2010年度 SFC研究所プロジェクト補助

 

「集団学習法とラーニングコモンズの関係に関する研究」

 

<メンバー>

井下 理 総合政策学部教授

井下 理 研究室「ぐるわるし」研究プロジェクト・メンバー

 

<研究概要>

 本年度は、補助額の枠内で、SFCを本研究の対象フィールドとして取り上げて、集中的な事例調査を行った。

1の発見事項は、研究テーマの「集団学習法」が、それを体現する形で、質的調査を実施できた点である。これは、この研究プロジェクト補助がなかったら、実現できなかったことであり、その意味で、この場を借りて感謝の意を表したい。具体的に詳述すると、本調査プロジェクト自体が、グループワークという手法で展開されたことである。グループワークを通じて、グループワークを調べる。しかも、学生だけで、一定の訓練期間と訓練プログラムを経た後に、実際の実行段階で調査実施が円滑に支障なく完遂できたことに証明される。

 「学生による・学生を対象とした質的調査」を「学生集団主軸で展開する」という事例も内外を見てそれほど多くない。しかし、SFCにおいては、授業と研究実践との統合的試みとして、過去にも実施した経験がある。2010年には、春学期の「質的調査法」に加えて、秋学期の「インタビュー法」「教育評価・開発論」「集団コミュニケーション実践」の4科目の履修者と井下理研究会のメンバーとのコラボレーションにより、本研究プロジェクトのテーマである「集団学習法」としての「グループワーク」について、グループ・インタビューを実施することが可能となった。これは、外部専門家による調査では不可能な「学生相互」の質的データ収集が可能であることを示すだけでなく、そのデータとしての質の高さを社会調査の企画設計立案実施管理運営などの一連の社会調査の科学的手順に沿って忠実に展開することで、調査の質保証を確立しつつ、そこで得られたデータから、本テーマへの知見を得ることが可能であった。

 第2の発見事項は、学習法・学習文化といったソフト面と学習環境のハード面との関係についてである。SFCの場合、学生が主体的に学ぶことを重視する風土がある。学生主導型の学習環境への整備は、そうした教育理念や価値観の存在なしに語ることはできない。そうした理念と実際の教授・学習法と学習環境の3者があいまって、ラーニングコモンズへの展開を支えうることが明らかとなった。グループ・インタビュー調査での発見である。

 学習環境のハードとソフトの両面が、学習行動を要請し、学習行動の定着普及が、翻って学習環境の利用を促進していることも明らかとなった。具体的には、メディアセンターにある「グループ学習室」が、学生たちによって、しばしば利用されていることが調査より明らかとなった。学習環境が学生たちの学習意欲を喚起している側面と、学生たちの間で習慣化された学習法の一つである「グループワーク」が、学習効果を上げている点が、質的調査で明らかとなった。

ハード面よりソフト面での学習行動のデザインが重要な規定因である。ハードとしてグルワ学習室を開設しても、その利用が促進されるとは限らない。グループワーク学習法とグループ学習室の設置は、相乗効果を想定し設計されて初めて有効に活用されうる。

 SFCの教育学習法の特徴を客観的に知るためには、他国・他大学の現状についての「学生の視点」からの現地調査も不可欠である。今後は、どういった大学の個性、学生の特性などが、学習環境と関係して、集団学習法やラーニングコモンズへの統合的展開に合流しうるのかを研究することが必要であろう。◆