2013年度 SFC研究所プロジェクト補助

「外国語教育を通した高大連携」

 

平高史也(総合政策学部)

 

T.はじめに

SFCではキャンパス開設以来、多言語主義にもとづく、発信型の外国語教育を推進して、一定の成果を挙げてきた。2014年度からカリキュラムも改定され、キャンパス内での教育はまた新たなステージを迎えるが、同時に、これまで蓄積してきた外国語教育に関する知見や実績を社会にも浸透させるべきではないかという認識に立ち、英語以外の外国語も開講するなどして外国語教育に力を入れている高校との連携の可能性を探るため、本プロジェクトを立ち上げた。

SFCでは草創期から隣接する中・高等部と連携してドイツ語、フランス語、スペイン語、中国語、朝鮮語の教育を行っている。また、神奈川県立神奈川総合高校、神奈川県立横浜国際高校、東京都立国際高校、立命館宇治高校などからはキャンパス開設以来、多くの学生が入学しており、複数の言語の能力により一層の磨きをかけ、社会でも活躍している。英語以外の言語を高校等で学んでいる学習者は、入学後の到達レベルも高く、即戦力として社会で活躍できる能力を備えている。本プロジェクトには、こうした学生の発掘と育成をより積極的に進めたいという思いもこめられている。

 

U.目的

本プロジェクトは、@多様化や国際化が進む日本社会で、高校と大学が連携して有為な人材育成に取り組む、A多様な能力を持つ、優れた学生のSFC、慶應義塾への入学を促進する、というつの目的を実現しようとするものである。すでにSFCでも義塾でも、これらの目的の実現に向かって歩みを進めてきてはいるが、それを外国語教育の分野でより強力に推進することによって、日本の外国語教育が複言語主義へと舵を切るように貢献しようというところに本プロジェクトの意義がある。

 

V.研究組織

平高 史也

総合政策学部教授(ドイツ語・代表)

古石 篤子

総合政策学部教授(フランス語)

堀 茂樹

総合政策学部教授(フランス語)

氷上 正

総合政策学部教授(中国語)

藁谷 郁美

総合政策学部教授(ドイツ語)

國枝 孝弘

総合政策学部教授(フランス語)

杉原 由美

総合政策学部准教授(日本語)

白井 宏美

総合政策学部准教授(ドイツ語)

島田 美和

総合政策学部専任講師(中国語)

 

W.今年度の活動

 今年度は、活動を開始したのが夏季休暇に入ってからと比較的遅かったこともあり、まず上記3)の研究メンバーが数回の会合で検討を重ねた。その結果、@高校外国語教員との懇談会を開催して、情報交換を行う、A複数外国語を開講している高校を訪問して、高校の実情を知る、B高校・大学双方の関係者に呼びかけてシンポジウムを開催する、の3点を中心にプロジェクトを進めることになった。

 

@高校外国語教員との懇談会 

日時:2013127日(土)13時〜15

場所:慶應義塾大学 三田キャンパス 北館会議室2

出席者(敬称略):平高史也、國枝孝弘、堀茂樹、白井宏美(以上SFC

出羽由紀(神奈川県立横浜国際高等学校)

鈴木冴子(埼玉県立伊奈学園総合高等学校)

松田雪絵(埼玉県立伊奈学園総合高等学校)

 

1.趣旨説明

SFCでは19904月の開設以来、英語以外の外国語にも力を入れてきた。ドイツ語、フランス語、スペイン語、マレー・インドネシア語、アラビア語、朝鮮語、中国語の7つの外国語を開講し、少数精鋭で教育してきた。さらに、ベーシック科目のみではあるがイタリア語とロシア語もあり、留学生、帰国生を対象とした日本語も開講している。しかし、社会へのアピール、高校との連携やネットワーク作りの面では十分ではなかったと反省している。そこで、高校との連携を深めるために、情報交換や議論を重ねることが重要であると考えた。互いに協力して、英語以外の外国語の意味づけを徹底していきたいし、特色のある、多様性を持った人材を育てていきたい。

 

