「災害時における自治体情報発信」研究概要報告書
國領 二郎(総合政策学部)
<構成>
(1)「災害時の自治体情報発信および情報通信インフラに関するアンケート調査」の実施
(2)東日本大震災の被災自治体を対象とした、災害時情報発信に関するケース分析
(3)平常時の情報発信活動におけるICT利活用についてのヒアリング結果考察
(1)「災害時の自治体情報発信および情報通信インフラに関するアンケート調査」の実施
2011年3月11日に発生した東日本大震災を受け、基礎自治体が災害時、どのように情報を収集し発信したのか、および地域住民とのコミュニケーションはいかに行われたかを明らかにするため、2011年8月より、全国1746全市区町村を対象とした標記アンケート調査を実施し、280団体(回答率16%)より回答を得た。
回答自治体には、はじめにどの災害を念頭に置いた回答であるかを「東日本大震災」「台風6号」「新潟・福島豪雨」「その他」「近年はどの災害も経験していない」の5つの項目から選択していただき、結果を「地震時」「豪雨時」「近年災害経験なし」の3つに分け分析を行った(分類結果は、地震:n=115、豪雨:n=67、近年災害経験なし:n=115となった。回答280団体のうち、2団体は土砂災害時との回答)。「近年災害経験なし」の回答自治体には、情報収集・発信に関する質問については防災計画等での想定による回答を求めた。
情報通信インフラ整備状況については、災害別の分析を行わず、全回答団体(N=280)を母数とした分析を行った。
【調査結果サマリー】
情報収集業務においては、「職員」が果たす役割が非常に大きい。特に停電等の発生する地震時は、職員しか頼るべき手段がないという実態がある。さらに、住民からの情報の吸い上げや行政との双方向コミュニケーション手段が未整備であることが判明した。人手をかけず迅速に地域内の被災状況を把握する手段の確立が求められている。地域のあらゆる情報をつなぎ一元化する必要がある。
情報発信業務においては、「防災行政無線」の依存度が高いが住民から「聞き取りづらい」等の苦情が多いことが課題となっている。また、平時より活用している手段がよく使われているため、平時から活用する情報伝達手段の強化、さらにはその多様化が求められる。「自動受信型」の発信ツールを平時からいかに活用していくかも重要な課題となる。
情報通信インフラの整備状況は、防災行政無線が8割、登録型メール配信システムとエリアメールが併せて7割を超えた。
□調査概要□
調査対象:全国1746全市区町村
調査方法:郵送
有効回収数(率):280(16%)
調査期間:2011年8〜9月
調査企画・実査:慶應義塾大学SFC研究所「自治体ICTプロジェクト」
調査票:別紙参照
□回答団体プロフィル□
◆地域 ◆人口
〜1万人 48団体(17%) 1〜5万人 89団体(32%) 5〜10万人 62団体(22%) 10〜20万人 47団体(17%) 20〜30万人 10団体(4%) 30〜50万人 15団体(5%) 50万人〜 9団体(3%)
北海道地方 |
24団体(9%) |
東北地方(青森県・宮城県・秋田県・山形県・福島県)※ |
24団体(9%) |
関東地方(茨城県・栃木県・群馬県・埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県) |
68団体(24%) |
中部地方(新潟県・富山県・石川県・福井県・山梨県・長野県・岐阜県・静岡県・愛知県) |
53団体(19%) |
近畿地方(三重県・滋賀県・京都府・大阪府・兵庫県・奈良県・和歌山県) |
40団体(14%) |
中国地方(鳥取県・島根県・岡山県・広島県・山口県) |
17団体(6%) |
四国地方(徳島県・香川県・愛媛県・高知県) |
14団体(5%) |
九州地方(福岡県・佐賀県・長崎県・熊本県・大分県・宮崎県・鹿児島県・沖縄県) |
40団体(14%) |
