会復帰、長期にわたる治療継続や終末期の体力維持・向上への対応が課題である。特に下肢筋力の維持・向上は、社会復帰やQOLの観点から重要である。運動の効果を得るには、継続することが必要である。しかし、多くのがん患者への運動に関する支援はまだ不十分で、その実践は患者各人に委ねられているのが現状である。さらに入院期間の短縮により体力が十分回復しない状態で退院し、外来に通院しながら治療を続けなければならない上に、医療資源が限られている。したがって、患者自身で主体的に取り組むことができる、継続してできる運動プログラムの開発と運動を支援するプログラムが必要である。
V.研究の目的:
本研究は、加療中(化学療法、放射線療法)のがん患者に、入院中および療養中(通院中)に、研究者らが開発した運動プログラム(DVDを使った「お目覚め体操」「お茶の間体操」の実施と「本日の記録」の記載)を実施してもらい、加療中のがん患者のQOLの維持向上の観点から効果を検証する。さらに継続して運動プログラムを実施することに対する加療中のがん患者自身のニーズおよび実施する時の課題を明らかにする。これらの結果から、加療中のがん患者がセルフケア能力を生かして継続できる運動プログラムとその支援体制のシステムを開発することを目的とする。
特に22年度においては、化学療法中のがん患者に運動プログラムを実施し、患者のQOL維持・促進に貢献することができるかを検証し、課題を明らかにする。
W.研究方法:
1.研究デザイン:介入研究(介入前後比較)
2.対象者
1)対象者の条件
@都内大学病院に入院または自宅療養中(外来通院中)で、化学療法を受けている40歳〜75歳のがん(肺がん、肝臓がん、膵臓がん、胆管がん、胃がん、大腸がん、子宮がん、卵巣がん)患者。APS(Performance Status)注1)がグレード0〜2の範囲にある患者、B骨転移がない患者、C身体的苦痛がなく精神的に安定している患者、C視覚障害がなく、言語的コミュニケーションがとれて、「本日の記録」が書ける患者、D主治医及び看護師長(または主任)が運動プログラムを実施できると判断した患者
2)対象者の人数:100名(ただし22年度の対象者は約30名)
3.介入内容
体操の実施:本研究班が作成したDVDによる「お目覚め体操(13分)」と「お茶の間体操(18分)」のいずれか1種類を、原則として1日1回、週3回とし、4ヶ月間実施してもらった。実施は、患者の日常生活および体調に合わせて行ってもらい、時間は指定しなかった。患者が日常的に行っている活動や指定した体操以外の運動の実施にも制限をしなかった。
4. 調査内容:
1)介入前後における調査:介入開始時および介入4ヶ月後の2回調査した。
(1)調査項目
@QOLの測定:SF-36v2 (Short-Form 36-Item
Health Survey)10)
この尺度は健康特性を測定する質問紙である。「身体機能」「日常の役割昨日(身体)」
「身体の痛み」「全体的健康感」「活力」「社会生活機能」「日常役割機能(精神)」「心の健康」の8つの下位尺度で構成されている。それぞれの下位尺度は、2項目〜
10項目、全体で36項目あり、リッカートスケールである。
A抑うつ・不安の測定:HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale )11)
この尺度は、身体疾患のある患者の精神症状である抑うつや不安を測定するための尺度である。質問項目は14項目あり、4段階のリッカートスケールである。抑うつ、不安を測定する項目はそれぞれ7項目である。
B大腿周囲測定を行った。
膝蓋骨上縁より15cm上の大腿周囲を測定した。この部位の測定は下肢筋肉量の増減がとらえやすいという報告12)から、体操実施の効果を測定する指標とした。
(2)回収方法
@介入開始時:質問紙は、運動プログラムについて説明をした後、回収した。大腿周囲測定は研究者が行った。
A介入4ヶ月後:質問紙を記入し、大腿周囲測定は患者自身で測定しててもらい、
それらを研究者宛に郵送してもらった。
2)運動プログラム実施中の調査
(1)「本日の記録」を記載してもらう。
記録の項目は、@療養場所、A実施した体操の種類と回数、B主観的運動強度、Cその他指定された体操以外で実施した運動と時間、D主観的健康度、E治療による副作用の程度の6項目と、その日の体調、体操をした時の状態や感想を一口メモとして記載してもらった。
(2)回収方法
記入後の「本日の記録」は、レターパックを用いて1ヵ月毎に無記名で研究者宛に送ってもらった。
