2010年度 学術交流支援資金(海外の大学等との共同学術活動支援)報告書

    プロジェクト: No.1-1
    研究課題名: インターリアリティ
    代表者: 井庭 崇(慶應義塾大学総合政策学部)


    本年度は本資金の支援を受けた結果、ネットワーク科学、創造的コラボレーション、集合知等に関する研究者との交流、および共同研究の調整・開始が実現できた。以下では、その主な活動を報告する。



    ■ 米国ボストンの研究者と交流 (2010年11月)

      ノースイースタン大学の複雑ネットワーク研究センター(バラバシ・ラボ)での講演を行なった。講演タイトルは、"Hidden Order in Chaos: The Network-Analysis Approach to Dynamical Systems" で、離散カオスのネットワーク分析の研究と"Chaotic Walk"(「カオスの足あと」とも呼んでいる)研究の紹介を行なった。発表の前後に、センターの若手の研究者たちとの交流し、共同研究の打ち合わせも行なった。

      また、マサチューセッツ工科大学メディアラボのシーザー・イダルゴのラボ「マクロ・コネクションズ」も訪問した。イダルゴは社会・経済のネットワーク分析を行なってきた若手研究者で、このラボは今年新しく立ち上がったものだ。市場データの分析についての共同研究の可能性について話し合いを行なった。さらに、僕が昨年1年間過ごしたマサチューセッツ工科大学集合知研究センターも訪れ、最近の動向など研究の話をした。それ以外にも、現地にいる研究者/学生(日本人も含む)とたくさん交流ができた。




    ■ The Second International Conference on Collaborative Innovation Networks (2010年10月)

      本学会においては、私たちの研究成果発表とワークショップ参加を通じて、創造的コラボレーションや集合知、ネットワーク分析を行なっている研究者との交流を行なった。

      Paper Sessionで発表したひとつめの研究は、創造プロセスを記述するための方法の提案で、発表タイトルは "Autopoietic Systems Diagram for Describing Creative Processes" である。この発表は、COINs2009で発表した「創造システム理論」にもとづいて、創造プロセスを記述するための記法「創造システム・ダイアグラム」を提案した。そして、「カオスの足あと」の研究の最初の段階の創造プロセスを、実際にこの記法で記述した。

      創造システム理論にもとづいて、創造プロセスを記述するための記法が、「創造システム・ダイアグラム」である。創造システムの要素は《発見》であり、《発見》は《アイデア》、《関連づけ》、《ファインディング》から成り立っている。創造システム・ダイアグラムでは、どのような《アイデア》がどのように《関連づけ》られ、どのような《ファインディング》があったのかを記述していく。創造システム理論の基本のビューは《発見》の連鎖を描く「要素ビュー」、多くの《発見》を束ねる「プロセス」の関係を記述するビューが「プロセス・ビュー」、それぞれの《発見》がどのような環境要因によって成り立ったのかを記述するのが「環境ビュー」である。昨年の創造システム理論の発表と同様、多くの方からよい反応をいただけた。

      もうひとつの発表は、パターン・ランゲージの制作のプロセスに関する研究で、発表タイトルは "How to Write Tacit Knowledge as a Pattern Language: Media Design for Spontaneous and Collaborative Communities" である。パターン・ランゲージをどうやってつくるかという方法/プロセスについては、これまでほとんど語られてこなかった。パターン・ランゲージをつくるということは、個々のパターンを書くということのみならず、それらの関係性の総体としてのランゲージをつくるということでもある。それをどのようなプロセスで行うのかということを、僕らの学習パターンの経験を踏まえながら紹介した。この発表に対しての反応も非常によかった。なかでも、パターン・ランゲージの新しい動向について有益な情報をくれた方がいて、新しい共同研究の話につながった。

      さらに、開催された多くのワークショップ、"Basics of Social Network Analysis"、"Coolfarming training"、"Innovation Made Physical: Bodystorming"、"Service Design Thinking"、"Virtual Collaboration: Global Teaming"、"Collaborative Social Change: Designing for Impact"に参加し、この分野の研究者との交流をはかった。このほかにも、私が昨年度客員研究員をしていたマサチューセッツ工科大学集合知研究センターのピーター・グロア氏による「Coolhunting Academy」のチュートリアルにも参加した。彼の開発しているツール「Condor」の新しい機能を含めた使い方を学び、自分たちの最近の研究について紹介し合った。



    ■ International School and Conference on Network Science 2010 (2010年5月)

      本学会においては、私たちの研究成果発表とワークショップ参加を通じて、創造的コラボレーションや集合知、ネットワーク分析を行なっている研究者との交流をはかった。本学会では、物事の動きを捉えるためのネットワーク分析の新しい使用方法についての提案を行なった。発表タイトルは、"Network Analysis for Understanding Dynamics"である。



    ■ 本活動に関連する研究成果

    • Takashi Iba, "Network Analysis for Understanding Dynamics", International School and Conference on Network Science 2010 (NetSci2010), May, 2010
    • Takashi Iba, "Autopoietic Systems Diagram for Describing Creative Processes", 2nd Conference on Collaborative Innovation Networks (COINs2010), Oct., 2010
    • Takashi Iba, Mami Sakamoto, and Toko Miyake, "How to Write Tacit Knowledge as a Pattern Language: Media Design for Spontaneous and Collaborative Communities", 2nd Conference on Collaborative Innovation Networks (COINs2010), Oct., 2010
    • Takashi Iba, "Hidden Order in Chaos: The Network-Analysis Approach to Dynamical Systems", Center for Complex Network Research (CCNR), Northeastern University, Nov., 2010
    • 四元 菜つみ, 井庭 崇, 「Wikipediaにおけるコラボレーションネットワークの成長」, 情報処理学会 第7回ネットワーク生態学シンポジウム, 2011
    • 北山 雄樹, 井庭 崇, 「書籍販売における定常的パターンの形成原理」, 情報処理学会 第82回数理モデル化と問題解決研究会, 2011
    • Noriko Chujo, Takashi Iba, "A Pattern Language for Child Rearing", 2nd Asian Conference on Pattern Languages of Programs (AsianPLoP 2011), 2011
    • 清水 たくみ, 井庭 崇, 「集合知パターン試論: 戦略策定におけるweb上の集合知活用に向けて」, 2nd Asian Conference on Pattern Languages of Programs (AsianPLoP 2011), 2011