韓国の環境外交と北東アジア

−「ESCAP・北東アジア環境協力高級事務レベル会議を中心に」−

政策･メディア研究科・博士課程　　　3年

�｢　潤　(べ　ユン)

【研究目的】

本研究の目的は「ESCAP・北東アジア環境協力高級事務レベル会議」がどのように、そしてなぜ形成したのかを明らかにすることである。とりわけ、国連の包括的プログラムを活用しながら域内の「グレーゾン」である北朝鮮の参加をいかに促したかその交渉過程をみることで北東アジアにおける韓国の環境外交の役割及び方向性に政策的なアイディアを示すことである。

【問題の所在】

　研究の目的は「ESCAP・北東アジア環境協力高級事務レベル会議」の形成過程を中心に北東アジアにおける韓国の環境外交の役割を明らかにすることである。

これまで北東アジアは、国家間の複雑な歴史関係から冷戦時代の残滓が残る地域とされ、地域の意識が希薄であるとともに、具体的な協力や連携がほとんど行われてこなかった。

一方、現在の環境協力には冷戦の終焉とともに中韓国交正常化及び韓露国交正常化のような当地域における外交関係の変化が大きく影響したと思える。確かに、域内をめぐる外交関係の変化は構造にも影響を与えたと思われるが、北東アジアのように経済・体制の多様性が存在し、様々な利害関係が交錯する環境問題において協力関係が認識されるのであろうか。この点が本研究の問題意識である。

本研究の問題意識と似た研究には日本の環境外交における優位な立場を懸念する愼 連

縡『東北亞環境問題와 地域環境協力의 摸索』、韓国がODAの被援助国を卒業したが、環境分野での先進国としての力不足を指摘する安藤　博「日韓環境協力の現状と展望」、途上国に「強制力」を課すより「緩やかなシステム」であるべきと中国の視点から主張する南正院『東北アジアにおける経済開発と環境保全』、北東アジアをめぐる様々な環境レジームの紹介と国際機関の重要性に着目したHyes,Peter & Lyuba Zarsky「Environmental Issues and Regimes in Northeast Asia」、日中韓をめぐる環境問題に対する懸念に終始している寺西俊一『環境共同体としての日中韓』、北東アジアの環境レジームの現状と問題点を指摘する鈴木克徳の「北東アジア開発の展望「環境問題と域内協力」」などがある。

　しかし、上記の先行研究は北東アジアの環境レジームの開催においてほとんどの第一回目が韓国であること、日本からの環境協力によって「学習者」であった韓国が「支援者」に変わったこと、日本の「アジア太平洋中心」と韓国の「北東アジア中心」がパートナーシップや「東アジア」の概念で収斂されつつあること、とりわけ韓国は最も開発が遅れている北朝鮮と国境を接し、微力でありながら環境協力を進めている点に注目してないのである。現在、七つ存在する環境レジームに北朝鮮が参加しているのは「北西太平洋海行動計画」、「エコ・アジア」、「ESCAP・北東アジア環境協力高級事務レベル会議」の三つが存在する。しかし、海洋汚染を扱う「北西太平洋海行動計画」とアジア太平洋の諸国で形成されている「エコ・アジア」での北朝鮮は消極的である。

こういった北朝鮮の姿勢に対し、韓国の立場から見れば海洋汚染、大気汚染、黄砂のような越境性問題解決には「グレーゾン」としての北朝鮮が最も懸念事項である。

さらに、二国間環境協定が締結できない状況の中、韓国はいかに北朝鮮を経済・開発・環境など包括的枠組みである「ESCAP・北東アジア環境協力高級事務レベル会議」へ参加を促したのか。本研究の意義は国連の包括的プログラムを活用しながら域内の「グレーゾン」である北朝鮮を含めた六カ国で構成したレジームである「ESCAP・北東アジア環境協力高級事務レベル会議」の形成過程を明らかにすることで今後、韓国の北東アジアにおける環境協力の役割及び方向性に一助することである。

