近年,GPSと高機能な携帯端末の普及を背景に,ユーザの位置情報にもとづいたサ ービスLBS(Location Based Services)が増えてきている.このLBSは,そのインタ フェースに着目すると,大きく2種類に分けられる.1つは,Googleマップに代表さ れる,平面地図を用いて上空からの目線で情報を閲覧するサービスで,これを本研究で は,鳥目線ビューワーと呼ぶ.もう1つは,セカイカメラに代表される,人の目線で街 の情報を閲覧するサービスで,これを人目線ビューワーと呼ぶ. こうしたLBSについては,これまで,技術的視点から多くの研究が行われてきた. しかし,一方で,LBS が人の移動行動にどのような影響を及ぼすかという,ユーザの 視点からの研究はあまり行われておらず,特に,人目線ビューワーについては,未だ有 効な利用シーンは明らかになっていない.サービスの組み立て方や,ビジネスモデルも 手探りの状態である. そこで本研究では,人目線ビューワーの特徴を抽出することを目的とし,人の街探索 行動や場所に対する認知特性を検証する街探索実験を実施した.具体的には,まず,交 差点からユーザの目線で,街の情報メニューを閲覧する人目線ビューワー“街メガネ” のプロトタイプを作成した.次に,認知地図を用いた街探索実験によって,街メガネの プロトタイプと鳥目線ビューワーとの比較を行った.その結果,人目線ビューワーの特 徴として,@「街を区分するエッジを越えさせ行動範囲を広げる」,A「余計なことや 楽しいことなど様々な発見を誘発する」B「目的が明確な街歩きにも適する」という知見を得た.
近年,人の街頭における移動行動をとりまく環境は,劇的に変化した.例えば,休日 の午後,友人とランチの約束をしたシーンを思い浮かべる.数年前ならば,事前にその 場所に詳しい別の友人にお薦めのレストランを尋ね,料金や営業時間,店までの行き方 などをメモに書き留めていたかもしれない.それが現在では,当日友人と落ち合った後, その場で,携帯電話を開いてネット上の口コミ情報から自分たちの好みに合った店を探 し出し,さらに,携帯電話が案内する道順に従って目当ての店まで辿り着くといったこ とが可能となった. GPSと高機能な携帯端末の普及を背景に発達している,このようなユーザの位置情 報にもとづいたサービスは,LBS(Location Based Services)と呼ばれている.この LBSは,位置情報取得型サービスと,位置情報取得型に機能を付加した移動支援型サ ービス,そして環境情報取得型サービスの3つに分類できる[Kohiyama05].本研究で は,その中でも,ユーザの現在位置を取得する位置情報取得型サービスをもとに,ユー ザの街頭における移動行動を支援する移動支援型サービスをLBSとして扱う. LBSはそのインタフェースに着目すると,さらに大きく2種類に分けられる.1つ は,平面地図を用いて上空からの目線で情報を閲覧するサービスである.本研究では, これを鳥目線ビューワーと呼ぶ. 鳥目線ビューワーの代表例が,Google マップ[Google10]である.iPhone や携帯電話で動作するGoogleマップは,ボタン1つで現在地周辺の地図を表示する. さらに,「映画」や「カフェ」など,ユーザが入力したキーワードに従って,目的に合 うスポットを探し出し,候補をいくつか表示する.候補のリストから,店の詳細や口コ ミ情報のページにアクセスすることもできる.目的地を決めたら,経路案内図を表示さ せることも可能である. LBSには一方で,人の目線で街の情報を閲覧するインタフェースもある.これを鳥 目線ビューワーに対して,人目線ビューワーと呼ぶこととする.人目線ビューワーは, 最近の拡張現実(AR)系サービスの流行で,にわかに注目を集めている. 人目線ビューワーの代表例が,AR系サービス,セカイカメラ[Tonchi10]である.セ カイカメラはiPhone専用のアプリケーションで,内蔵カメラによって取得した実空間 映像上に,その場所や対象物に関連づけられた「エアタグ」と呼ばれる文字や画像,音 声からなる情報を重ねて表示する.エアタグは,ユーザによって自由に付加され,共有 される.表示内容は,加速度センサ及び地磁気センサと連動しており,ユーザのいる場 所や向いている方向に応じて変化する. こうしたLBSについては,これまで,GPSや,電子タグ,センサ,無線端末など, 技術的視点から多くの研究が行われてきた.しかし,一方で,LBS が人の移動行動に どのような影響を及ぼすかという,ユーザの視点からの研究はあまり行われていない. それでも,鳥目線ビューワーは,地図という昔から人にとって馴染みの深いインタフェ ースを用いているため,Google マップをはじめとして,多くのユーザによって親しま れ,日常的に使用されるようになってきている.しかし一方で,人目線ビューワーにつ いては,未だ有効な利用シーンは明らかになっていない.ごく最近になってサービスが 開始されたこともあるが,実空間にネットの情報を重ね合わせるというインタフェース は,画期的で,ユーザにとって未知の部分が大きいためである.さらに,サービスの組 み立て方や,ビジネスモデルも手探りの状態で,人目線ビューワーをめぐる市場は発展 途上にある.