2.現状報告

2.1.神奈川県立横浜国際高等学校

・ドイツ語、フランス語、スペイン語、中国語、ハングル、アラビア語(いずれも13)を開講。生徒は希望言語を履修できる。45 分授業×週3回。

・フランス語、スペイン語の履修者が多い。ドイツ語履修者は1年生22名、2年生19 名(1学年は5クラス200名)。

・1年次は必修、23年次は選択科目となっているが、ほとんどの生徒が2年次まで継続して履修する。  

・目標レベルは2年生終了時でA2。 

・受験前の入学説明会で体験授業がある。

➢横の連携はあまりないので、変えていきたい。

➢文化祭を国際色豊かにしようと努力している。

➢ドイツの姉妹校から生徒を受け入れた(10日間のホームステイ、2日間の学校体験、近隣の小学校訪問、給食体験、観光など)

3月には交換で生徒25名が渡独。スペイン、フランス等へも行っており、競って盛り上げていきたい。

 

2.2.埼玉県立伊奈学園総合高等学校の場合

・ドイツ語・フランス語・中国語は専任日本人教諭各2名在籍(+仏語非常勤講師1名)。

・各言語外国人講師在籍(独1名、仏2名、中1名)

・語学系の英語・ドイツ語・フランス語・中国語の所属を生徒は6月に決定。

・語学系(独・仏・中)に所属した場合、3年次まで必ずその言語を履修。

・他学系でドイツ語・フランス語・中国語を選択する場合は、1年次または2年次までの

履修でやめることも可能。

・第12外国語を決めずに、英語+1言語を高いレベルまで伸ばすことが可能。

・短期間で高いレベルまで伸ばす(目標は3年次終了時でB1レベル)

・海外交流事業(独・仏・中へ研修)、大学出張講義、各言語コンクール参加、ドイツ政府による高校生招聘事業。

3年間の学びをサポート。

➢高校生向けの教科書や参考書、問題集がないため独自の教材を工夫。

(大学生以上を対象とした教科書ばかりなため、酒、たばこ、専攻の話があり使いづらい)

➢英語の先生から、英語以外の外国語に対する理解が得られないので、改善したい。

1年生で英語ではなく独・仏・中語を履修するからセンター試験の英語の成績が悪いと英語の先生から言われる。)

 

3.3月のワークショップに向けて

【趣旨】

高校と大学が連携して学びをどう育てるか、を軸にして基調講演、ワークショップを行う。

【目的】

1)英語以外の外国語の重要性を高大連携で浸透させる(社会に向けてアピール)

2)現実の教育成果を出す:モデル学生を輩出する。

【考えられる内容、テーマ】

・高校および大学における学びの現状。

・フィールドワークの成果発表。

・活躍している卒業生の具体的な声を聞く。

・高校で学んだ外国語を大学でどう生かすか。

・学びを学ぶ。専門的な勉強に何が必要か。高校と大学の学びをどうつなげていくか。

・英語以外の外国語が必要な理由を明確に示すべき。明確な説明を提示できるか。

・どの側面にフォーカスを当てるか(生徒/教員/社会/教材/教育政策など)。

【日時】

201432日(日)午後

【場所】

SFC大学院棟(暖房が入る教室を確認)

【広報】

・英語の先生、教頭先生などに声をかけたい。

・指導主事の先生を巻き込み、理解を得るのが良い。

・英語の教員にもメリットがないと参加させることができない。

・英語教員だが、専門はドイツ語、フランス語という先生をまず巻き込むのが良い。

・高校の先生を多く集めたい。他に参加してくれそうな先生がいる高校:神奈川総合、北

園高校、県立不来方高校、慶應、早稲田

【プログラム】

・今後の準備、相談はメーリングリストで行う。

・年明けにプログラムを確定する。

 

A複数外国語を開講している高校の訪問

 

1.聖母被昇天学院高等学校

日時:20131216日(月)

場所: 大阪府箕面市

参加者:國枝孝弘、島田美和、平高史也

平沢真人先生(聖母被昇天学院中学校高等学校長)

菅沼浩子先生(聖母被昇天学院中学校高等学校・フランス語講師)

 

聖母被昇天学院では、小学校から英語の授業があるためか、児童生徒には外国人に対する抵抗がない。フランス語は週に2時間で、高1が必修、高2(仏語か数学)、高3(仏語、数学か英語)は選択だが、ほとんどの生徒が3年間履修している。トップレベルの生徒は仏検3級に合格する。西日本フランス語コンクールに5年前から参加しており、コリブリにも来年から参加する予定である。教員に同校在学中にフランス語を履修した卒業生が数名いるため、フランス語に理解がある。来年度から選択科目に英会話が入るため、フランス語の履修者が減少するかもしれない。生徒の想いと非常勤講師(菅沼先生)の熱意で20年間授業を維持してきたが、大学受験が変わるなどの制度上の改革が求められる。