※岩手県の回答団体はなし
◆災害別回答内訳
地震(n=115) 豪雨(n=67) ※東北地方の回答はなし
近年災害経験なし(n=96)
上記は有効回答の280団体のうち278団体。残り2団体は「土砂災害」等の回答。
次ページより、個々の質問項目に対する回答をグラフ化し、回答傾向の分析を行う。
◆(Q1)災害時の自治体による情報収集について(収集が必要だった情報および活用手段)
収集が必要だった情報
災害別・時系列(被災直後〜24時間、被災後2〜3日、被災後3日以降1週間)
【図1】◎地震(n=115 ※地震経験市区町村)
【図2】◎豪雨(n=67 ※台風・豪雨等経験市区町村)
地域内の被災状況をいかに把握するかが、災害時初動の最大のポイントとなる。特に道路や交通機関の被災状況は住民安否確認といったその後の復旧作業に大きな影響を与えるため、迅速な対応が求められる。「その他」では、計画停電、雨量情報との回答が多かった。
情報収集に活用した手段
災害別・時系列(被災直前、被災直後〜24時間、被災後2〜3日、被災後3日以降1週間)
【図3】◎地震(n=115 ※地震経験市区町村)
【図4】◎豪雨(n=67 ※台風・豪雨等経験市区町村)
時間の経過に関わらず、情報収集に最も効果を発揮したのは「職員」であった。特に被災直後は圧倒的に高い数値を占めた。インターネット利用は豪雨の際の直前情報収集時が高いが、その後も継続的に活用されている。ただし停電の影響等があったエリアでは被災直後の活用は難しいと考えられる。その他は電話やFAXと、活用された手段は限定的。「その他」では防災無線との回答が多かった。
地域内の被災状況の把握を人海戦術で行った自治体が多く、他の業務を行う人員の余裕が生まれなかった実態もうかがえる。人手をかけず迅速な被災状況把握を可能にする手段の確立が求められている。
情報収集への活用を想定している手段
災害別・時系列(被災直前、被災直後〜24時間、被災後2〜3日、被災後3日以降1週間)
【図5】◎近年災害経験なし(n=96 ※近年災害を経験していない市区町村)
Q1-2【地震】情報収集に活用した手段(n=115)
実際の活用(図3、4)と想定の間に大きなギャップはないが、「職員」の想定値が実態よりも低く、想定以上に職員に依存していたことが分かる。
◆(Q2)災害時の自治体による住民向け情報発信について(発信した情報/活用した手段)
発信した情報
災害別・時系列(被災直後〜24時間、被災後2〜3日、被災後3日以降1週間)
【図6】◎地震(n=115 ※地震経験市区町村)
【図7】◎豪雨(n=67 ※台風・豪雨等経験市区町村)
住民の生活に直接影響を与える情報(避難所、交通機関、水道ガス等のインフラ復旧状況)を、全ての住民に正確に伝えることが課題となる。
情報発信に活用した手段
災害別・時系列(被災直前、被災直後〜24時間、被災後2〜3日、被災後3日以降1週間)
【図8】◎地震(n=115 ※地震経験市区町村)
【図9】◎豪雨(n=67 ※台風・豪雨等経験市区町村)
地震、豪雨時ともに防災行政無線に大きく依存している。続いてホームページ、広報車、携帯メールが活用されている。情報収集手段同様、実際に活用された手段は限定的であるが、いずれも平時より活用している手段がよく使われていることが分かる。民間や住民同士の情報共有基盤として効果を発揮したツイッター等のソーシャルメディアは、平時からの運用が進んでいないため非常時での活用ができなかったと考えられる。
防災無線は「聞こえづらい」等の苦情が多い(P.11参照)こともあり、全ての住民への情報伝達を使命とする自治体には、平時から活用する伝達手段の強化および分散が求められる。手段の多様化のためには、外部(民間)組織の積極活用も検討すべき課題となる。
「その他」ではケーブルテレビとの回答が多かった。
情報発信への活用を想定している手段
災害別・時系列(被災直前、被災直後〜24時間、被災後2〜3日、被災後3日以降1週間)