3)患者のデモグラフィックデータ収集
カルテから、年齢、性別、職業、家族構成、入院期間、診断名(疾患のステージ)、治療の開始日、化学療法のプロトコール、研究の開始日、その時点での症状、運動プログラム開始時のPSを把握した。
5.依頼方法
@研究対象者に該当すると判断した患者に対して、病棟師長・主任が研究の概要を説明し、研究協力の意向があると意思表示をした患者を研究者に紹介してもらった。研究者は、患者に対して書面を用いて研究の目的、方法について説明した。同意に署名をした患者に対して、運動プログラムの進め方を説明した。
6.倫理的配慮
以下の内容について文書で説明し、同意を得て実施した。
1)研究参加への自由:自由意志による参加であること、質問紙や毎日の記録も、回答したくない場合には、回答しなくてもよいこと。それによって、その後の治療や看護に不利益をうけることはないこと。参加している間でも撤回する自由があること。
2)個人情報保護について:調査内容は研究用のIDを用いること、すべてデータ化して処理し、個人が特定されないようにすること。
3)安全を考慮して体操をすることと、傷害保険への加入について:体操は安全を考慮して作成しているが、体操によって何らかの問題が生じたときの保証のために傷害保険をかけること。その支払いは研究者が負担すること。
4)本研究の結果は、学会や専門誌などに公表するが、研究以外の目的には使用しないこと。
尚、この研究は慶應義塾大学医学部倫理委員会の審査(2009-116)を受けて実施した。
7.分析方法:
@研究開始時のデータは、29名を対象として分析した。さらに1ヵ月終了した12名を対象に分析した。
A研究開始時におけるSF-36 得点: SF-36 v2TM 日本語版スコアリングプログラムを用いて各下位尺度の得点を計算した。得点は0〜100点の範囲で分布する。
A
HADS得点:各項目を0点〜3点で採点し、下位尺度は項目得点の合算で計算した。高得点ほど不健康な状態であることを表している。0〜7点は不安・抑うつなし、8〜10点は不安・抑うつの疑いがある、11点以上は、不安・抑うつがあると判定する。
B「本日の記録」の中にある質的データは、記述された内容の共通するものをグループ化した。
X.結果および考察
1.
対象者数
今回、対象となった患者は29名であった。1ヶ月以上経過した患者の実施状況は表1に示したとおりである。
表1 対象者の実施状況 N=25 |
|
経過月数 |
名 |
1ヶ月終了 |
12 |
2ヶ月終了 |
8 |
3ヶ月終了 |
3 |
4ヶ月終了 |
2 |
2.対象者の背景
性別は、女性27名で男性が2名であった。年齢は、23歳から72歳に分布し、平均年齢は50.14歳であった。最も多かったのは、41歳から50歳代の11名(38%)であった。 職業はさまざまであったが、主婦が11名(38%)で最も多かった。
3.運動プログラム開始時の対象者の状況
1)対象者の疾患
婦人科がんが26名、肺がんが1名、食道がんが1名、大腸がんが1名であった。
2)化学療法の種類および治療の回数
種類としては、TP療法(タキソール+シスプラチン)を行っている患者が6名で最も多く、TC療法(パクリタキセル+カルボプラチン)を行っている患者が4名であった。その他、AP療法(ドキソルビシン+シスプラチン)、CAP療法(シスプラチン+ドキソルビシン+シクロフォスファミド)を受けていた。
治療は、研究を開始する時点で3回目を受けている患者が13名(45%)と最も多く、ついで1回目の患者が11名(38%)であった。
3)研究開始時のPS(Performance
Status)および症状
グレード0が8名、グレード1が19名、グレード2が2名であった。
4.運動プログラム開始時の対象者の状態
1) QOLの状態
運動開始時におけるSF-36の各下位尺度得点は、表2に示すとおりである。
慢性疾患(1種類)を持っている患者の結果13)と比較すると今回の対象者の各項目の得点は低く、QOLが低くなっているといえる。特に「社会生活機能」が低下していた。
表2 :SF-36の結果 |
|||||
下位尺度 |
平均得点 |
標準偏差 |
最低点 |
最高点 |
慢性疾患患者の場合 |
身体機能(PF) |
74.8 |
23.0 |
15.0 |
100.0 |
89.9 |
日常の役割機能:身体(RP) |
62.5 |
30.2 |
0.0 |
100.0 |
90.3 |
身体の痛み(BP) |
53.1 |
25.9 |
12.0 |
100.0 |
75.7 |
身体的健康感(GH) |