 

2.立命館宇治高等学校

日時:20131216日(月)

場所:京都府宇治市

参加者:國枝孝弘、島田美和、平高史也

水谷早乙理先生(立命館宇治高等学校外国語科副主任(第二外国語科担当・
英語、フランス語担当))
川辺先生(立命館宇治中学校高等学校・ドイツ語常勤講師)

渡邊晶子先生(立命館宇治中学校高等学校・中国語常勤講師)

    張先生(立命館宇治中学校高等学校・中国語非常勤講師)

 

普通科文系の高2、高3で英語・ドイツ語・フランス語・中国語からの選択になっている。1学年350名中理系進学者などを除いて外国語を選択できるのは230名ほどだが、そのうち約180名が第2外国語を選択している。専任教員は1名(フランス語、英語)、ドイツ語と中国語は3年契約の常勤講師。専任教員は高2、高3で各5時間フランス語を、ドイツ語の常勤講師は英語11時間、ドイツ語5時間を担当。ほかに非常勤講師がいる。海外語学研修も実施しており、ドイツ語では3週間のブレーメンへの研修旅行に8名が参加している。中国語は研修旅行が10年前に廃止になったが、台湾旅行を復活させることを考えている。2009年度からTOEFL430点が卒業要件(内部進学は400点)になったため、ドイツ語とフランス語の履修希望者が英語に流れるようになった。一般受験がないため、余裕を持って英語以外の言語を履修できそうだが、実際には大学から英語力をつけることが要請されているという現状がある。3終了時でフランス語は仏検4級、ドイツ語も独検4級、中国語は中国語検定3級を目指している。

 

3.岩手県立不来方高等学校訪問・授業見学

日時:201434日(火)

場所:岩手県紫波郡矢巾町

参加者:國枝孝弘、島田美和、平高史也

川口仁志先生(岩手県立不来方高等学校長)

        鷹嘴洋子先生(岩手県立不来方高等学校、フランス語担当)
        竹内隆一先生(岩手県立不来方高等学校進路指導課、中国語担当)
        マルクス・ロスケン先生(岩手県立不来方高等学校、ドイツ語担当)
        セバスチャン・モワスロン先生(岩手県立不来方高等学校、フランス語担当)

 

不来方高校にはつの学系の中に外国語学系があり、学校設定教科としてフランス語、中国語、第2外国語(ドイツ語、スペイン語、ハングル)が置かれている。このうちフランス語、中国語は高1から履修することができ、フランス語は高校3年時に仏検2級をクリアすることを目標としている。この目標に達すれば、同時に指定校推薦を得ることができ、実際、フランス語を第1外国語で履修している生徒は、ほぼ全員指定校推薦を受けて、大学に進学している。参観した鷹嘴先生のコミュニケーション仏語Tでは、8名の1年生がグループワークで積極的に会話をしている様子が印象的であった。中国語の授業に関しては、竹内先生から中国語スピーチコンテストへの参加や、大学の進学先として中華圏の大学を視野にいれた中国語教育の推進などの取り組みを拝聴した。

 

4.聖ウルスラ学院英智高等学校訪問・授業見学

日時:201435日(水)
場所:宮城県仙台市

参加者:國枝孝弘、島田美和、平高史也

伊藤宣子先生(聖ウルスラ学院英智高等学校長)
後藤健一先生(聖ウルスラ学院英智高等学校・英語担当)
大槻多惠子先生(聖ウルスラ学院英智高等学校・フランス語担当)
粕谷みゆき先生(聖ウルスラ学院英智高等学校・フランス語、英語担当)
内海知子先生(聖ウルスラ学院英智高等学校・進路指導部長)

 

聖ウルスラ学院英智高等学校では、特別志学コースType2と呼ばれるコースで高1、高22年間にフランス語が開講されている。現在では仏検3級合格者が数名おり、今後は3年生および理系科目の履修者への開講を目指している。当日は大槻多惠子先生の高1生約25名のクラスでのフランス語の授業を参観した。初級の文法項目を使って、グループワークで会話を展開する授業であった。教科書はフランスで出版されているAmicalを使用していた。その後、高1生全員を対象にSFCの両学部をする機会が設けられ、國枝が学部紹介を行った。また、明治大学仏文学科が主催する高大連携フランス体験講座で発表した2名の生徒の「日仏の家族事情」についてのプレゼンテーションを聞き、講評した。