【図10】◎近年災害経験なし(n=96 ※近年災害を経験していない市区町村)
実際の活用と想定の間に大きなギャップはないが、民間コミュニティFM放送と広報車の活用想定値が実態よりも高くなっている。その理由としては、「今後の活用への期待値が高い」「実際には思った程活用ができなかった」どちらのケースも当てはまると考えられる。
◆(Q4)自治体内情報通信インフラの整備状況
【図11】(%、N=280市区町村)
防災行政無線(移動系・拡声器)は、アナログ方式が5割を占めた。今後、デジタル化へ以降するコストが大きいことも課題となる。防災行政無線の戸別受信機は、一部地域での整備との回答が多かった。
登録型メール配信システムとエリアメールは合わせると7割を超える。今後は携帯電話のメール配信機能等を活用した「自動受信型」の発信手段を平時より強化していくことが求められてくる。
職員参集・安否確認および被災者支援業務のシステム導入は進んでいない現状がうかがえる。さらに、IP端末の整備自治体も少なかった。
◆(Q3)災害時における住民と行政のコミュニケーション課題
(自由回答、代表的意見<複数の自治体が同様の回答を寄せたもの>抜粋)
【住民側】
・ 住民側の自主防災組織の強化
・ 住民の自助・共助・公助への意識を高めること
【住民と行政】
・ 住民(自主防災組織等)と行政間で非常時における連絡手段および情報共有に関する対応取り決めがない
・ 住民と行政との役割分担が不明確
・ 情報が市から住民への一方通行であり、住民との相互コミュニケーションの手段がない
・ 被災住民の中でいかに早くリーダーを見つけ自主的に動いてもらえるか
【情報収集】
・ 情報集約の難しさ(含む住民から発信された情報)
・ 職員による情報収集の限界
・ 避難所等から行政への連絡手段の不足
【情報伝達】
・ どのような災害時も活用できる発信手段の確立
・ 情報発信する職員の不足
・ 住民ニーズに沿った情報提供
・ インターネット環境のない住民への情報発信
・ 情報提供のタイミング、連絡基準が明確化されていない
・ 山間部や島しょ部と確実にコミュニケーションがとれる手段
・ 行政防災無線(拡声器)での情報伝達は、屋内へ届きにくい、「聞き取りづらい」との意見が多い
・ 住民が受動的に情報を取得する手段がない
◆(Q6)電気・通信インフラ障害時の代替手段
(自由回答、代表的意見<複数の自治体が同様の回答を寄せたもの>抜粋)
【情報伝達手段】
広報車、職員、FM放送、ホームページの外部運用、紙媒体 等
【業務全般】
災害時優先電話、アマチュア無線、蓄電器、防災行政無線、通信回線の冗長化、クラウドサービス、非常用電源、回線の二重化、自家発電機、遠隔地でのデータ保存、県防災行政無線 等
(2)東日本大震災の被災自治体を対象とした、災害時情報発信に関するケース分析
アンケート調査と平行して、東日本大震災の被災自治体へのヒアリング調査を実施した。
調査対象団体は、岩手県遠野市、岩手県大船渡市、宮城県登米市である。細かな質問項目は事前に定めず、会話のやりとりの中から回答を抽出する半構造化インタビューの手法を採用した。
2−1.遠野市回答抜粋
◆情報収集
発災後2日間は停電し、テレビは見ることができず情報源はラジオのみとなった。ラジオは電池がある限り動いた。3月13日から、被災地に物資を運んだ職員が帰ってきては被災地の様子を伝えた。遠野市では、その報告から必要な物資を想定して物資を送り続けた。さらに、衛星携帯電話を用いて沿岸部の自治体と情報のやり取りを行ったが、衛星電話は相手も持っていないと使うことができず、全ての被災自治体との連絡は不可能であった。
遠野市では平成19、20年に広域災害を想定した訓練を行っていたが、その際は停電を想定していなかった。情報は、テレビ・ラジオ・インターネットで収集できるとの前提だった。