54.1 |
20.1 |
10.0 |
97.0 |
63.8 |
活力(VT) |
58.0 |
23.9 |
6.3 |
93.8 |
64.0 |
社会生活機能(SF) |
52.2 |
29.3 |
0.0 |
100.0 |
87.8 |
日常生活機能;精神(RE) |
60.3 |
34.0 |
0.0 |
100.0 |
89.2 |
心の健康(MH) |
65.7 |
24.1 |
15.0 |
100.0 |
72.8 |
2) 抑うつ・不安の状態
HADSの不安得点は、4点〜14点の範囲にあり、平均10.31点であった。不安のない(0〜7点)患者は3名(10%)、不安の疑いがある(8〜10)患者は10名(35%)、不安のある(11点以上)は16名(55%)であった。
抑うつ得点は、3点〜15点の範囲にあり、平均点は6.07点であった。抑うつのない(0〜7点)患者は22名(76%)、抑うつの疑いがある(8〜10)患者は5名(17%)、抑うつのある(11点以上)は2名(7%)であった。
全体として不安を持っている傾向の患者は多いが、抑うつ傾向のある患者は少なかった。個別に見た場合には、不安あるいは抑うつになっている患者もいるがそうではない患者もいて、個人差があった。
5.1ヶ月目の体操実施状況
1ヵ月間体操を実施して「本日の記録」を提出した12名分から、1ヵ月間の状況
を分析した。
1)体操実施日数:対象者12名が実施すべき延べ日数は219日であった。このうち体操実施日は123日(56.16%)、体操を実施しない日は96日(43.84%)であった。
2)体操の種類別体操実施回数:お目覚め体操は63回、お茶の間体操は30回実施して
いた。
3)体操実施時に感じる体操の強度
対象者が体操を実施する時の体操に対する強さの感じ方を表3に示した。実施している回数の「11.やや楽である〜6.非常に楽である以上」と答えた回数が63回(51%)であり、実施している回数のおよそ半分は楽と感じて実施していた。しかし、32回は、「13.ややきつい〜15.きつい」と感じながらも実施していた。
表3: 体操実施時に感じる体操の強さ |
|||
|
体操の強さ |
体操実施あり (n=123日) |
|
|
15 きつい |
2 |
1.63% |
|
13 ややきつい |
30 |
24.39% |
|
12 ややきつい〜やや楽である |
18 |
14.63% |
|
11 やや楽である |
33 |
26.83% |
|
9 楽である |
19 |
15.45% |
|
8 楽である〜常に楽である |
0 |
0.00% |
|
7 非常に楽である |
4 |
3.25% |
|
6 非常に楽である以上 |
7 |
5.69% |
|
記載なし |
10 |
8.13% |
6)体操実施と健康状態との関係
全対象者が体操を実施した延べ日数123日のうち、健康状態が「よい」「とてもよい」と答えた日が86日であり、実施しない日と比較すると、健康状態がよいと感じていた。健康状態を「よくない」「あまり良くない」群、「よい」群、「とても良い」群の3群に分けて検定した結果、有意差(p<0.05)があった。健康状態が体操の実施に関係していることが考えられた。
表4 :体操実施と健康状態との関係 |
||||
健康状態 |
体操実施あり |
体操実施なし |
||
日数 |
日数/123 |
日数 |
日数/96 |
|
1 よくない |
4 |
3.25% |
0 |
0.00% |
2 あまり良くない |
22 |
17.89% |
28 |
29.17% |
3 よい |
62 |
50.41% |
31 |
32.29% |
4 とてもよい |
24 |
19.51% |
5 |
5.21% |
5 最高によい |
0 |
0.00% |
0 |
0.00% |
記入なし |
11 |
8.94% |
32 |
32.29% |
7)体操実施の有無と化学療法の副作用との関係
体操実施をしていて副作用のある日は91日で、体操を実施している日(123日)のうちの73.98%が副作用を経験していた。体操を実施していないが副作用がある日数は55日で、体操を実施しない日(96日)のうち、57.3%に副作用を経験していた。体操実施の時に経験している副作用は、吐き気が最も多く57日(62.64%)、次いで便秘、疲労感、脱毛の順であった。体操を実施しない場合に経験している副作用も同じであった。体操を実施している場合の副作用の数は、2つの副作用があったのは34日(37.36%)、3つの副作用があったのは14日(15.38%)であった。体操を実施していない場合においては、3つの副作用がある日が最も多く、18日(32.73%)であった。
