2011年度森泰吉郎記念研究振興基金　研究助成金報告書

『アートプロジェクト効果を促す「音声まちあるき」構築』

政策•メディア研究科修士課程１年　大西未希

【研究背景】

　近年、地域振興を目的としたアートプロジェクトは各地で行われており、「越後妻有アートトリエンナーレ」や「瀬戸内国際芸術祭」の成功は記憶にも新しい。しかしながらアートという一般化しづらいものを扱うため「どの程度地域振興できているのかわからない」「効果があるのか」といった疑問の声も増えており、2010年の政策の一環である事業仕分けでも文化振興の必要性について厳しい声が挙がった。行政からのアプローチのみでは、地域振興のためのアートプロジェクトを行うことも困難になることが予測される。

　そこで注目したいのが、任意団体やNPO法人、企業の出資によって行われている小•中規模アートプロジェクトである。それぞれの地域にある団体や企業が主体となっているため、地域住民へ根付くことが期待され、また低コストで行うことのできるアートプロジェクトも数多く存在する。この点に注目し、私は大学学部時代に、東京都立川市の文化振興を行う任意団体「立川計画」を立ち上げ、アートプロジェクト「FARET TUBE 2010」[1]を運営した。

　この経験をふまえ、小•中規模アートプロジェクトの課題はイベント自体の情報発信力の弱さであることを実感している。現状、各地で行われるプロジェクトの情報を集めることは難しい。理由として、公的な活動として行われるものが少ないことや、遠隔地の活動を知るすべは口コミや美術関係のルートに流されているチラシやDMでしか知る事ができないことが挙げられる（1997、橋本）。大規模アートプロジェクトにも言えることであるが、会期中以外にプロジェクトや地域の文化資源について知る媒体がなく、アートプロジェクトが一回性の企画として存在し、継続的にまちの文化を発信していないことが要因のひとつと考えられる。これではアートプロジェクトの効果が地域や近隣住民に限ってしまい、本来の目的である地域への誘致が行われなくなってしまう。

　ここで本研究は、アートプロジェクトの発信を強めるためのコンテンツ提供を行い、それにより人々へのアートプロジェクトや地域の文化に対する認知度、まちへの満足度をはかりたい。今年度行われる「FARET TUBE 2011」と連携し、地域の文化資源をもとにまちあるきを促す音声ガイドコンテンツの制作を行う。同時に連動した地図つきの冊子の配布を行い、アートプロジェクトとまちとの繋がりを深めたい。アートプロジェクトを一回性のものでなく、継続的に地域に根付かせることや、継続的に発信されることでの他地域の市民からの関心を呼ぶことを目指し、小•中規模アートプロジェクトの課題であった「発信力の弱さ」を克服する。また、このことにより今後の地域振興において注目される小•中規模のアートプロジェクトの、各地域で応用可能なモデルとして提示していきたい。

　筆者は昨年度より、東京都立川市を舞台にアートプロジェクト「FARET TUBE（ファーレチューブ）を立ち上げ、運営した。継続的に企画を行うために、現在は筆者が所属していた法政大学荒川ゼミ生が構成員となる任意団体「法政大学文化振興団体　立川計画」に引き継ぎを行い、企画運営を行っている。

　実際の運営にあたり実感したことが二点ある。第一に、若手アーティストの作品発表の場づくりを行うためには「地域」とアーティストのつながりをつくることが大きな意味を持つようになること。第二に、行政や企業も地域への誘致のために文化／アートの要素を取り入れたいと考えていることであった。この両者をつなぎあわせ、アートプロジェクトを通じて協働制作を行うことにより、まちづくりに携わる新たなプラットフォーム形成がなされる。このことに注目し、民間団体の行うアートプロジェクトの発信力を強め、各地でアートプロジェクトを行うことのできる土壌をつくりだしたいと考え、発信力を強めるための媒体制作を、自身の起こした「FARET TUBE（以下、本企画）」を事例として行うことを研究として設定した。