震災の経験から強く感じていることは、様々な主体の持つ情報を「共有」する必要があったのではないかということだった。岩手県、遠野市、民間団体等が収集した情報は共有されることがなく、全てバラバラに活用された。多方面からの情報を正確に把握することができれば、災害対応がさらにスムーズにいったと考えられる。
また、情報のタイムラグも多く発生した。情報を入手した時点でその情報が最新でない場合が多く発生した。
電話やファクスのやりとりだけでは、被災地が本当に何を必要としているかという情報の一元管理が難しい。
消防、警察、自衛隊は別の組織であり、指示系統が異なる。それぞれの命令系統の中で動くのは当然のことであるが、それぞれが収集した情報を共有する、すなわちネットワーク化する必要性が大きいと感じている。情報共有の共通フォーマットがあれば良かったのかもしれない。実際に総務省は避難者に関する情報の一元化を目的とした「避難者情報システム」の構築を発表したが、通達は4月であり、各自治体が個別の避難者管理の運用を始めていた時期だったため、切り替えの手間が大きく活用が難しかった。
◆情報発信
停電時、市役所から市民への情報発信は広報車を使うしかなかった。3月13日午後から市内は順次復電となった。電気回復時は無線とテレビ(CATV)を利用した。停電時は、市内2027人が避難状態であった。
さらに、災害時は避難者に対する問合せが殺到する。これらの情報の開示については、個人情報保護の観点から慎重になるべきとの意見も多くあったが、遠野市ではウェブサイト上で氏名の公開を行った。個人情報保護法も市民の命と安全・安心を守る仕事をしている基礎自治体からすると障害となる場合もある。法律では災害時は適用外となっているが、どのような状況でどう運用すれば良かったのか、という問題が大きく立ちはだかった。個人情報の運用ガイドラインを作る必要があると考えられる。
2−2.岩手県大船渡市
◆情報収集
発災後より、ADSL・ISDNは全てダウンしていたため、大船渡市職員は情報収集発信に専念することはできなかった。IT関連は使いようがない状態であり、市庁舎が復旧しても避難所や支所でダウンしているので使いようがない。全ての支所とのネットワークが回復したのは8月末。
発災後、しばらく県との連絡はファクスや衛星携帯電話を使って行っていた。消防署が持っている衛星携帯を回してもらって使ったり、携帯電話事業者の基地局が入り市役所半径100メートル 内は電波が入る状況になったが、それまでは外部からの連絡手段はファクスのみの状態であった。
移動電源車が入った時点でテレビを利用することはできた。テレビから情報を収集し、状況が把握できた。
◆情報発信
発災直後は消防の広報車を利用したが、市民への情報伝達は、新聞や広報紙といった、紙媒体が中心となった。生活関連情報(今日開いている店舗やガソリンスタンド情報等)は紙媒体を中心に掲載していった。3月12日の夕方に号外を出したが、これが発災後初めての市役所からの情報発信となった。そこで初めて被災写真が掲載され、多くの市民は初めて被災状況を把握することになった。各避難所地からの情報発信は紙媒体で、職員が1日1回手で届ける形をとった。
災害後2〜3週間の広報手段は紙媒体、消防ポンプ車、掲示板等に限られた。紙媒体も、個別配布は難しかったのは、避難所等を集約施設としてそこに市民に取りにきてもらう形をとった。
ツイッターは発信のみで情報取ることはしていないが、活用した。ツイッターを回復させた時点では利用可能な携帯電話は5台しかなく、市民との相互やりとりの対応は不可能だった。
避難者情報は、最初は紙で管理していたが、復電しPCが使えるようになったらデータ(エクセル)で保存する形をとった。電気は本庁舎のみが早く復電したため、紙のリストを本庁舎に集約し、入力作業を行った。紙の輸送は全て職員が行った。
2−3.宮城県登米市
◆情報収集