 

5.仙台白百合学園高等学校訪問・授業見学

日時:201435日(水)

場所:宮城県仙台市

参加者:國枝孝弘、島田美和、平高史也

青木タマキ先生(仙台白百合学園高等学校長)

鉢路智子先生(仙台白百合学園高等学校・進路指導部長)

 

仙台白百合学園は仙台市郊外の広大な敷地に小中高校が置かれている。特別選択科目として高2で韓国語、高3でフランス語を開講している。また、台湾開南大学への1週間の研修旅行の実施や、卒業後中国語圏の大学に進学する生徒がいることもなどもあり、中国語の開講も計画中だという。アルゼンチン出身の先生が英語で行う宗教の授業を参観した。

 

以上校の訪問で外国語の教育に力を入れている高校の実情や抱えている問題点の一端に触れることができた。多くの訪問先で進路指導を担当なさっている先生が同席されたこともあり、SFCAO入試や未来構想キャンプの説明も行ってきたが、外国語教育における高大連携の観点からは次のような課題を発見することができた。

1)大学側の入試や要求(検定試験のレベルなど)を高校側と調整する必要がある。これは高大のカリキュラムの接続の問題に関わる。

2)高校の段階ではまだ言語を学ぶのに精一杯で、世界史や地理の授業の進度との関係もあって、言語を取り巻く文化や社会の問題まで授業で扱うことはできない。そのあたりをいかにカバーするかは、言語と専門領域との関係にもつながっていく。

3)未知の言語を生き生きと学ぶ高校生の初々しい姿はどこでも印象的であった。彼らの学びを促し、継続するために、動機づけや動機を高める方策を考えなくてはならない。

4)多くの高校では非常勤講師が外国語の授業を担当している。制度の改革は困難であろうが、教員養成や再研修には大学も何らかの形で関わることができるのではないだろうか。

 

Bシンポジウム「外国語教育による高大連携を考える」の開催

 

2013127日の懇談会での決定を受けて準備を進め、以下の要領で開催した。SFC・義塾、高校の外国語教員、教育委員会、高校での外国語学習経験のあるSFC卒業生と、多様な背景のある登壇者に報告をお願いし、外国語教育による高大連携をめぐるさまざまな問題を浮き彫りにしようと考えた。当日は一般の参加者39名を得て、義塾関係者・登壇者を加えると、出席者は50名を超えた。

 

日時:201432日(日)13001700

場所:慶應義塾大学日吉キャンパス来往舎2F大会議室

主催:慶應義塾大学SFC研究所

 

1300 開会挨拶+趣旨説明:平高史也(総合政策学部・ドイツ語)

1320 講演:堀茂樹(総合政策学部・フランス語)「他者の母語を学ぶこと」

1350 講演2:森孝博氏(埼玉県教育局高校教育指導課・英語)「公立高校の外国語教

育について」

1420 休憩

1430 パネルディスカッション:司会:藁谷郁美(総合政策学部・ドイツ語)

1440 國枝孝弘(総合政策学部・フランス語)「SFCの外国語教育」

1500 鈴木冴子氏(埼玉県立伊奈学園総合高等学校・ドイツ語)「高校ドイツ語教育の

現場から」

1520  渡邊晶子氏(立命館宇治高等学校・中国語)「高等学校における第2言語学習の

意義」

1540 安孫子悠氏(独立行政法人国際協力機構(JICA)・英語、フランス語)「高校

から大学、そして社会へ〜フランス語学習から得たもの」 

1600 休憩

1610 コメント:境一三氏(経済学部・ドイツ語)

1630 ディスカッション

1700 閉会

 

個々の講演や報告、コメントの内容は省略するが、ディスカッションも含めて、次のような課題が明らかになった。

1)高大連携に関して高校側からは次のような点での改善が望まれる。

・生徒の外国語学習歴により注目する。

・英語以外の外国語入試の維持・発展。また、入試問題の内容を検討する。

・教員養成の仕組みを考える。

2)大学から見た外国語学習については次のような点がポイントになる。

 ・大学入学以前に複数の言語に触れる可能性があるかどうかが重要。

 ・専門との連携の重要性。言語を学習した延長上にある世界を見せることができるか。研究主体で言語をとらえることによって、言語がぶれることのない自分の軸となる。そういった意味で外国語を継続的、本格的に学習できる大学を増やす。