表5 : 体操実施と副作用の内容 |
||||
副作用 |
体操実施あり |
体操実施なし |
||
日数 |
日数/91日 |
日数 |
日数/55日 |
|
吐き気 |
57 |
62.64% |
38 |
69.09% |
吐く |
4 |
51.65% |
4 |
7.27% |
便秘 |
42 |
46.15% |
27 |
49.09% |
疲労感 |
39 |
42.86% |
38 |
69.09% |
脱毛 |
32 |
35.16% |
31 |
56.36% |
味覚の変化 |
23 |
25.27% |
14 |
25.45% |
臭いの変化 |
19 |
20.88% |
12 |
21.82% |
下痢 |
16 |
17.58% |
4 |
7.27% |
口内炎 |
14 |
15.38% |
4 |
7.27% |
手足のしびれ |
13 |
14.29% |
16 |
29.09% |
皮膚の変化 |
10 |
10.99% |
4 |
7.27% |
発熱 |
2 |
2.20% |
0 |
0.00% |
6)体操を実施しなかった理由
「本日の記録」に書かれていた、体操を実施しない理由には、@自分に合うものを自分なりに工夫して何らかの方法で身体を動かすことを実施しているものであった。自分の好きな運動やドライブ、買い物や映画を見に行き歩き回ったなど「自分の楽しみのために時間を使い、それが運動になった」というものや、家の片づけなど仕事をするなど「体操に代わる仕事や活動をしたことが運動になった」というものもあった。また、大腿筋伸ばす運動やリンパマッサージなど、「自分に必要な運動やマッサージをおこなう」というものがあげられた。A治療のための点滴による制限や精神的緊張、副作用による身体的な余裕のなさがあった。B時間的な余裕や身体的症状により体操をする余裕がない場合もあった。
「明日は外来日なので、ゆっくりしていた」「寒いため寝ていた」などの記述があったことから、患者は限られたエネルギーをやりくりして、必要な活動のためにエネルギーを温存しようとしていることも体操をしない理由になっていた。
7) 体操以外の運動の実施
対象者のうち、他の運動をした延べ日数は72日(33.30%)で、実施しなかった延べ日数は146日(66.97%)であった。体操の実施に加えて他の運動をしたのは50日(40.65%)で、運動の種類は、散歩が最も多く29日(58.00%)、ついで散歩・ウォーキングが6日(12.00%)であった。そのほか、買い物、肩こり予防体操・肩まわし、通院、腹筋などをおこなっていた。体操を実施しないが運動を行ったのは22日(22.92%)であった。運動の種類は、体操を実施している患者の場合と同様に、散歩、歩行・ウォーキングなどであった。
Y 今後の課題
今回は、データ数が少ない中で概要をまとめた。その中でもこれまで明確でなかった、化学療法を受ける患者の運動プログラムに関する状況を知ることができた。化学療法中の患者は健康状態が良くないと感じているときにおいても、運動をしようと努力していた。外出や家事などの日常生活活動やこれまで実施していた運動なども合わせて実施していた。本人のこれまでの生活に取り込んだ運動プログラムの工夫が効果的であると思われた。
今後は介入4ヵ月後のQOLの変化についてデータを収集し、QOL維持向上への効果を検証していく予定である。また人数を増やしてデータ収集し、運動プログラムを実施することに関係する要因も明らかにしていく。
さらに、この調査を実施する中で、化学療法中の患者が運動をした方がいいと思っているがどのようにしていいかわからない、化学療法の1回目には余裕がないので運動については考えられないが、2回目くらいから、体力が低下していることを感じて運動の必要性を感じていると話された。これらのことから、今後は、化学療法中の患者の運動ニーズについても把握していく。これらをふまえた上で、化学療法を受ける患者に対して、運動プログラムを実施する時期、方法について検討し、入院中及び自宅におけるセルフケア型運動プロクラム導入システム作りをしていく予定である。
今回の対象者は、ほとんどが婦人科系のがん患者であったため、女性に限定したデータとなった。まずは女性にとっての運動プログラムに関して検討したうえで、今後、男性患者を対象にデータ収集をしていく予定である。
Z 外部資金獲得状況