発災後は停電し、移動デジタル無線は整備の途中だったため、支所と本庁の情報共有は職員が足で情報収集し本庁舎で集約する形をとった。市役所内でも、被災現場の状況把握は困難であった。津波警報はあったが、実際の規模は分からなかった。3月11日の夕方、携帯電話のワンセグ放送で仙台からの映像を見て津波の規模の大きさを知った状況であった。テレビラジオも、アンテナが倒れていたところは見ることができなかった。
ラジオ局からの情報提供が大きな役割を果たした。
◆情報発信
登米市は9つの町が合併してできた市であり、防災無線では合併前の9つの周波数を使っている状態である。防災無線では「情報が聞き取りにくい」等の苦情があること、今後9つの周波数をデジタル化させるコストの大きさ(試算20億円)を考え、情報発信手段としてコミュニティFMの積極活用(ネットワーク化)に乗り出している。
2010年4月にコミュニティFMを開局した。出力制限20Wで、面積536平方キロメートルの市内は4割しかカバーできていなかった。中継局を増設し、ネットワーク化を図る方が防災無線の整備よりも低コストでできるのではないかと考えていたところ、2011年3月の震災が起こった。
防災無線スピーカーは、電池が1日半で切れたため、それ以降給電が可能になるまでは使うことができなかった。一方、コミュニティFMスタジオは発電機で稼働し、アマチュア無線を用いて災害対策本部をつなぎ、リアルタイムで震災情報の発信を行った。震災10日後、災害ラジオの認可を受け出力を100W にアップした。
FMラジオの受信機は、5000円/台になるところまで数を増やし、1万4000台を市内全域に整備した。行政コストは1台4000円、市民負担を1000円とした。無線の個別受信機は3万円程度であり、低コストであった。
さらに、ラジオの中継局は1台約1200万円で、市内全域をカバーするには最大10台が必要となるが、難聴地区に無線の中継機を置く等の措置をとれば、防災無線を完全に整備するのと同じような効果があるのではないかと考えている。
外部(市外)への情報発信という観点からは、連絡手段がないことに苦労した。電話は使えず、衛星携帯電話で連絡できる先は宮城県県や県内の消防本部のみであった。発災後、支援を求めるために姉妹都市(富山県入善町)を締結している基礎自治体に連絡したかったが連絡手段がなかった。宮城県から富山県経由で入善町に連絡をとり物資の要請を行った。相手からも連絡していたけど連絡つかなかったと言われた。県への連絡も、県下市町村の連絡が一度に集中したため、中々つながらなかった。
2−4.ヒアリング結果考察
●情報収集
――電源確保、災害時通信手段運用訓練、多様な主体間での情報共有構築が求められる
情報収集は、発災直後より停電やNTT局の被災等により、通常利用しているIT機器がほとんど使えない状況となった。ラジオ、携帯電話のワンセグ放送が数少ない情報源となった。これらの機器も、電池がなくなれば使用不可となった。地域内の状況把握には大変な困難が伴った。職員が避難所等を周り情報収集を行い、本庁舎に一度集約、それらの情報をもとに災害時対応の意思決定が行われていた。県や他自治体との連絡は、衛星携帯電話が主な手段となるが、相手も衛星携帯電話を保有していること、番号を把握していることが利用条件となり、かけられる相手は限られた。通信手段が復活すれば、輻輳のかかった音声媒体ではなく、ファクスが有効な手段であった。平時は使う機会の少ない衛星携帯電話であるが、平時より連絡先との訓練をする必要がある。さらに、電源確保(給電対象を明確にした電源系統の把握)、ラジオの災害時運用については検討されるべき課題である。
また、発災後はあらゆる組織が被災地域で活動を開始するが、情報が共有されないことが災害対策への障害となった遠野市のケースもあった。必要な情報とそのフォーマットを定め、平時より関係者間で情報を共有する仕組みを構築する必要性は高い。
●情報発信
――個人情報保護の運用、防災無線と併せた多様な手段の運用に関する検討が求められる
