SFC 研究所 プロジェクト補助 報告書

 

研究代表者 

総合政策学部 准教授 和田龍磨

 

研究分担者 

慶應義塾大学経済学部准教授 伊藤幹夫

京都産業大学経済学部准教授 野田顕彦

 

 

研究課題: 時変係数モデルを用いた為替市場の効率性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究目的

本研究の目的は外国為替市場におけるスポットレートとフォワードレートがともに非定常過程に従っている場合を想定し、フォワードプレミアムパズルの解明をとおして外国為替市場の効率性を測定しようというものである。実際にはカバーなしの金利平価式が成立するか否かを見るが、端的にいうとこれまでの研究が想定しているように「常に成立する」か「常に成立しない」という問いへの回答ではなく、どの期間には成立し、どの期間には成立しないのか、また成立しないとすれば、成立するときと比べ、どのくらい外れているのかを測定するのが本研究の目的である。

 

モデルとしては、共和分関係において、共和分ベクトルは時間を通じて一定であるために、定常過程となる変数間の長期関係式は不変であるが、それら長期間形式を結びつけるloading vectorが時間とともに変化するものを考えている。この設定の解釈としては、loading vector が均衡すなわち変数間の長期関係から乖離した場合の調整速度と解釈することができることから、時間とともに調整速度が変化しうるモデルと考えられる。このような仮定を置く理由は近年通信技術の発達により、市場での取引を行う際に使われる情報の伝播が格段に早くなっただけでなく、取引技術の高速化も考慮に入れているというものである。より正確な情報に基づく高速かつ高頻度の取引は市場裁定の機会を急速に減らしてゆくと考えられるので予想としては、市場は時間とともに効率的になってゆくと考えられる。このことは、1通貨のみならず、複数通貨を考慮した時には時間とともに多くの通貨において効率性が確認されるであろうということである。複数の市場が時間とともに効率的になるというアイディアは、研究代表者と研究分担者が共著によって2014年にApplied Economicsに出版した”International Stock Market Efficiency: A Non-Bayesian Time-Varying Model Approach”が近いが、本研究は非定常性および共和分関係の時変性質を考慮している点において斬新である。

 

経過

8月には方法において本研究の基礎の一部となる、”The Evolution of Stock Market Efficiency in the U.S.: A Non-Bayesian Time-Varying Model Approach”(研究代表者および研究分担者による共著)がApplied Economics に受理された。

 

データは日本、カナダ、イギリス、スイス、ヨーロッパ連合の、アメリカドルに対する為替レート(スポットおよびフォワード)をThomson Reuters Datastreamより収集し用いた。

 

まず前提となる定常性の検定(単位根)の検定であるが、すべての為替レートにおいて単位根の存在が確認されたため、次の共和分モデルの利用が正当化された。

共和分モデルについては、まず係数が時変でない従来のモデルを使って共和分関係の存在をJohansen (1998)の方法に基づき検定をおこなった。その結果、共和分関係の存在が確認されたので推定を行った。

 

現在までのところ、時変係数を持つ共和分モデルの推定が終了した。本研究ではloading matrix を基にした効率性の測度を提唱しているが、この測度が推定される係数の高度に非線形な関数であるため、漸近的な性質はあまりよくわかっていない。測度自体はloading matrixのスペクトラルノルムで定義している。この統計的な性質がわからないとすれば、市場効率性について断定的な結論を下すことが困難になるため、本研究ではシミュレーションによって漸近性を明らかにした。

 

9月から12月まで、研究代表者は慶應義塾大学大学院経営管理研究科において「経営科学と意思決定:国際金融市場の実証分析」(英語による講義)を担当し、本研究とも深くかかわる為替レートをめぐる研究についても講義を行った。

11月に行われたORFでは、和田研究会所属の学部学生の一部が時系列分析を用いて将来為替レートの推定について発表を行った。

 

今後の予定・課題

現在、一通りの推定を終え、論文の骨格は出来上がっている。このため今後12か月のうちに論文の初校ないし第2校が完成するものと考えている。その後は外部セミナーなどでの発表を積極的に行い、そこでのコメントを基に論文の改定を行い、数か月のうちに専門誌への投稿を行いたいと考えている。

論文は研究代表者のホームページ上で公開する予定である。