2008年度森泰吉郎記念研究振興基金 研究助成金申請書活動報告
RFIDを用いたタンジブルな情報検索インタフェース
境 賢太郎
政策・メディア研究科修士課程2年
学籍番号:80724601ログイン:ksakai
はじめに
今日,現代の消費社会において、店頭に並ぶ商品の品揃えの豊富さから,購入したい商品の選択に悩まされる場面に多く遭遇する.近年では,オンラインショッピングの高度な推薦機能を用いることで,消費者は自分のニーズに合った選択肢の候補に絞り込むことが可能になった.しかし類似した色・形・柄などの特徴を持つ商品が多い状況として,特にファッションにおいては,複数の商品を直接手に取って試したり,実世界の店舗で服装の組み合わせを吟味しながら比較検討して決定することが望ましい.一方で,現状の店舗では,こうしたファッションの組み合わせのお手本となる情報源を手軽に利用しながら比較検討できる手段が制限されているため,適切な商品の候補を選びやすくするための商品検索とその情報提示手段が不足している.そこで本研究では,生活者の“ショッピング”という日常的な行為を支援するインタラクションとして,店舗での利用を想定した商品比較支援として,タンジブルな実オブジェクトである商品の現物を用いた実世界指向型商品検索システムiDrobeを提案し,そのプロトタイプを試作した.
ファッションの組み合わせ検索システムの提案
iDrobeは,店舗で手軽に扱える洋服ラック型コンシェルジュの役割を持ち,類似した品揃えの中から,比較検討のしやすさを意識した商品の検索と指定を支援してくれるという特徴からなる.
本システムは実世界の店舗において多くの類似した特徴を持つ品揃えの中から,ユーザーが組み合わせたいファッションアイテムを考慮した選択肢の提供を支援してくれる,いわばコンシェルジュの役目を果たすシステムである.そして,コンピューティングシステムによって店舗空間と人間の行為を拡張することで,検索対象となる商品の現物が掛かったハンガーへの直接的な情報提示を行い,類似した品揃えの中から商品を選びやすくすることを支援している.尚,iDrobeの主要なコンセプトは次の2点である.
1.店舗で手軽に扱える洋服ラック型コンシェルジュ的役割
・iDrobeでは,商品を選びやすくする方法として,店内で蓄積される試着された商品同士の組み合わせ情報を登録することで,アイテム同士の関連性を商品比較に反映することで選びやすくする支援方法に着目した.
・値札型RFIDタグを用いることで検索の対象となるアイテムの現物を台座の上に載せる行為を用いるのみで,複雑な操作を必要とすることなく情報入力を完結できる手法を提案する(図1).
図1.値札型RFIDタグを装着した商品(左)/直感的な入力操作(右)
2.日用品と一体化した情報提示
iDrobeでは,ユーザーが複数の商品を手にとって比較する,店舗で「商品を選ぶ」という行為を妨げないよう,実オブジェクトである現物の商品への直接的な情報提示を実現する.そして,ファッションにおいて,個々の服との結びつきが強いハンガーを,情報提示デバイスのメタファとして利用した(図2).
図2.ハンガーを用いた情報提示デバイス
iDrobeの実装
本研究では,上述したコンセプトを踏まえ,実世界の店舗で類似した商品を比較検討しやすくするための情報提供を目的とした,実オブジェクトを用いたファッションの組み合わせ表示システムiDrobeを実装した.前述したとおり,iDrobeは実世界の店舗において多くの類似した特徴を持つ品揃えの中から,ユーザーが組み合わせたいファッションアイテムを考慮した選択肢の提供を支援してくれる,洋服ラック型情報システムである(図3).
図3.iDrobeのスナップショット
1.ハードウェア構成
試作システムでは,ファッションの組み合わせを表示する情報提示デバイスは,商品であるファッションアイテムの掛けられたハンガーと,そのなかに組み込まれた高輝度LEDとマイコン,およびその周辺回路からなる.また,アイテム同士の組み合わせの登録を行なう情報取得として,商品に装着された値札型RFIDタグと,それらを取得する13.56MHz周波数帯のRFIDリーダーライターとRFIDアンテナを利用する.そして,ホストサーバーで処理された組み合わせを処理して,情報提示部であるハンガー側と通信するため,洋服ラックに赤外線送信機を組み込み,赤外線LEDとその周辺回路を利用した.
以下に,iDrobeのハードウェア構成図を示す.
図4.iDrobeのハードウェア構成図(上)/システム構成図(下)
2.システム構成
試作システムは,RFIDアンテナ/RFIDリーダーライター部,マッチング処理部,赤外線通信制御部,情報提示部と大きく4つの要素より構成されている.図4に,iDrobeのシステム構成図を示す.
今後の展望
今後の展望として,実店舗での応用と,ファッション以外のジャンルにおける商品検索の分野で評価を行い,日常生活におけるショッピングの支援手法としてのiDrobeシステムの汎用性を検証していく.
本研究の対外発表
境賢太郎, 羽田久一, 安村通晃, iDrobe: RFIDを用いたファッションコーディネート結果の表示システムの試作, ヒューマンインタフェースシンポジウム2008論文集(DVD収録),pp.1157-1162(2008年9月).