本研究は,人の街探索行動や場所に対する認知特性を検証する街探索実験を実施し, 人目線ビューワーの特徴を抽出することを目的とする. 具体的には,まず,交差点からユーザの目線で,街の情報メニューを閲覧する人目線 ビューワー“街メガネ”のプロトタイプを作成する.次に,プロトタイプを用いた街探 索実験を,鳥目線ビューワーの代表的事例であるGoogleマップと比較して行い,被験 者の街探索行動を観察する.さらに,被験者へ認知地図作成課題を課すことで,人目線 ビューワーと鳥目線ビューワーがそれぞれ,場所の認知へ及ぼす影響を知る手がかりと する.その際,街歩きの目的の有無や男女による違いについても併せて検証する. それらの結果を用いて,人目線ビューワーの特徴を抽出し,利用シーンやターゲット ユーザなど,サービスのデザインやマーケティングの指針に結びつけるための知見を得 る.
リアルな街歩きでは,初めて訪れた街で,高いところへ上って街の実風景を確認する ことがよくある.そして,地図やガイドブックを片手に街の風景を眺めながら,それら から得た知識を街の風景に重ね合わせる.このような行為を,ネット世界の情報検索に 置き換えて考えてみると,街の情報メニューを自然に頭の中に描いていると言うことが できる. 街メガネは,このように人の頭の中にしか存在しなかった,街の情報メニューを交差 点の周辺で視覚化し,街歩きにおけるメニュー検索を可能にすることをコンセプトとす る.
街メガネのプロトタイプはiPhone3Gで動作するウェブアプリケーションとして作成した (デモ動画を再生).プロトタイプの仕様は予備実験を用いて検討した.
人目線ビューワー“街メガネ”と、鳥目線ビューワー “Googleマップ”(以下、Gマップ)について、各ツールを使用した時の被験者の街探索行動や、場所の認知への影響を比較した. 実験方法は,予備実験を実施て検討した.
(1)実施日時 予備実験は,2009年11月7日~12月19日の間,計8回実施した.いずれも午前 11時頃~午後3時頃の間に実施した.所要時間はいずれも2時間程度だった.なお, 実施時の天候は,11月7・18・20日,12月19日が晴れ,11月29・30日,12月4・ 9日が曇りだった.11月上~中旬は歩いていると,少し汗ばむ程度の暖かさがあったが, 11月下旬以降は,気温が下がり,12月中は手がかじかむほどの寒さとなった. (2)実施場所 街自体の面白さが被験者の場所の認知に及ぼす影響を考慮するため,一見何の 面白みもない郊外の街である神奈川県大和市に位置する中央林間駅周辺を実験実施場所として選定した.
実験結果として、被験者によって描かれた12枚の認知地図を示す。
・ 被験者の数を増やして、同様の実験を行う ・ 街メガネにおける適切な情報量、表示方法についての検討 ・ ユーザの性別や場所の特性との交互作用の分析
・土橋美佐,小川克彦,“電子コンパスを用いた街探索の提案と実践”,情報処理学会第71回全国大会, 2009年3月. ・Misa Tsuchihashi,Katsuhiko Ogawa,“A Study on the Interface for Viewing the Information Menu of a Town from Intersections Using a Digital Compass”, HCI International 2009, July,2009. ・土橋美佐,小川克彦,“街を探索するための人目線ビューワーの提案”,ヒューマンインタフェースシンポジウム2009,2009年9月.