【研究手法】

�@ フィルドワーク

　　−バンコク、ESCAP：資料収集

　　　「ESCAP・北東アジア環境協力高級事務レベル会議」は1985年以来五年ごとに「アジア太平洋環境大臣会議」から1993年に作られた新しいレジームである。

　　　　その前は 「ESCAP 産業・技術・人間居住環境委員会」が1977年から開催されてきたのである。

　　　　韓国の外交通商部から出向している参事官とのインタビューを行う。

　　−韓国の外交通商部：「ESCAP・北東アジア環境協力高級事務レベル会議」は外交通商部が主要な担当機関であるためインタビューを行う。

　　−韓国の保健福祉部：1970−80年、保健社会部の公害課の資料

　　−韓国の環境部：1980−1990年、環境庁−環境処−環境部の資料

�A 文献調査

−「ESCAP 産業・技術・人間居住環境委員会」の議事録

−「ESCAP 産業・技術・人間居住環境委員会」の成果報告書（韓国）

　　−「アジア太平洋環境大臣会議」の議事録

−「アジア太平洋環境大臣会議」の成果報告書（韓国）

−「韓・ ESCAP会合」の議事録

−「韓・ ESCAP会合」の成果報告書

　− 韓国の外交白書

　− 韓国の環境白書

【研究スケジュ−ル】

�@ 2007年9月2日−12日

−タイ、バンコク、ESCAP本部にて資料調査

�A 2007年11月26日−12月26日：ソウルにて資料調査

【調査内容】

●UNESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)にて資料調査

調査期間：2007年9月1日−9月12日

調査地：タイのバンコク、UNESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)

調査内容：冷戦期から国連機関を通して東アジア諸国は環境大臣会議を行ってきた。代表的には1985年から始まった「UNESCAP環境大臣会議」である。この会議により「行動計画」や各国の役割などが議論された。一方、冷戦の終焉とともに環境をめぐるいわゆる「南北問題」や開発中心の議論は実際に存在する環境問題への対応能力に関心が寄せられた。そこで、2000年、第四回の北九州イニシアチブでは日本の公害防止の経験の出伝播が謳われた。そして、2005年、第五回のソウルイニシアチブでは「Green-Growth」が謳われたのである。UNESCAP環境大臣会議の資料収集と以下のインタビュを行った。

�@ UNESCAPのChung環境局長（韓国外交通商部出身）

�A NEASPECのNam担当官

�B UNEPのAhn研究員（韓国環境部出身）

�C UNESCAPのNa研究員（韓国環境部出身）

�D UNESCAPのIchimura研究員（日本政府）

�E UNESCAPのPark Heung-Kyeong研究員（韓国外交通商部出身）

�F UNESCAPのPark soo-young研究員（韓国国際協力事業団出身）

●ソウル資料調査

　調査期間：2007年11月26日−12月26日

調査地：韓国、ソウル

調査内容：

（1）用務地

�@ 国会図書館：韓国における一次資料及び二次資料の調査

�A 科学技術部：環境技術の開発と環境産業の育成に関する資料調査

�B 韓国環境政策評価院：当研究院が行っている様々なパ−トナシップの調査

�C 産業資源部：環境産業の育成に関する資料調査

�D 外交通商部：韓国のFTA戦略と環境配慮に関する資料調査、北東アジアの環境協議体に関する資料調査

（2）＜文献調査＞

�@国会図書館

　 　・韓国の外資誘致30年史

・韓国の法制史50年

　　・先導技術開発プロジェクトの年次報告書

�A科学技術部

・1960年代から産業技術の育成及び環境産業の導入に関する報告書

・北朝鮮の環境問題に関する資料

　 �B環境政策評価院

　　・北朝鮮との協力に関する資料

�C産業資源部

　　 ・科学技術と産業技術に関する政策（環境）に関する報告書

　 ・韓国のサービス産業の海外移転に関する報告書

　 ・北朝鮮との協力に関する資料

�D外交通商部

　　 ・NOWPAPの参加報告書

　 ・NEASPECの参加報告書

　 ・韓国の二国間環境協力協定に関する資料

（3）＜インタビュ−内容＞

　 �@KEI

     KEIは中国及び東南アジア諸国へ知識伝播事業など環境関連事項に対する教育及びモニタリング事業の推進関している。また、黄砂など北東アジアの環境懸案に対する共同対応のためにTEMM、北朝鮮との環境協力事業など国際的、地域的、国家的環境協力事業の推進及び環境協力の強化方案を研究している。