情報発信に関しては、発災直後は広報車が利用された。生活情報等は紙媒体で発行され、避難所などの地域内の拠点に設置された。これらの情報は、職員が足で収集した情報である。さらに、発災後問い合わせが多くなるのは避難者情報であるが、個人情報保護の観点から、どの自治体でも対応が難しかった。法律では災害時の個人情報利用につき、適用外と定めているが、実際にどの情報を誰に開示するべきか、明確に定義したガイドラインの策定が求められている。
防災無線に関しては、情報が住民に届いたかどうかの検証はできないものの、発信手段として使い続けている。登米市では、今後のデジタル化移行のコストが莫大になることを考え、コミュニティFM放送の整備をその代替策として充てようとしており、経営手法や出力数の課題はあるものの、多くの自治体の参考になると考えられる。
(3)平常時の情報発信活動におけるICT利活用についてのヒアリング結果考察
「災害時の自治体情報発信および情報通信インフラに関するアンケート調査」結果において、自治体が住民向けの情報通信インフラとして、無線(FWA、WiMAX)を整備していると答えた自治体は回答280団体の6.1%であった。さらに、サイネージ等の電光掲示板についても、280団体中6.1%が整備しているとの回答であり、活用自治体は多くないことが分かる。
さらに、平常時の情報発信活動におけるICTの利活用に関し、荒川区、茅ヶ崎市、つくば市、多摩市を対象としたヒアリング調査を行った。
3−1.ヒアリング結果抜粋
荒川区では、主要駅前への設置計画話があったが運営コストを行政が負担することが困難であるという判断で保留となっている。機器の陳腐化にどのように対応するのかも計画実行のうえで課題となっている。
茅ヶ崎市では、サイネージをコミュニティセンターで導入しているが、今後は主要駅にて観光情報を発信する手段として活用したいという思いがある。問題になるのはコストであるが、サイネージにタッチパネルの技術を組み合わせ、駅に集う人々が自由に操作できる端末が開発できると発展性があるのではないかと考えている。通信手段は、WiMAXを用いて地域内のみ閲覧可能な状態で、地域情報を多く流すことも同時に考えるべき課題として挙げている。
つくば市では、サイネージの活用計画はあったが具体的にどのような情報を出していくのか市としての見解がまとまらず、保留となっている。
多摩市でも同様で、費用対効果の課題をクリアするまでは実施に踏み切れないが、実験すらできないところにジレンマを抱えている状況であった。
3−2.デジタルサイネージ及び地域WiMAX利活用に関する考察
デジタルサイネージについて、導入自治体も未導入自治体も、問題になるのは運営コストである。さらに、どの情報を誰に対して発信するのか、災害時だけではなく平時運用に工夫を持たせることができないと、導入後技術とともに陳腐化してしまうとの懸念も聞かれた。効果を検証するために試験運用してみたいが、予算措置が困難な自治体もあった。
平時から、災害時を見据えた運用・訓練を行う必要がある。さらに、機材調達のあり方についても、陳腐化を防ぐ工夫を考える必要がある。
藤沢市では、既に各市民センター・公民館等にデジタルサイネージが導入され、誰でもがホームページから情報を登録、発信できる仕組みが構築されている。また、平常時からNPOや市民ボランティアにより地域の情報が発信されていることから、災害時における重要な情報発信手段になると考えられる。
今後は、地域の防災訓練においてサイネージを利用した情報発信訓練を行うなど、さらに地域住民への浸透を図ることが重要である。
地域WiMAXについては、知名度がまだ低いと考えられ、どの自治体でも導入の検討は始まっていない。しかしながらデジタルサイネージのような電子媒体を行政が運営する際にはその通信手段まで運用範囲ととらえる必要があり、地域内の情報を特定のターゲットに効率的に伝えるには有効な手段であると考えられる。
以上