1.研究課題名
「流体のデジタル制御を利用した内装・装飾装置の開発」
研究概要:
当研究の目的は、液体や粒子系などの流体物質デジタル制御することで生まれる多様な流体表現を応用した内装・装飾装置を研究開発することである。
その一例として、熱対流現象を利用した流動制御実験装置を制作し、熱流動による様態表現の研究を行いつつ、それを応用したテーブルや等の内装コンポーネント企画、開発を行っていく。また、同時並行でその他の新しい流体表現の着想も得て行くことにする。
報告:
オイルの熱対流現象を利用した流体装飾装置をインテリア用品に応用することを前提とした基礎研究を行った。
装置の基本構成はガラス容器の中に、銀色のトレーサー粒子を含んだシリコーンオイルを注ぎ、容器底面に配置したニクロムヒーターをコンピュータを介して制御する仕組みになっている[Fig.1]。
また、その他の流体素材として、霧を構造化する為の実験を行った。
【実験1】
<概要>
熱対流による装飾装置を様々なサイズのインテリア用品に応用するため、同一粘度において、ヒーターの熱量を変化させた場合の対流スピードの変化を調査した。
粘度は10CS、ヒーターの抵抗値は約2Ωで、深さがゼロとなる位置にヒーターを配置し実験を行った。
<結果>
発熱量と対流スピードの調査結果をfig2にまとめた。縦軸は、円形に広がる対流の面積、横軸は加熱開始からの経過時間である。
【実験2】
<概要>
テーブルや、床などに応用することを考え、ガラス蓋をオイルに密着させた際のパターンへの影響の調査と、パターンバリエーションの拡大の為の実験を行った。なお、蓋とオイルを密着させる理由は、テーブルや床として応用した場合に、設置の際に、オイルの油滴やトレーサ粒子が蓋に付着して肝心の流体パターンが見づらくなってしまうのを防ぐためである。
オイルに蓋を密着させた状態と、蓋のない状態でパターンの違いを観察する。
fig3が蓋有り、fig4が蓋無しのムービーである。
<結果>
蓋をオイルに密着させた場合、対流が広がるスピードが極端に遅くなる、対流の境界線が曲がってしまう、という結果が出た。この結果により、蓋で封をする際、密着させずに、オイルと蓋との間に空間を設ける必要があると評価出来た。付着した油滴や粒子は、ワイパーなどで除去する仕組みを備えるなどして対応していく必要がある。
【実験3】
パタンバリエーションの拡大の為に、熱源の配置を様々に変えて実験を行った。
<結果>
熱源を千鳥状に配置することで、六角形のパタンを描くことに成功した。fig5はその実験映像である。
【実験4】
<概要>
オイル以外に、超音波振動子や ドライアイスによる霧の構造化実験を行った。
この実験も、オイルと同様に、ガラス容器内に霧を満たし、ヒーターで熱対流を起こす装置と、PCファンによって流れを作り出す装置の2種類の装置で実験を行った。
また、レーザーシート法を用いて、霧の流れの断面を可視化する方法を実験した。
<結果>
今回の実験では、霧を用いた装飾の実用化に繋がる実験結果が得られなかった。一方で、これら粉流体を装飾素材として用いる為の要点を、この実験によって把握することができた。
要点を以下にまとめる。
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•粉流体を装飾として楽しむには、容器内に粒子の疎密をつくりだし、それをパターンとして可視化する必要がある。
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•空気は粘度が低く、乱流が発生し易いため、乱流を起こしやすい粒子発生法、流体制御法は利用に適していない。
今回試用した発生法、制御法は、上記の要点を満たしておらず、望ましい結果が得られなかった。
今後の研究に、この実験の失敗によって明らかになった要点を活かして行く所存である。
また、レーザーシートによる流体の可視化については、日常空間の明るさ(やや暗めの空間)の中で装置を利用することを考えると、200mw級程度のグリーンレーザー、60度〜75度の拡散用レンズ、光源から1m程度の範囲で照射する必要があることが把握出来た。
人間が最も感知し易いグリーン以外の色を使用する場合は、これ以上の照度が必要と予測出来る。
【展示報告】
2007年8月から、2008年の8月まで予定されていた、Ars Electronicaセンターでの流体装飾装置の展示( fig.6 )が、好評につき2008年10月まで延長展示された。