1)平成23年度 科学研究費補助金 基盤研究(B)(一般)申請中
[ 研究成果発表予定
以下の学会で発表する予定である。
1)日本癌治療学会 2011年10月27日〜28日 名古屋国際会
2)日本看護科学学会 2011年12月2日〜3日 高知県文化ホールにて
3)日本がん看護学会 2012年2月11日〜12日、松江市民会館
引用文献
1) 新藤悦子、茶園美香、山下香枝子、小林正弘、中野裕子、廣岡佳代、山内賢、「中高年者が自宅で行う運動プログラム実施効果の検討」第33回日本看護研究学会学術集会抄録集、p. 199,2007/7.
2)Cult GA,Breitbart W,CellaD,et al.:Impact of
cancer-related Fatigue on thelive of patients,Oncologist.51 (5),353-360 ,2000
3)Ahlberg K.Ekman T.Gaston-Johansson F,et al. :Assessment and
management of cancer-related fatigue in adults Lanset.362(9384),640-650,2003
4)MockV.:Body image in woman
treated for rescancer ,NursingResearch,42(3),153-157,1993.
5)Mustian KM.MorrowGR.CarrollJk.et al.:Integrative
nonpharmacologic behavioral interventions for the management of cancer –related
fatigue.the oncologist.12(suppl) 52-67,2007
6)Golvao DA、Nosaka
K et al.:Resistance training and reductionot treatment side effects in prostate
cancer patients, Medicine &Science in Sports &
Exercise,38(12):2045-52,2006.
7)Brown DJ McMillan
DC,Milroy R.:The correlation between fatigue ,physical function,the
systemic,and psychological distress in patients with advanced lung
cancer,15;103(2),377-82,2005.
8)厚生労働省:がん対策推進基本、2007.http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/06/s0615-1.html、
9) 外崎明子、佐藤正美、今泉郷子:がんサバイバーのための身体活力の回復をめざすプログラムの開発、日本がん看護学会誌、21(2)、68-72、2007.
10)福原俊一、鈴鳴よしみ: SF−36v2TM日本語版マニュアル、健康医療評価研究機構:2009年10月版.
11)東 あかね、八城博子、清田啓介他:消化器内科外来におけるhospital anxiety and
depression scale(HAD尺度)日本語版の信頼性と妥当性の検討、日本消化器内科学会誌、93(12),884-892、1996.
12) 市原多香子、田村綾子、南川貴子他:看護師がベッドサイドで評価可能な下肢、筋肉量測定方法の検討、徳島大学医学部保健学科、30(2)、189−195、2008.
13) 前掲書10) p114.
注1)PS(Performance Status)は0〜4の5段階で評価するものである。グレード0は、無症状で社会生活ができ、制限を受けることなく発病前と同等に振舞える。グレード1は、軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業(軽い家事や事務など)はできる。グレード2は、歩行や身の回りのことはできるが、時に少し介助がいることもある。軽労働はできないが、日中50パーセント以上は起居している。グレード3は、身の回りのことはある程度できるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床している。グレード4は、身の回りのこともできず、常に介助が必要で、終日就床を必要としている。今回の研究における対象は、グレード0〜2としている。