■研究方法

　本研究は、東京都立川市を舞台に行われるアートプロジェクト「FARET TUBE 2011」と連携して行う。この企画は申請者が大学学部時代に立ち上げた任意団体「法政大学文化振興団体　立川計画」が主催し、昨年度よりはじまったプロジェクトであり、2011年５月から１２月にかけ行われる。立川市にある文化資源「ファーレ立川」の魅力を再発見することを目的とし、若手のミュージシャンと映像クリエイターとの協同で「ファーレ立川」を題材にしたミュージックビデオの制作をし、上映会を行う。

　題材となる「ファーレ立川」については、立川市の運営する「立川アートコレクションホームページ」にて作品紹介があるが、作品の意図や作家についての記載がなく、もともとアートに関心のある方への情報となってしまっている。文化資源を「まちの一部」として捉えるため、本研究ではファーレ立川の作品をまちの景観として発信する「まちあるき音声ガイド」の制作を目指し、まずはアーティストとともにまちを歩くフィールドワークを行う。そのなかで必要となるコンテンツづくりをアーティスト、行政、飲食店など立川に関わる市民の方とともに行う。

■ 研究スケジュール

５月～8月　立川市文化資源フィールド調査

９月　　　　　「ファーレ立川」ガイドツアーを主催する民間団体「ファーレ倶楽部」ほかによるファーレ立

　　　　　　　　川ツアー、アーティストと共にフィールド調査

10月　　　　「FARET TUBE 2011」ミュージックビデオ制作

12月　　　　広報活動

1月～２月　アンケート調査結果分析•報告書執筆　　

■研究成果

　本年の活動を通じ、立川市役所、立川青年会議所、立川商工会議所、シネマシティ株式会社、cloud café等と連携しファーレ立川付近のフィールド調査やアートプロジェクト『FARET TUBE 2011』広報を行うことができた。また、アーティストとともにフィールドワークを行うことで、参加作品であるミュージックビデオ中にアート作品を紹介するビデオを盛り込む演出がされたりと、「まちあるきガイド」制作を通じ、まちとしての魅力を発信するプラットフォームがうまれつつある。今後実際の運用を目指し、引き続き制作にあたる活動を行う。

末尾となりますが、本研究に森泰吉郎記念研究振興基金より助成いただきましたことを心より御礼申し上げます。

[1]「FARET TUBE 2010」　公式ホームページ　http://farettube.web.fc2.com/

共催：ファーレ倶楽部

 後援：立川市　　法政大学　キャリアデザイン学会　立川商工会議所　立川観光協会　社団法人立川青年会議所 　

協力：エリアネットワーク株式会社　株式会社GOODAY　シネマシティ株式会社　TTM株式会社

◆2010年度メディア掲載履歴◆　

＜新聞＞

・ 6月17日付 産経新聞（朝刊）6月30日付 読売新聞（朝刊）　7月5日付 朝日新聞（朝刊）

・ 10月9日付 朝日新聞（朝刊）11月7日付 読売新聞（朝刊）

＜ウェブニュース＞

・ 7月19日付　立川経済新聞 『音楽・映像・パブリックアートのコラボ企画－法大生ら、立川盛り上げで企画』 http://tachikawa.keizai.biz/headline/771/

・ 8月5日付　立川経済新聞 『若手ミュージシャン70組にネットで投票－法大生の企画の一環で』 http://tachikawa.keizai.biz/headline/788/ 

・ 10月12日付　立川経済新聞 『立川シネマ・ツーでミュージックビデオ上映会－学生クリエーターが制作』 http://tachikawa.keizai.biz/headline/831/

＜テレビ＞

・ 6月25日18:00放送 CATVマイテレビ『デイリーニュース・マイテレビ』

・ 10月27日18：00放送CATVマイテレビ『デイリーニュース・マイテレビ』

＜ラジオ＞

・ 7月16日放送 FMたちかわ『東京ウェッサイ』 （公式サイトhttp://www.tokyowestside.jp/tag/art/）

＜フリーペーパー＞

・ 10月1日発行 フリーペーパー『moco』特集　突撃！moco出張取材～どやねん関東～

＜携帯コンテンツ＞

・ 11月５日～15日　NTT　docomo　コンテンツ「アイコンシェル」地域イベント特集