 ・既習者のためには、大学はレベルと学年を切り離し、プレースメント・テスト等で適切なレベル認定とクラス分けができなくてはならない。

 ・一貫性のあるプログラムを確立するには、何を一貫させるのかを明確にする。

 ・多言語入試の開発。

3)外国語による高大連携では英語教育におけるそれが肝心である。コミュニケーション重視の授業、CAN-DOリストの作成、協調学習など、昨今英語教育で注目されている課題は、英語以外の言語にもあてはまる。

4)高校における国際交流や留学生との交流は、大学との間でも人的交流を促進できる面があるのではないか。

5)同様に授業研究や教材開発での連携も可能性があるのではないか。

6)大学入試においては、コミュニケーション重視の教育をいかに入試に反映させるか、「選択可能な言語」をいかに増やして学習者のすそ野を広げるか、その場合、英語とのレベルの等価の問題をどう扱うか、入試問題・正解の公表等の便宜供与をいかにはかるか、などの問題を解決しなくてはならない。

7)高校で外国語を教えるのは、学び、成長できる人間の素地を作ることであり、「わかる」「できる」「使える」という体験が必要である。そのためには、好奇心を刺激し、知らない世界を案内するために、さまざまなしかけをしなくてはならない。また、互いを尊重しあえるようになるための、コミュニケーション活動を取り入れる。特に、中国語などは使う機会が身近にあるので、隣人に興味をもって真の多言語主義を実践できる可能性が高い。それこそが他者との出会いを通して人を作ることにつながる。

 

X.まとめと今後の課題

当初今年度の活動の柱に掲げた、高校における英語以外の外国語教育の実態の把握は、上記の学校訪問である程度実現できた。また、高校で英語以外の外国語を担当している教員向けのワークショップは、別の形ではあるがシンポジウムの開催で実現し、高校・大学の教員間で情報交換や問題の共有ができた。今後は次のような課題が考えられる。

1)複言語教育の重要性の理解を広めるという、理念の面では1年目とはいえ多少の成果をあげることができたが、SFCに蓄積された外国語教育の理論と実践に関するさまざまな知見を、高校の外国語教育の現場(カリキュラム・シラバス・教材等の開発や教授法、教員研修、異文化理解等)に普及するという、具体的な作業は今後の課題である。

2)関西・東北地方の高校を訪問し、情報交換ができたが、近隣の神奈川県、東京都、埼玉県などで複数の外国語を開設している高校や、特色のある外国語教育を展開している高校を訪問することができなかった。

3)一般入試の問題はSFC、義塾としても具体的な検討を迫られているので、ひきつづき検討を重ねなくてはならない。

4)高校にはフランス語と英語の両方を教えている教員が少なくない。また、入試や教授法、教材開発など、どれをとっても英語を外して高大連携の問題を考えることはできない。したがって、高校・大学とも英語の教員との連携が不可欠である。

5)教員の養成や再研修に関する問題はほとんど扱うことができなかったが、中等教育で

外国語教育に携わる教員のリカレント教育や、大学院での教員養成も視野に入れておくべきであろう。

6)SFCの外国語教育パンフレットの作成(高等学校等への案内のため。事務室の広報や入試担当部署とも連携し、未来構想キャンプやAO入試等にも言及)、本研究プロジェクトのウェブサイトの開設等も、優秀な学生のリクルートにつながる喫緊の課題である。

 

外国語による高大連携は、義塾内にも外国語一貫教育における複言語・複文化能力育成に関する研究」(代表:境一三経済学部教授)や、付属高校・大学のドイツ語教員の連絡会などがある。また、高大に限らず、複数の言語の連携にまで目を向ければ、一般社団法人日本外国語教育推進機構(JACTFL)や国際文化フォーラム等の非営利団体や、他の研究グループ(たとえば「新しい言語教育観に基づいた複数の外国語教育で使用できる共通言語教育枠の総合研究」(代表:西山教行京都大学教授))などもある。そうした組織との連携や差異化をはかりつつ、今後の進むべき道を探っていきたい。

なお、これらの課題はSFCに語種を超えて外国語教育に取り組む組織ができれば、その組織のプロジェクトとして取り組むという可能性も考えられる。そうすれば、SFCが高校と大学が連携しつつ進めていく複言語教育の、語種の壁を越えたネットワークの拠点となり、高校における外国語教育の推進にも貢献できる。