　　 地球次元の持続可能な発展を先導するため、温室効果ガスの減縮に対する国際的圧力に対応し、国内対応基盤を整えるとともに交渉戦略など多角的な対応方案を作成している。OECD環境成果評価に関する全般的な環境分野改善及び対処能力を強化している。

　　　とりわけ、知識伝播事業はWorld Bankと共同で行いながら韓国国際協力事業団（KOICA）との連携を図っている。具体的には中国の砂漠化防止の植林事業、モンゴルの風力発電事業、ベトナムの環境保全計画をパートナ−シップを通して実施している。そして、これまで北東アジア中心であった韓国は日本のIGESとパートナ−シップになることによりアジア太平洋における環境協力を進めつつある。

　こういった状況の中、北朝鮮には二国間協定が容易ではなく、人道的な支援をする形で環境協力を進める必要がある。具体的に北朝鮮の経済発展のためには「開発」を念頭にいれながら実現可能性が高い事業から始まることである。

　 �A産業資源部

　　　韓国の産業資源部は1980年代から環境産業の育成にかかわってきた。はじめは国内企業の規制緩和そして、環境技術に関する模範事業などを行った。

　　　しかし、先進国の環境産業の技術と大きな隔たりがあるゆえに国内企業の保護に関する議論がなされたのである。

　　　貿易自由化に伴い、サービス産業の国際競争力を図るため、環境産業の移転やそれに関連するサ−ビス産業を育成し海外進出する計画を設けているのである。

　　　当分、北朝鮮との協力には政府主導の下民間企業が進出することであり、環境分野は環境影響を低減する技術を積極的に採用することである。

　�B外交通商部

　　　従来、韓国は国際条約を優先して環境外交を展開してきた。しかし、地域主義の台頭と貿易の重要性が高まる中、北東アジアの環境協力に重点を置きつつある。

　　　とりわけ、海洋汚染、大気汚染などの越境性環境問題における「協議の場」を設けるとともに環境部が行っている環境協力体との連携を模索中である。

　　　訪問した際、ちょうど「テアン海岸の油流出事故」が生じ、NOWPAPの機能と役割について伺えることができた。

　　　貿易と環境に関しては諸外国の先行事例を参考にしながら韓国に的確なFTAになるよう交渉を行っている。

　　　北朝鮮との協力は未だ、安全保障の観点から慎重に対応することが必要である。

【結論】

　本研究の目的は「ESCAP・北東アジア環境協力高級事務レベル会議」がどのように、そしてなぜ形成したのかを明らかにすることである。とりわけ、国連の包括的プログラムを活用しながら域内の「グレーゾン」である北朝鮮の参加をいかに促したかその交渉過程をみることで北東アジアにおける韓国の環境外交の役割及び方向性に政策的なアイディアを示すことであった。

　上記の調査を踏まえ、現在、北朝鮮をめぐる環境協力のアプロ−チは三つが考えられる。一つ目は北朝鮮の「開発」を促すための経済協力である。基本的インフラ整備と公衆衛

生などを国際機関から支援することである。

　二つ目は「安全保障」というハイ‐ポリティックスの分野とは離れ「環境保全」という

ローポリティックスから取り組むことである。

三つ目は韓国の様々な政府機関と民間企業が環境に配慮した企業進出を試みることである。

　このようにNEASPECの交渉過程では韓国が域内の「グレーゾン」である北朝鮮にNEASPEC

という「協議の場」を活用し、「当事者」として環境協力を推進していると思われる。